第32話 夜の『シメ』。
「丁寧に処理しとけば余った素材もギルドに高く売れるわよ?なんたって変異種の素材なんだから〜!どんなに使えないように見える素材でも、処理さえちゃんとしとけばマニアに向けた需要だって必ずあるはずなんだし!強気に取引しちゃいなさい♪だから、絶対捨てちゃ駄目よ?捨て値で売っちゃうのもね。だから、ね、そうしときなさいよジンちゃん!手押し車ごと店裏にうっちゃっといて♪」
このようにして色々と、長文なるアドバイスまでしてくれるのだ。取引先が賢くなり過ぎると商売人としては困る場合もあるだろうに。
損得を度外視してジンをサポートしようとするお人好し。
エコノス最強のコワモテだけど。
そんな彼のことを、ジンもただの客だとは思っていない。人間的に尊敬しているし、愛すべき隣人だと思っている。
だから言う通りにする。言われた通りに店裏に手押し車を駐車していると、
「あ。そうだ、ねぇジンちゃん!こないだのキマイラ素材でモツ煮とかピリ辛スペアリブとか、タンシチューとか作って見たんだけど食べてく?」
言われたジンはコクコクコク。
何度も首肯して受け答えとした。
この店の料理が大好きなのであろう。
だが…フルフルフル…
何か思い出したのか、ジンは首を横に振った。
なんと言っても、血液を始めとする魔物の体液を全身に浴びてしまっているのだ。
一応の公共道徳というものを考え、川で水浴びをして最低限清めてはおいたが…その川があった場所というのが…夜の森。
そんな危険地帯では十分には清められなかった。なので、飲食店にそんな状態で入店するのは…流石のジンでも気が引けたのだが。
「いいのよ〜だって今店の中にいる客なんて紅一点を除いてクサムっサイ男ばっかりなんだもの〜。…てコラッ!帰ろうとかしないっ!ほらほらほらほらほら早く中に入ってっ」
そう言いながら、珍しく拒絶を表現するジンを無理矢理背中を押して入店させるアージェント。しょうがなくジンが入店してみれば…
「ぬう?なんらその…飯を食う場にそぐわぬ…なんろ言うか…そう!デリカすぃーの欠片もない格好は!まことけしららんっ!をいっ義肢装具士!いや、ジン!良いな!?ジンと呼んでもいいのらなっ!よし!ジン!ここに座れっ!私の隣にっ!今日こそは説教してやう〜〜懇懇とぉ……っウイっ!」
騎士団長だ。ジャスティンがいた。珍しい。しかも酔っている。かなり悪い酔い方だが。
「おぐ〜?あい?なんだか…ジンの旦那が居るように見えうんだが。とゆーかジンの旦那その人であるようにしかみえらいんらが。ぁぅぃ〜、もしそうなら気お付けろょ旦那ぁ〜……っガフ…」
「あぶぉ〜?おう、こいつはまさしくジンの旦那らあぁ〜。ホント…気お付けたほおがイイ!……と、……俺も思うんだけどよ。団長殿を始めとしてみいいんな超〜〜タチが悪いからにゃ〜……あふ。おやつみなちゃぃ…」
ノガード兄弟もいた。相変わらず兄弟仲がいい。だいぶ酔っているようだが、阿吽の呼吸で会話をリレーするのはいつも通りだ。でも…この店で見かけるのは初めてのことだった。
「わーい!ジンさんだーっ!この義手すごいですね〜私、スキルが一つ増えましたあ〜えへー。あ、団長殿〜、団…もぅ…ジャスティン…様?えへへ。…ね〜え〜ジャスティン様…ねえっ!聞いてくらはいよ私の話をを少しっくらいわ〜〜この義手ホント凄くて……ねえ!ね〜え〜ね〜え〜聞いてマフ?」
「やめやめやめなさ…イクリーすちょっ!すとっぷ!出るから!揺らすと出るから!あ〜自分は自分は〜出してしまぅにょか?出したらダメなアレを?おいジン!出てしまう前に早くすわりゅのだっ!」
というか『出る寸前の人』の隣に座りたくない。というか義手をジャスティンの肩に回してしなだれかかって揺すっているこのクルクルとした髪型の可愛らしい女性は…確か騎士団の副団長ではなかったか。確か最近義手を彼女のためにキマイラ素材で義手を造って…うーん。
…今は普段の凛々しさが見る影もなくなってだらしがない。
「もぅ飲めませんのめませんノメマヘンのめのめのめむっぷ……っ」
ん…?その横には騎士団員らしき若者が二人が突っ伏して…うむ。彼らはどうやら完全なるグロッキー状態であるようだ。
「ちちちょ…待ちなはい副団長どの。今はまら、私のターンであるのだからして……あ〜団長さん?聞いてまふ?ねぇ聞いてまふ?私ゃぁねぇ〜別にこあいわけじゃあないんれすよ?はあ?レツワン?何するものぞってなもんですよ…あら!ジンなにがし君いつの間に?ま、まままぁ…ここだけの話なんですだがら忘れまリョ〜ね?」
えっと。この男は…誰だっけ?
【えーと。あ、そうだ。この人あれだ。ギルドの支部長さんだよ。】
バッド君ありがとう。言われてジンも思い出す。どうやらこの『冒険者ギルド、エコノス支部支部長』という肩書を持つ御仁は、酒が入ると気が大きくなるタイプらしい。
そんなカオス過ぎる顔ぶれを眺めやりつつ、
『 ハぁ。 』
【およ?ジン?なんか今、溜息ついた?ねえ?】
ジンからなんとなく漏れ出た人間らしさ。
それをからかいながら、実はちょっぴりそれが嬉しいのであろうバッドの声を聞いて
クイ。首を傾げながら。でも本当は
『誰かが自分を見てくれている。知ってくれている。』
そんな有り難さを、噛み締めながら。
ジンはゆっくりと騎士団長殿の横に腰を落ち着け、このカオスなる飲み会への参戦を表明するのであった。
(※ちなみにその朝ジャスティンは宿酔いに悩まされながらも兵士団を絞り倒してやったことをここに報告しておく。こう見えて彼は中々骨のある男で……密かにジンもその骨っぽさを評価していることは、誰も知らない。)
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夜の森で独り、変異種を含むオーガパーティと激闘を演じ、結果蹂躪してしまうという異様な戦果。
そんなとんでもない戦闘力を有しながら、門前では兵士達からのねちっこいイジメに律儀に付き合い…
色街では遊女達から降り注ぐ熱烈なるラブコールを何とか躱して、
今、この都市随一のうまいもん屋でよく分からないメンツの酔気渦巻く飲み会に参加させられている。
本日の異世界街の義肢装具士。
その夜は、このようなごった煮で相変わらずの正体不明を深めながらも、最後は楽しく過ごされたのであった…。
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