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第5話 村人と冒険者。あくまでも枠の中。


 ブクマ、評価、感想、有難うございます(*´ω`*)

 あと今回、ちと長めです。スミマセンm(_ _)m




 とある村。


 その中の、家畜を囲う役目として巡らされた柵。


 その柵の中。

 何故か、家畜に混ざり大勢の人間が人集りを作っていた。何やらと騒いでいるようだ。


 柵の外まではその騒ぎ声の詳細は届かない。

 だが、柵に近づくほどに血の臭いが濃くなっていく。

 それを嗅いでしまえばただ事でないのは一目瞭然。


 そのただ事でない人集りの中にいた一人が何かに気づいたようだ。指を指し周りに首向を促している。周りの者も柵の外へと視線を移した。村人達の目は、難事に窮している事がひと目で分かる色を宿していたのだが、それが少し明るいものになる。


 柵の外。

 そこにいた者達といえば、不揃いな武装に身を包んだ『勇ましいが怪しい一団』。そんな感じだった。


 一応、何処の所属なのか遠くから見て分かるようにと、何人かが旗をかざしている。

 その旗の紋章を見れば、門を開けた砦と、その両端には人の腕と剣があしらわれていた。


 砦が意味するところは

『集え。門戸は何時も開放されている。』

 腕が意味するところは

『どんな仕事にも対応する街の便利屋。』

 剣が意味するところは

『戦闘ならばお手の物。』


 …と言ったところか。アレは冒険者ギルドの紋章だ。


 輪になって騒ぐ事しか出来ないでいた村人達にしてみればこの事態の解決には打って付けな集団として見えたことだろう。


 彼らは魔物襲撃の報せを受け、その魔物の討伐部隊として派遣されてきたのだが、冒険者という者達は見た目が見た目なので一応ギルド章旗を用意してきたのだった。

 『見て直ぐに分かってもらう』という手順を踏まなければ盗賊団と間違われることが稀にある……ということを、『ノガード兄弟』は()()()よく知っていた。…え。という事はよくあったのか?


 どうやら変に疑われている様子はないようなので、早速と声をかけることにする。

 

「俺らはエコノス支部のミーニャ姐さんに選抜された冒険者なんだが。」

「ここらで大型の魔物が出たって聞いて討伐しに来たんだけどよ。」

「見た感じなるべく速く対応しなきゃなんねえヤバイ魔物だってのは分かったんだが。」

「とりあえず事情に一番詳しいヤツが代表して色々教えて欲しいんだけどよ。」


 村人達は安堵した。口上を信じるならばあれは冒険者ギルドが派遣した討伐部隊。しかもあの『烈腕ミーニャ』が選抜したというなら、精鋭部隊であるはずだ。


 声をかけてきたあの二人はきっと…兄弟なのだろう。二人の顔は似ていた。それに、喋り方もそうだが、他の冒険者達とはまた一風違う迫力を醸してもいる。多分あの二人かこの一団のリーダーと副リーダーであるに違いない。


 早速代表として事情を話し出したのはこの村の村長だった。その話に拠れば出没した魔物はかなり巨大な魔物であるらしい。そしてもう一つ。


「数刻前に騎士団の方々が来られてましたが…あの…合流しなくても良ろしかったので…?」


 村長から話を聞いていたのは、この一団のリーダーをギルドから任された『ノガード兄弟』の兄、『シュトーゼン=ノガード』。


 その時点の彼は興味なさげ。ただこう答えるのみだった。


「…へえ。」


 そこへ、


「なあ、兄貴」「んぁ?」

 念の為他の村人からも情報収集をしていた弟、『カルチャーレ=ノガード』が参加してこう言ったのだ。


「…最近隣り領から追われて越境してきた魔物がいるって噂を商人達から聞いてたんだけどよ。」「…それがどうした弟。」


 この時点ではまだ、シュトーゼンのテンションは低かった。割と…というかかなり自由な気質であるこのノガード兄弟にはこの強制任務は苦痛でしかなかったのだ。


「何でもそいつぁかなりの大型でよ、しかも…『混成属』…つまりは『キマイラ』だって話だったんだけどよ。」


  「ッヒャハ!」


 突然の奇声。


 その発生源であるノガード兄の豹変にビクっと身体を揺する村長なのであった。

 確かに、冒険者というのは荒事においてはめっぽう頼りになる。その一方で個性に癖があり過ぎこういった得体の知れない言動をする輩も多い。

 昨日酒を酌み交わした友が次の日にはいなくなる。そんな非日常な死に別れを日常とする彼らの精神構造が、一般とはかなり隔たったものになるのは致し方無い事。……なのは分かっているがそうそう馴れるものではない。


「マジかー!今回退治すんのはキマイラかー!そんなん聞くと血湧き肉躍ってしまう俺なんだがっ!」

「しかもだ兄貴…。これはさっき聞いた話なんだけれどよ…騎士団の連中を馬鹿っ速い駆け足で追ってった男がいたらしいんだけどこれって…」


「「ヒャッッハーーーーーーーー!」」


 今度の『ヒャッハ』は兄弟揃っての大合唱…馴れない。


「そいつって右腕が義手だったりするパターンなのか?期待しちまうんだが?どう考えても『ジンの旦那』じゃねえかと思うんだが?」

「ヒャッハーー!御名答だぜ兄貴っ!こいつぁ『ジンの旦那』も一緒だと俺も思うんだけどよぅ!な、な、面白いべ!?あの旦那がいるとなったら……」

「ああ、キマイラがいるのは確実だと思うんだが!」


 ジンこと『死神』こと『義肢装具士』が向かう先には『死地』はツキモノ。これは冒険者界隈ではもはや通説なのであった。


「ああ俺もそんな熱い展開だと思うわけなんだけどよぉ!」


 どうやら彼らにとって死地は望むところであるらしい。そして『ジン』という人物は彼らにとって偶像(アイドル)的存在であるらしい。のだが……


「「ヒャッハーーーーーーーーーーーーー!!」」


 そこまでを聞いていた村長は眉根を寄せる。

 この兄弟の狂騒的な会話にどうしても馴れない…というのも勿論ある。だが、それだけではない。

 確かに、村を魔物に襲われたのは事実だ。

 確かに、それは憂慮すべき問題ではある。

 しかし幸運なことに、今のところ人死には出ていない。殺されたのは家畜のモース3体だけ。


 ……しかしもし、この兄弟が今話した通りだったとしたら?魔物の正体が本当に『キマイラ』であるのだとしたら…?それは予想を越え過ぎた災厄であった。だから眉根を寄せたのだ。


 魔物というのは種属毎、その討伐難易度に差があるものだ。例えば、鬼属と比べ獣属の魔物の方が厄介なのは常識だ。鬼属のゴブリン3体よりも獣属のフォロウウルフ一体の方が遥かに難敵なのである。


 しかし、『進化』を果たした個体(これを総じて『進化体』と呼ぶ)は例外となる。

 種属の差をひっくり返す事があるのだ。


 同じゴブリンでも変異的な進化を遂げた個体は獣属の上位種であるソードタイガーなどよりもよほど強力であったりする。


 その『進化』にも度合いがある。

 

 殆どの魔物が進化先を『上位進化種(上位種)』とする。そう、殆どの進化体がこれである訳なのだが……


 通常とは違う進化先である『変異進化種(以下、変異種)』、さらに異常な進化を遂げた『希少進化種(以下、希少種)』、そして、その一体だけで小国規模なら滅ぼしてしまえるほどの強力で、特異なる進化を遂げた『特異進化種(以下、特異種)』などがある。


 ……まあ『特異種』においては『特異』と表されている通り、そのような悪夢的進化を遂げる魔物は殆どいないのだが。


 ここで話を戻すが…

 『混成属』…つまり、キマイラという種属には、他種属のような種族(鬼属で言うならゴブリン族やオーガ族や吸血鬼族)がない。そして、繁殖もしないし、群れるということもしない。

 …これだけを見ればその脅威度は他属の魔物より低くなるようにも思える。…だがそれは大きな間違いだ。


 混成属…『キマイラ』の恐るべき所は、その全てが突然変異的に発生した…生まれつき固有の『進化』を果たしたモノであるという事だ。これは勿論、先程述べた『特異種』ほどに強力な進化などではない。だが、その全てが最低でも『変異種』レベルの進化を遂げている。


 さらに問題なのは、固有であり、個性的であると言う事。


 つまりは、キマイラの全てはオンリーワンの個体であるという事。それが問題なのだ。…オンリーワンである以上…全てのキマイラには『名前』がある。


 キマイラというのは全ての個体が『変異種』以上の進化体である上、『名憑き(ネームド)』なのだ。

 

名憑き(ネームド)』というのは特殊な【称号】や特殊な【スキル】に目覚めた強力な個体の中でも、稀にしかいない存在で、その殆どには高い知性がある。


 つまり、件の魔物が『キマイラ』であるということは、


 ただでさえ厄介な『進化体』の魔物でしかも、それは最低でも『変異種』レベルの化け物で、さらに凶悪な『名憑き(ネームド)』の超個体が出没したということ。


 そんな話を聞いて狼狽えてしまう自分を、村長は不甲斐ないとは思わない。それだけの深刻な事態であると彼は理解していた。


(恐らくだが…先に向かった騎士団は既に……全め…)


 そう。下手をすれば全滅しているかもしれない。噂に聞くあの『キマイラ』であるならそれくらいは訳もない。

 実際、村人が作る人垣の向こう側には3体のモース(牛を大きくしたような草食の魔物。)が、大量の血と身体のほんの一部だけを形見に残して『消えて』いる。

 その『食事』を目撃した者から聞いた話によると、死体のどれもがひと噛みによる結果生まれたもので、それはまさに一瞬の出来事であったとの話だった。


 あの骸を見ただけで分かってしまう。

 あんな圧倒的な力を感じたのはこの地で長く生きた村長ですら初めての事だったのだ。…であるのに。


「…そのキマイラは何処に向かった村長?『ジンの旦那』がいるならよ。早く向かわなきゃ終わっちまうと俺は思うんだが。それじゃぁ面白くねえからな…」 


 ノガード兄弟の『兄』、シュトーゼンの方から発せられたのは予想した以上に命知らずな言葉。


(この者らは…自分が何を言っているのか分かっておるのか…?)…失礼と知りながらも、心中でそう指摘せざるを得ない。


「おいおいキマイラとかマジおっかねえ…。なあ、それが本当ならこの人数じゃやばいんじゃねえのかノガード兄弟?」


 話を聞いていた他の冒険者達も村長と同意見であるようだったが…。


「あ?なんだあお前ら。グタグタ言わずに早速行くべっ!」

「ああ行くべ行くべ。」「 ……ちっ……これだ。…ノガード兄弟にゃねえんだよ。人の話を聞く耳ってもんがよぉ………何でコイツらをリーダーにしたんだミーニャの姉御は… 」


 兄弟が放つ眼力に屈したのか、それともあの『烈腕』で知られる『ミーニャの姉御』を恐れたのか…意見を述べた冒険者はそのまま押し黙ってしまった。

 そんな有り様を見てしまえば、もう他の冒険者からの助け舟が見込めないのは明らか。

 なので村長は『しょうがない』と諦める。戦闘については素人であるこの自分が進言するしかないのだと。



「僭越を承知の上で申し上げます。ここは冒険者ギルドからのさらなる増援部隊を……その…募った方が良ろしいのでは…?」 



 もし…先程の血気盛んな発言が、この村の窮地を見てのものであるなら。親身になってくれての勇ましさであったなら。それはとても有難いことだ。素晴らしい事だ。


 だが、それが道理から外れ過ぎたものであるなら話は別だ。


( …あのモースの骸…アレを見れば、素人でも分かる。 )


 今、件の魔物の腹は満たされているということが分かる。

 だから、こちらから刺激さえ与えなければ『今の所』ではあるが被害はないのだという事も分かる。

 それに…下手な勇み足で戦力を消耗させるよりも最大戦力が集結するのを待ってから一撃のもと仕留めるのが最善だということも分かっていて……この魔物騒動が長期化すればこの村の存続が危うくなることも分かっていた。


 そう、村長は恐れたのだ。知っていたのだ。


 知性高き『名憑き(ネームド)』の魔物を仕留め損なってしまえば、真っ先に報復を受けるのはこの村であるのだということを。だから進言するしかなかった…のだが。それは逆効果というものだったらしい。


「……村長。そりゃあよ、俺らの力を疑うってことになるんだが。…つーかよ?この際先行した騎士団なんかはどうなってもいいって聞こえたんだが?」


 言われた村長はそれでも言った言葉を覆すつもりはないらしい。


「…オイオイ。随分と報われてねーみたいなんだが騎士団の連中。あんな熱心にお前ら領民の事を守ってんのによぉ。なあ村長?そうなのか?だとしたらちいと胸クソなんだがよ?」 


 (ぐっ…なんでそうなる?)


 村長としては困惑するしかない。僭越だとは思ったがしかし、それほど道理から外れた事は言ってなかったはずだ。



 実際騎士団員は弱い事で有名なのだ。今から急いで追った所で生きている保証もないではないか。



 冒険者だって掃いて捨てるほどいるではないか。なら多少の負担はあっても、増援は難しい事ではないはずだ。



 であるなら村の為だ。有用な策に全てを託したい。そう思うことの何がおかしいのか───。



 ========


 

 こんな事を考えてしまう村長は悪人であるか?

 否、彼の事を、誰も責めてはならない。

 これが彼の『共感』できる限界なのだ。

 彼はこの異世界の『現実』の枠内で戦う、哀れなる一人にすぎないのだ。そう、その『現実の枠』からはみ出して抗えるほどには彼は強くはなかった。


 それはそうだ。『現実』という、世界にも等しい強大な存在を前に、人が何を出来ると言うのか。間違っているのはノガード兄弟であるはずなのだ。


 村の長である彼は、この異世界に迫られた。

 

 『大を守りたいか。ならば、小を捨てよ。』


 彼はただ、それに応えただけだ。

 それがこの異世界のスタンダードであった。それだけだ。


 ……それでも人は、心の隅に思ってしまう。


 『大を守りたい。叶うなら当然、小だって守りたい。守りたいに決まっているっ!』


 しかしこの場面。


 それを村長の口に叫ばせるには、ノガード兄弟の力はまだ、不足であった。ただそれだけの事。


 しかし…『あの男』であるなら。

 いや、あの男がいても村長は叫ばないだろう。

 叫べない。

 何故なら、あの男ならば黙らせるからだ。

 何も言わずに黙らせる。

 話を変える。

 新たなる分岐を無理矢理に生む。


 物語とはそうして紡がれるものだろう。



 この世界の人々は弱い人ほど論理を振りかざす風潮があったり、身近な人々を守るので必死なんですね。


 何故なら身近な人を切り離す覚悟があって、切り離す時のボーダーラインは地球のそれよりも跨ぎやすいです。そういった覚悟があるから、そうならないようにと必死です。


 次回、またバトルシーンに戻ります。


 異世界事情ほ描写、割と好き…損な型はブクマポチッとしてくれるとハナジ吹いて喜ぶ単純な作者です\(^o^)/

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