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第6話 枠の外の戦い。


 なるべく2500前後〜3500前後で字数抑えようとしてます。

 ですがたまにそれを超えること、あります。


 それでも読んで下さってる方、有難う御座いますm(_ _)m



 村がさらされている事態の深刻さにしか、目がいっていない村長には『ノガード兄弟』の人となりや騎士団の窮状までも汲み取ってやれる余裕はなかった。


 そんな様子を見かねたのか、また別の冒険者が歩み出て口を挟む。


「ああもう。心配すんなよ村長。ノガード兄弟が言うように俺達はこのまま行きゃあいいんだ。じゃねーと騎士団は全滅だろ多分…そうなりゃミーニャの姉御からカミナリもんだ。コレがまた怖え。…俺らで行ってせいぜい頑張るさ。」


「な…、相手はあのキマイラですぞ?」


「……そうだな。確かにキマイラは厄介だ。でもあの『死神』がいるってんだろ?なら悪くもない状況だ。ヤツがいるなら騎士団はまだ生きてんだろうし、俺らの被害も低く見積もれる。」


 残念なるかな。その冒険者の言は『大を得る為に小を捨てよ説』を擁護するものでは全くなかった。ガクリと肩を落とす村長。


 冒険者というのは空気なら読む。状況なら分析する。そうしないと生き残れないから。しかし誰が相手であろうと他人のご機嫌をうかがってやれるほど、冒険者という生き物は繊細ではないのだ。


「それに、向かった所でもう退治されちまってるかもしんねぇしなぁ。」


「え。」村長には彼が言う意味が掴めない。


「実を言うとな。俺はキマイラよりもあの『死神』の方が怖え。それに、正直言うとそうなってくれてる方が有り難え。」


「はあ?」全く分からない。


「…まあ、討伐報酬や素材の分配を考えりゃ確かに惜しいんだが……どれも命や手足を落とす危険に替えるにゃ安すぎるぜ。なんせ相手はあのキマイラなんだからな。」 


 そう追加してボヤくこの男は、あともう少しで上級の冒険者に昇格することが決まっている。

 つまりはキマイラという魔物の戦闘力の概要を理解出来る程度には、腕の立つ冒険者であった。


 『昇格うんぬん』については預かり知らぬ村長であったが、何となく察した。この冒険者が言っているのは恐らくの本音。


 あの…右腕が義手だった男が『死神』なんて言う物騒な二つ名持ちであるのは聞き知っていた。それなりに腕が立つとも。


 しかし周りが言うのは圧倒的に悪口の方だ。それに流されてきた村長自身も、よく訳も知らずに忌まわしいとしてきたし、出来る限り冷たくしてきたのだったが…それが…


(…しまった…まさかあの『死神』が、これ程のことを冒険者に言わしめる強者であったとは…。)


 村長は冷たくしてきたことをかなり後悔したのだった。と言っても、それは良心からの後悔ではない。今後被る損失と、報復される可能性を恐れての後悔であった。


 …そして、不安というものもそう簡単には拭えない。


(ああ…本当に、信じて大丈夫なんだろうか。今は、あの不吉極まりない『死神』めにこの村の運命を賭けるしか……ない、ということなのか…そうであるならなんと口惜しいことか。恐ろしいことか。)


 そんな事を思いながらノガード兄弟達を見てみれば……


「「ヒャッハーーーー!野郎共行くべー!」」


 ………こんな感じ。


(うむぅぅ〜。これは……ない…ようだな。…あああ頼みましたぞぉ……『死神』殿ぉ…。)




  ==========




 そんなこんなで。



〈〈グギアアアアアアアアアアアアアアアア!〉〉



 いつの間にか、とある村長の身勝手な願いを一身に引き受ける事になっていた『死神殿』こと、『ジンの旦那』は…


「危ない!避けろ『死神』!」


 ドガアァ!「…!」


 キマイラが咄嗟に振るった尾撃が直撃、そして


 …ッゴウ!


 直線に近い放物線を描きながら高速で吹き飛ばされていたりした。『村長の希望の星』は早くもピンチを迎えていたのだった。


 義肢装具士には悪いが…こうなってしまうのが当たり前だ。こんな巨大生物に真正面から接近戦を挑むなど、正気の沙汰ではない。彼の英雄的行為は真正の無謀と呼んでなんら差し支えのないものだった。


 だが、その無謀は、無駄ではなかったようだ。


 あのキマイラが地に脚を辿り着かせた途端、よろめいたのだ。ありえない。だが現実に蹌踉めいている。あのキマイラが。恐るべきことに、無敵に見えたその巨体に義肢装具士の、ジンの攻撃はちゃんと通っていたのだ。あの…ただの、拳骨が。


 生産職である義肢装具士にしか過ぎないはずのジン。


 彼が見せた捨て身の攻防。それは騎士団の全員に微かな希望をもたらした。


「おおっ!」

「なんと言う…っ!」

「イケ…るのか!?」

「ああっまだっ!」

「くそっ動けよ身体っ!」

「やるぞっ!」


「「「「おうっ!」」」


 現金にもそれをきっかけに団員達は、次々と【嚇声】の呪縛から解き放たれていった。


「この配置なら…っ!…左っ!左の後ろ脚だ!結界師はヤツの左後ろ脚の自由を奪え!無駄になっても構わんっ!これでもかと【縮縛結界】を重ねがけしてやれっ!残りの者もその脚へ『武技』を一点集中!叩き込めっ!」


 騎士団長の指示を得た結界師達は規模をあえて縮小し、逆に効果を強めた結界をキマイラの左後ろ脚へと重ねがけしていく。不自由を課せられ、それを嫌うキマイラは何度もその結界を引きちぎるのだが、間断なく連発される結界からは逃げ切れないでいた。


 結界師達は奮闘した。実際には【結果師】なんていうジョブはない。【魔法使い】として大成しない者達が万能なる切り札として頼ったのが『結界』と言う分野であっただけだ。しかも個人では強い結界を張れるほどの力量もない。

 ただ弱い結界を張れるだけでは、戦闘力としては不足。なので『自分は弱い。』全員にその自覚がある。


 ならば。


 すぐ破られる弱い結界であるなら、仲間達と連携し時間差で発動、間断なく結界を張り続けてやればいい。

 『一人一人が貧弱であるなら、その貧弱を持ち寄ればいい。そうすればいつしか、『精強』という名を冠せられるかもしれないじゃないか。』 団長のその言葉を皆は信じた。

 かくして、それは実を結んだのだ。キマイラは左の後ろ脚だけだったが、完封されてしまった。そして晒されたるは、値千金なる、特大の隙。


 その不自由な後ろ脚に向けて今度は他の騎士団員達も剣や槍や戦斧や戦槌や弓矢を頼りに解き放っていく。『武技』と呼ばれる魔力攻撃を。キマイラの尾…大蛇の射程圏外から確実にダメージを重ねていった。

 この場合は『威力よりも手数だ』と、低威力だが連射の効く武技を選び放っていった。…というか高威力の武技など、誰も持ち合わせていない。

 彼らも団長に諭されていた。『(やわ)い武技でも皆が一丸となって放ってみれば、奥義にも匹敵するものになるかもしれない。』それを信じて一心不乱。後ろ脚一本に集中し、連携し、間断のない攻撃を重ねていく。


 『大なる者に及ばぬ小であっていい。団結と連携をもって束ねればそれを覆せるはずだから。』今、騎士団の念願が、本領が、発揮されている。


 騎士団長ジャスティン=クルセイアの目にその光景は、奇跡にも等しく感動的なものに映ったことだろう。


 こうなると流石のキマイラもたまらない。密集する豪毛と分厚い皮、そして鋼の剛性を持つ筋肉で守られた威容なる脚。それが見る間に削られていく。ズタズタに。剥がれゆく毛皮。飛沫く血液。飛び散る小肉片。


「ギャゴォォォ!ゴギアアアアアアアア!」


 全力を振り絞り、のたうち回るキマイラの胴下には、さらなる追い打ち。地に浮かび上がる真円。その真円一杯に描かれていく正三角形。…三属性の魔力で地に刻まれたそれは、中規模魔法陣だ。


 小さく刻んだ連携。効果的だが、このままでは決定打にはなりえない。であるからにはその先が用意されているものだ。『奥の手』というものが。


「おおっ!イクリースかっ!…最適のタイミングだっ!叩き込めっ!」


 その魔法陣は副団長の魔力によるものだった。彼女は珍しい属性魔法の使い手。団長の声に励まされ、いつもは限界と見定めていた以上の魔力を込め、今こそ発動するその魔法は…


 第一段階としてまずは閃光。視界の全てを白と熱が席巻した。 


 ゴガァアアアアアアアアアアアアアアン!


 遅れて轟音。


 それらをもたらしたのは雷魔法。その名も【轟雷招獄】。いつの間にか暗雲が立ち込めていた天から、幾筋もの雷線が集合し、束ねられ、極太となったそれがキマイラの頭上に落とされたのだ。


 しかもその雷撃は地に留まった。キマイラの身体に纏わりつき、その自由を更にと奪っていくために。



 ……ゾンッ!!



 凄まじくも頼もしいその魔法に一瞬だけ見とれていた一人の団員。その身体が不意に…横へと泳ぐ。



 ゾダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!



(な…っなんだっ?)


 すぐそばを何かが通過していったのだ。

 通過する際の『圧力』に押され身体が泳いだ。目にも止まらず通過していったその『圧力』は、距離が開けてやっと視認出来る程の速度を伴っていた。視認した団員は思わずと呟いた。


「あんな……あれが、『死神』…。」


 彼が目にしたそれは、駆けるジン。


 地に顎が付きそうな程の前傾姿勢。


 その前傾姿勢を運ぶ脚は霞んで見える程の回転力だ。

 

 地を踏みえぐり、露出していた木の根があるならそれごと踏み砕いていく。


 空気膜を何度も食い破って見えた。そうして生み出された架空の気流に乗せて、石や木片や土くれをわんさと後方に撒き散らしているかのように。


 それほどの豪速だ。

 加速途上にして既に人外の猛速だった。

 全て置き去りに、轟という音だけを共に許し、


 独り、駆け抜けていった。


 その突拍子もない走りにはおぞましさすら感じる程の力強さがあった。そしてその走りは、当然のようにキマイラを目標としている。


「あんな速度で…ぶっ壊れてやがる…」


 恐るべき速度であったが、それ以上に目に焼き付いたのはそれをする胆力だ。


 あの、『巨体にして素早さまで両立する規格外の魔物、キマイラ』に向け、あの男は何の躊躇いも見せず突っ込んでいく……。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 先程吹き飛ばされた事をもう忘れてしまったのだろうか。死ななかったのがおかしい程の、豪烈な一撃だったはずだ。その証拠に



 ピ、パタタたタ……ッ!


 彼が刻んんでいった大袈裟な足跡を追うようにして大小沢山の紅い斑が、染みて消えたり途切れる隙も与えないほど地面を濡らしていくではないか。


 捨て身過ぎる。

 無謀過ぎる。

 何故だ。理解不能だ。


 先程感じていた頼もしさも何処かへと行ってしまった。


 異質だった。

 威質だった。

 畏質だった。


 とても同じ人間であるようには見えなかった。




 =========




 地球ではない何処かの異世界。


 そのとある街に『死神』と呼ばれる『魔導義肢装具士』がいた。


 その仇名に相応しく疎まれる彼であったが、

 その力を認める者もいたようである。

 その力を利用出来ないかと考える者もいれば、

 見当外れな感じだが、

 好意を寄せる者もいるにはいるようであるし、

 やはり、畏怖し、その善性を疑う者だっているようだった。


 普段の彼は無言で動じることをしない。

 無音にして無風の揺るぎなさを常に保ってい る。

 それしか見せてくれない。


 だからこそ、戦闘時に見せるその狂おしいまでの『我武者羅』は、人の心を…良くも悪くも打ってしまう。


 『現実』離れ。

 『現実という枠』から外れた存在。


 それは、まさに人外の領域であったから。

 そんなステージで戦う姿であったから。


 それは、この異世界の『現実』と真正面から対峙するを覚悟した者にしか、理解及ばぬ姿であったから。


 だから人は訳もわからず心を打たれる。


 もしここに村長がいたなら間違いなく忌避したであろうし、もしここにノガード兄弟がいれば彼らですら、あ然とするほかなかっただろう。


 結局のところ、異世界街の義肢装具士は正体不明なままなのであった。


 


 ジン、脳筋。


 でも健気だな。そう思ってくださったならブクマポチッとしてみましょう(*´ω`*)

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