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第8話 騎士団長の溜息。

 ブクマ等、ホントに有難う御座いますm(_ _)m

 ─── 一方。



 噂の騎士団長ジャスティン=クルセイアは先程の情けないやり取りを思い出しながら、団長執務室の椅子に座り、その背もたれに最近やたらと重く感じる背中をドカリ。預け…


「はああ〜〜……」


 マイスと同じような溜め息を吐くのであった。もちろん、それで背が軽くなった試しなどない。


 騎士団長ジャスティン=クルセイア。彼の出自は貴族の三男坊である。


 貴族の三男坊というのは潰しが効かないものだ。世継ぎを確保するため貴族というのは多産を義務付けられるが、長男が不慮の事故や病などで命を落とす場合以外、領地経営に携われるのは次男までなのだから。


 『ではしょうがない』として野に下り職を得ても大抵は貴族としてのプライドが抜けず長くは続かない者が殆どだ。それが常識となってしまっている。

 なのでそんな無用なプライドを持たないと主張しても周りはそうは思ってくれない。求人募集に応募しても貴族の三男坊と知れば大抵、厄介者と見られ体よく追い返されてしまうのが現実だ。


 となると冒険者となるか、地方領の騎士団に入団するというのが定番の就職先となる。貴族の嗜みとして武芸や軍学を一応のレベルまで身に着けているからだ。


 まあ、栄達の足がかりなら王領の騎士団が一番であるのだが、それは難しい。コネというものがいる。いかんせんクルセイア家にはそのコネを得るだけの力がなかった。


 ジャスティンは武芸においてそれなりの自信があったし、有名であった。正義感に溢れてもいた。なので迷わず騎士団入りを選ぶことになったのだが、どうせ入団するなら大都市で活躍したいと思い、このエコノセール領所属騎士団の門を叩いた。そして無事合格、就職にありついた訳だが…。


 …入団してみれば酷い有り様だった。


 騎士団も兵士団でも職務怠慢が標準仕様。荒事ならどうせ冒険者が片付けてくれるとして禄に訓練もしない。どうすれば楽できるか、それのみにうつつを抜かす弱輩ばかり。


 そんな団内の風潮では真面目であること、正義を成すことはかえって悪。そんな環境であれば当然、賄賂だって横行する。となると裁かれるべき悪人は罪を免れ、正しき人は馬鹿をみる。そんな話は、当時のエコノスには溢れ返っていた。


 当然そんなこと、このジャスティンに我慢出来るはずもない。だから上司に噛み付くことも多かった。まだまだ青二才であったのでそんな反抗はあまり意味を成さなかったが。


 そんな水の合わない環境であったが、拗ねることも染まることもせずジャスティンは自分を貫き続けた。

 当然そんな出る杭は打たれることになる。時には命の危険すら感じることもあった。それでもジャスティンは屈せず頑張ってきた。


 そんな姿を、ちゃんと見てくれていたのだろう。領主であるマイスは然るべき手順を踏んで着実にジャスティンを出世させ、遂にはこの若さで騎士団長にまで抜擢してくれた。(実はその裏でロンプフェーダの進言があったことを彼は知らない。)


 そう。ジャスティンはマイスに並々ならぬ恩義を感じているのだ。


 まあ、若くして出世したことを妬む同僚はもちろん多かった。団長とは名ばかりで指揮系統はバラバラ…その門出は最悪の状態から始まった。

 しかし領主であるマイスに恩を返すべく辛抱強く、時には苛烈なる処断を下し、騎士団に溜まっていた膿を出し切るためにと奮闘した。


 そんなこんなで今では団員は皆、自分について来てくれるようになってはいる。しかし……


(なってみて分かった。前団長の苦労というものが。)


 護るべき対象としてどんなに身も心もと捧げてみても、領民からは蔑ろにされてしまう。もはや手遅れな段階にまで定着していたのだ。『騎士団は当てにならない。この領で最も頼りとなるのは冒険者達である』という通説が。

 

(団長になってから自分がした事と言えば、領主様の威光を損なわせ、部下達に報われぬ日々を強いた…ただそれだけなのではないのか?)


 そう思い悩んで蓄積させてきた鬱憤が、先日遂に噴出した。


 冒険者ギルドを出し抜いての魔物討伐。


 例えつつがなく成功したとしても、アレは褒められる行為ではない。

 『安全性を求める』という大前提は、荒事を専門に対応する武力集団であるならなおさらとして必要とされるものであるからだ。

 その『安全』を全く度外視しての独断専行。お叱りを受けて当然の失態であった。自覚はある。………ていやいや、その自覚ではまだまだ足らないぞ?ジャスティン。


 …かと言って、言えなかった。


(そうだ。言える訳がない。ギルドに嫉妬して判断を狂わせたなどと…)……だからそれも領主様にはバレバレであったのだけどねジャスティン。


「マイス様には…誠に申し訳ない事をした…」


 と口にしてみて


(改めて口にしててもそんなものは今更だろう。虚しく宙に消えていくだけ…)なんて黄昏れていると


 コン、コン …ノックの音。


 「入れ。」


 入室してきた若き騎士団員の連絡を受け、ジャスティンは重い腰を上げ連れ立って練兵場へと向かう。

 気分を落としていても鍛錬は怠れない。これも仕事のうちなのだから当然だ。

 練兵場に辿り着けば全団員が揃って整列し、自分の事を待っていた。いや、全員ではなかった。


  一人足りない。


(イクリースは…)


「…副団長はいないのだな…む」


 つい、零してしまった言葉。


「……はっ」


 その言葉には申し上げ難そうに団員が返答する。我に返るジャスティン。


(自分は、何を馬鹿な事を聞いて……っ)


 心中では大きく動揺しつつ、


「それでは演習を開始するっ!全体───」


 『自分は何も言わなかった。』そういうことにして大声を張り上げ、号令をかけるジャスティンなのであった。





 騎士団長さんが主役の物語ではありませんが。


 こんな風に真面目なんだけど空回り的な人物像は……他人事に語れない作者です。覚えがあり過ぎる。黒歴史に抵触し過ぎますw


 覚えがある人wブクマ待ってます(*´ω`*)

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