第22話 気にしてはならぬ。
いつも読んで下さり有難う御座います(*´ω`*)
ここは夜の森。
森というのは昼であっても危険極まりない魔の領域だ。夜になると同士討ちなどの恐れもあり、集団の力は削がれてしまう。そのため、魔物であっても弱い者であるなら出歩かない。
よって、夜になれば森というのは強者、もしくはその強者をすら脅かす厄介な特殊能力を持った魔物ばかりが限定して出没する魔域となる。昼間とは全くの別物となってしまう。そんな危険地帯でジンは
ゾダダダダダダダダダダダダダダダダ!
例のおぞましくも力強い足音を響かせ魔物を探し…もとい魔物をおびき寄せながら疾駆するのだった。
発見すれば、発見されたら、その魔物へ躊躇なしの突進だ。呆れた事に夜の森でも彼は接近戦を基本としているらしい。
【オーガだね。】
ジンの頭の中で呟かれる『誰かの声』。
そう、これはジンの心の声ではない。ジンではない誰かの声だ。なのにジンはその呟きを気にした風もない。どうやらこの『声』は、いつもの事であるようだ。
ちなみにオーガという魔物の戦闘力を比較対象に冒険者を選んで分析すると、こうなる。
オーガというのは…
『初級冒険者』では何人パーティであろうと相手をしてはならないとされる魔物。どれ程数を集めようと攻撃が通らないのであれば意味がないからだ。
『中級冒険者』であるなら最低でも3パーティを必要とする。
『上級冒険者』になってやっと1パーティで相手取れる。しかもバランス型のパーティに限ってのことだ。
『特級冒険者』になって初めて一対一で戦うことが許される。しかしこれが上位種に進化したオーガとなれば特急であっても2パーティは必要となる。
『極級冒険者』1パーティで当たってギリギリ倒せるというのが上位種オーガなのであり、
『超級冒険者』でやっと一対一で戦うことが許されるのが上位種オーガなのである。
冒険者にはその上のランクに『伝説級冒険者』というのがあるが、それは人の域から大きく外れた存在。しかも個々の能力にかなりの開きがあるので明確な基準すらない。そして制約という名の気遣いも受けない。完全なる自己責任制。なので彼らは比較対象には適さない。
……であるのに。
【オーガが5体。そのうちの1体は…あらら。多分アレって上位種じゃないよね。どう見ても変異種なんだけど。】
またもジンの中で響く声。
その声がもたらした情報に拠れば、
相手は上位種どころか……変異種。
これはもしかしたらあのキマイラ事件以上の異常事態だ。
変異種のオーガ1体には『超級冒険者』で1パーティが必要となる。一対一で戦うなど、最上位である『伝説級』冒険者ですら嫌がる怪物。
確かに『名憑き』ではないのでキマイラ戦程の難敵ではない。しかし4体のオーガを従えている。騎士団の助けもない今の状況では、あれ以上の死闘となるのは間違いないのだ。
冒険者であるなら伝説級であっても絶対に一人で挑むことなどしない怪物。
名声を欲するからこそ冒険者になったのだから、冒険者はある程度の冒険はする。だが、冒険者は決して命を安売りしたりはしないもの。冒険と暴挙は違うのだ。
しかし…ジンは冒険者ではなかった。
『義肢装具士』だ。
その頭に『かなり無謀な』という事項を補足する必要があるが。
【あ〜もう、ジンはまた…。往くわけだ。独りでっ!ああもう!ホントにああもうっ!】
そう。
ジンは往く。
『変異種が混ざるオーガパーティ』に迷わず突っ込んでいく。
その姿はもはや暴獣。ただ一匹の。
これはもはやお馴染みの風景になりつつあった。『どちらが魔物か分からない』というアレだ。
ゾダダダダダダダダダダ!
【毎度の事でどーせ無視すんだろうけども。……一応反対しておくよ僕は。……まあそう言いつつも興味あるんだけどね。キマイラ素材の義手がどれ程のものか…試し斬…いやこの場合は腕試し?………っていうか……え?】
ゾダダダダダダダダダダダダダ!
頭の中の呟きに対して、ジンは何をどう答えたのか……ただそのおぞましい走りを見て解るのは彼には一片の迷いも無いということ。それだけだ。
ジンは迷いなくその右の義手に力をたわめていく。
【いやチョ…ッ……何してんの?】
迷いなどは一切混ざらぬ純度100%の闘志。
その塊となった義手が引き絞られていく。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
【わああああ!何考えてんだそんな無茶…ってあー!】
そして最接近。変異種オーガ足元にて。
…ダダ、ダン!!
踏み込んで刹那。
……ドギイィィィィっ!
〈〈ゴぼア!〉〉
打ち抜いた。
オーガの、しかも変異種に進化した個体。その頰を殴打した。ジンはまたも拳骨を開戦の狼煙代わりとしたのだった。
【バカ!ジンの馬鹿っ!】
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…うむ。確かに。馬鹿であるのかもしれない。
ジンは何故か無言を貫く。
だからいつだって突拍子もない。
周りから見ればいつだって『愚者』であるのかも。
だが
『呟きの彼』…とでも呼ぼうか。
君ももう、もう諦めるべきだ。
ジンを相手に『無謀』や『暴挙』を数え上げ訴える事はきっと、意味を持たない。そんな諸々はいちいち気にしてはならない。
いや、
『目を離せなくとも、気にしてはならない。』
ジンとはもはや、そういう対象であるのかもしれない。
『災厄が見える』
こんな能力を持ってしまった以上、
ジンは人と同じ動機では動けないからだ。
そんなジンを見て不安に思う人はいる。
痛快に思う人も居る。
痛快というものは、相応の悲哀も同時に背負うと気付く人も居た。
ジンはそんな宿命の中に在る存在なのかもしれない。
良くも悪くも、
誰も無視出来ない。
誰も理解出来ない。
それが英雄と呼ばれる者の宿命であるのかもしれない。
だからこそ、私は英雄譚を哀しく思う。
英雄が真に報われた物語。
それがあまりにも少ないという宿命が哀しい。
今の所、ジンにその宿命が見えてしまう。
そうなって欲しくない。でも見えてしまう。
今のままでは、まだ。
だが、この異世界の義肢装具士の物語は未だの序盤。
『だから、いい。今ままでは。』
今までは、ジンの物語が向かう先…それが正体不明なままであっていいのだと。そうしておこう。
──ジンの物語。
異世界の街に住み着いた『魔導義肢装具士』の英雄譚。
この英雄を包む謎という名のベールが少しずつ…ではあるのだがめくられ始めるのがこの章だ。
さあ、夜のジンは、どんな顔を見せてくれるのだろうか。
今日はもう一話投稿します。
次は朝7時投稿です!お楽しみに(*^^*)