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第26話 出逢ってはならぬもの。


 彼は思っていた。


 『この魔物には、何をやっても通じない。』


 彼は思っていた。

 今まで膨大数の魔物を屠ってきた。

 強敵……。

 そう思える魔物にも果敢に接近戦を挑み、

 そして必ず倒してきたのだ。

 倒し切れず撤退することだってあったが、

 それでも相手方に相応の痛手を残し、

 再戦する時には必ず打倒し屠ってきたのだと。


 だが、この魔物には何をやっても通じない。

 おそらく、この魔物に自分は勝てない。

 痛手すら与えていないのだ。

 この魔物は今まで戦ってきたどの個体とも違う。

 どの魔物よりも獰猛で狡猾だ。


 そう思いながら気付く。

 顔面の強張りを。


 『…自分は今、恐怖しているのか。』


 このようにして顔の筋肉が言う事を聞かない時などなかった。顔が強張る事など今までになかった。


 勝てない……。


 そして逃げられない。

 となれば…自分は殺される?

 それを確信して強張ったのか。


 この魔物は、もしかしての『特異種』?

 いや、まだそう呼べる程には進化していない。

 それぐらいは解る。

 しかし…もしかしたらこの魔物は、『特異種』と成るべくして未だ進化の途上にある『変異種』であるのかもしれない。


 …そんな化け物に自分は遭遇してしまったのかもしれない…。


 ドゴオオオオオ…


 夜の森に数十度目かの轟音が鳴り響いた。


 その轟音の発信源。

 その地点は大荒れに荒れていた。

 折り重なる倒木。

 倒れなくとも半ば近くまで抉られた大樹。

 大きく抉られた地面

 倒木の断面を見ればへし折られたのではないようだ。


 どれもこれも抉られて在る結果だった。


 よく見れば赤黒い液体やピンク色の肉片。

 それ以外の様々な赤で彩られた臓物。

 その中で白く浮かび上がるのは砕かれた骨?

 飛び出した眼球であるのかもしれない。


 ……それら命の残骸が倒木や大樹や地面に飛び散り、引っ掛かり、粘着している。

 

 それらは4体のオーガだった者達の末路。

 それらをこんな有様にしたのはジンではない。

 やったのは変異種のオーガ、カンニバルオーガだ。

 同族の命をこれほど粗末に扱える残虐性を見てしまえば、このカンニバルオーガの異常性に皆、震えたことだろう。


 しかし


 実の所


 この場で一番に恐怖していたのは当のカンニバルオーガなのであった。


 彼は思っていた。何故当たらないのかと。

 攻撃が当たらない。敵に。

 攻撃を当ててしまった。下僕にばかり。

 敵は元より独りであった。

 今や自分も独りになってしまった。

 数を減らした分余計に心細く感じてしまう。


『この魔物には勝てない。殺される。』


 そう確信したカンニバルオーガはジンに向かって背を向ける。


 逃亡に向けてありったけのスキルを同時発動。


 【怪力】と【壊腕】を込めた超腕力で棍棒振り地を駆る。

 【脚力】を込めた足で踏ん張る。

 【体幹】と【骨格】の合わせ技でそれらアンバランスに傾いた腕と脚の力を統合し、

 【身操力】でその力を無理矢理連動させ回転を生み、

 【忍び足】の上位スキル【獣脚歩】を使いマシラの如き四脚歩行を成立させ最低限の助走で加速、瞬く間にトップ・ギア。


 そこで【大跳躍】を発動。


 なりふり構わず、速度を捻り出す事のみに集中する。

 一瞬でも早く、

 1ミリでも遠くっ。

 あの魔物から距離を取らねばっ。

 とにかく逃れたいっ。死から。


 だがその願いは叶わない。


 【大跳躍】を発動するその直前、立ちはだかる敵。


 ボウッ!!


 慌てて棍棒を振るう。


 バジャンッ!!


 上半身を破裂させてやった。

 跡形は地に染みる赤黒になるはず…


 なのにやはり、…ならない。

 この徒労。この失望。何度目になるのか。


 ギっ、ギンッ!キャルリラ!


 そして焦燥。

 今また削られた。

 肌に仕込んだ同族の牙、骨、爪が。えぐり取られた。業に業を積み重ねて鎧ってきた殻が一枚一枚と着実に剥がされていく。それが為されるのは主に首周り。このまま削り取られていけば……いつか刃が通ってしまう。首に。


 首が切断されれば……死───




 ───恐怖。




〈〈ハギョエアアあ亜亜亜亜亜ああああああ!!〉〉




 カンニバルオーガは最後の手段と狂気を頭上に集約させた。【鬼覚醒】を発動させたのだ。本気で狂っていた。


 何故なら先程までこちらは自分を入れて5体いたのだ。対する相手は単独だったはず。

 それが一対一にまで削られた。それだけで結構な絶望であるのだ。なのに、なのに、なのに……


 なのに、正面。

 そして左と右。

 何故だ。

 何故数が増えているのだ?


 カンニバルオーガには前方と左右に、合計三人のジンが見えている。


 そして恐ろしい事にその3体のどれもが実態を伴っていると確信した。そう、これはスキルや魔法による幻影などではないのだと。


 察知や感知のスキルであるなら合計にして5つも所持している。それら全てを駆使して見間違う訳もない。

 だからどうやってなのか解らないが、間違いなくこの3体は実態を伴っている。カンニバルオーガはそう確信した。


 であるなら、もう本当になりふり構って居られない。

 全弾撃ち尽くす。

 殺すか死ぬかだ。

 それしかない。

 逃げる事はもう、……諦めた。


 

 

 本日もう一話投稿予定です。


 次話は10時予定!


 宜しくお願いします(*^^*)

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