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ホラーではありません。
先生の周りを、茶色い小さな、てるてる坊主のようなものが、ぐるぐる回っている。
「 鈴井! どうした。答えられないのか。」
先生が、言葉を発したとたん、そのぐるぐるは、高速スピンとなっていく。
てるてる坊主もどきは、回転が速すぎて、何かが回っているのはわかるのだが、もうなにが、まわっているのかもわからない。
鈴井あち子は、それをただただ、見つめることしかできなかった。
どうにかして、それをとめなくてはと、思うのだが、今目の前で、凝り広げられている、びっくりな光景に、ただ呆けているだけだった。
それが30秒ぐらい続いただろうか。
先生はこちらを見ていたが、急に目の前の教卓に両手をつき、苦しそうに下を向いた。
なんだか顔色も、悪いようだ。
「 すまない、みんな。」
先生は、絞り出すようにいうと、急に腰を下ろして、座り込んでしまった。
教室では、先生の急激な変化に、戸惑いざわざわしだした。
「 先生どうしたのかな。」
みな口々に、席の周りの子たちと、しゃべっている。
「 先生! 保健室に行って来たらどうですか。」
みなの気持ちを、代弁するかのように、クラス委員の尾山くんがいった。
「 悪いな..... そうさせてもらうか。みんな自習しててくれ。」
先生はそう言うと、のろのろと立ち上がり、教室を出て行った。
いつの間にか、先生の周りをまわっていた、あのてるてる坊主もどきが、あち子の元に、戻ってきていて、教科書に上にぐでんと横になっている。
こころなしか、いい仕事しただろうと、どや顔に見えるのは、気のせいだろうか。
てるてる坊主もどきで、顔は点にしか見えないのだが。
先生が、出て行った後の教室は、さきほどののざわつきのまま、みな思い思いにしゃべっている。
あち子も、隣の子に話しかけられたが、それどころではなく、生返事をしている間に、ほかの子たちと先生の話題ではなく、ほかの話をはじめていた。
おかげでひとり、さっきのことを、考えることができていたあち子は、ふとだれかにみられている気がして、あたりを見回してみた。
( 誰! )
なんと凝視していたのは、坂村だった。
( えーーーーー! 私を見てるの? )
だが、もう一度よーく見ると、坂村はあち子を見ているのではなく、なんとあち子の教科書の上に、ぐでんとしている、てるてる坊主もどきを凝視している。
( ー---見えているの? まさか...... )
あち子は、見えているらしいことにびっくりした。
( 今まで誰も見えなかったのに......家族でさえ )
あち子は、この一か月間のことを、思い出していた。