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第21話 ジンの顔。


 そろそろ本格的にジンくんにメスを入れます。と言っても少しずつですが…


 ──騎士団と冒険者ギルド。


 独自で軍事を担うこの二つの組織は、連携してこの巨大都市の防衛に当たらねばならないのだが、それについては暗中模索状態にあった。


 連携を成すには見えにくく、かつ多様なる壁があり、それを取り払わねばならない。


 しかし…それをするためには何よりも必要とされたのは強力なるカリスマだ。 


 歴代の中そういった人物はいたにはいた。しかし両組織に揃うという奇跡までは起こらなかった。


 なので『連携体制』など骨子は生まれども実行はされないままに、人知れず綱渡り的な対処でこの都市はなんとか守られてきたのである。


 しかし都市というものは生き物に等しい。手がかかるし成長もする。その規模は大きくなっていく一方だ。目を離せばすぐ人の手に余ろうとする。


 そうなると人員不足に対して使い勝手が利く冒険者ギルドの方が圧倒的に有利となった。


 誰が計ったわけでもないのだ。


 あまりにも自然な流れとして両組織間のパワーバランスは狂っていった。


 ギルドの隆盛に反比例して、騎士団の方はは見る間に地位も名誉も弱めていった。

 そのくせ治安維持の権限だけが残るというおかしな形で存続してしまった。


 そうなると今度は腐敗が始まった。しかも、その腐敗を良しとせず正そうとする情熱と良識のある者は余計に苦しむ事になった。ようやく彼が現れた時点では、もはや騎士団は弱体化し過ぎていたのだ。


 今更になって連携しようにも、信用と実積は地に落ちている。しかも弱兵しか集まらない。そんな現状では冒険者達からも民からも信用されない。


 そう、今こそ騎士団には強力なカリスマ性を発揮するリーダーが必要なのであり、ジャスティン=クルセイアにはその資質が辛うじてだが、あったのだ。


 『だがしかし』というやつだ。


 …間の悪いことに冒険者ギルドにはミーニャ=ラキ=ラズールがいた。彼女は彼女が勤めるギルド支部、その最高責任者であるはずのギルド支部長ですら支配下に置いてしまうほどのカリスマを持った女傑。ジャスティンでは到底釣り合うはずもない……そう思われていたのだが。


 どんな奇跡が起こったのかある日を境にジャスティンは強力な光を放ち始めた。あの烈腕ミーニャに対抗し得るほどのカリスマ性を。

 

 かくして、この二人が手を結んだことで両組織は変革の兆しを見せつつある。


 これにより、それぞれが如何ともし難いとしてきた諸問題もいずれは解消され、今度こそ『連携体制』というものが確立するのかもしれない。

 地味な変革であるがこれは、このエコノセール領にとっては大変な意味を持つ出来事であった。



 しかし……



 その影の立役者であるはずの義肢装具士のジン。彼はと言えば、そんな裏事情を全く意に介した風もない。


 それもそのはず、この街がそんな解りにくい問題を抱えていた事など彼は知らなかったし、そんな問題にいつの間にか巻き込まれていた事も知らなったのだから。


 その問題解決の裏側では、『とある理髪店の再生』という一つのドラマがあった。

 勿論これについてはジンも加担していたことで、理髪店の店主はジンに並々ならぬ恩が出来ていたし、その恩に店主も気付いていて、『ジンには感謝しても仕切れない』そう思っている。


 こんな場面ならヒーローというものは雑踏の影から人知らず見守っていたりして、『良かった良かった』などと呟きながら余韻を存分に残しつつ格好良く立ち去ったりするのだろうが。


 このジンという男はそんな理髪店のことも、やけに悩ましげにしていた騎士団長の顔も……まあ、忘れてはいないが、もう既に考えてなどいない。それはもう、全く。


 理髪師が救われたのならばそれでいい。その為に手を尽くしたのだから。でもそこから先は彼自身が切り開かねばならぬ事。もう自分の手助けは必要ない。いや、むしろこれ以上は害にしかならないだろう………



 ……………なんてことすらもう、ジンは考えていないのだ。



 それらの事柄はもう既に過去の事になってしまっている。ジンはもう次の事を考えている。冷たいように見えるかもしれない。でもこれはしょうがない事なのだ。


 騎士団長は見抜いていた。『ジンには人に降りかかる災厄が見えてしまうのではないか。』と。


 そう。ジンには見えてしまうのだ。放っておけば確実にその人を死に至らしめてしまう災厄が。

 そんなものが見えてしまえば、人はどうなるだろう?きっと、心休まる暇などなくなる。


 災厄に魅入られた人々。その全てを救う事など出来ない。そんな事は誰でも解る。かと言って『その全てを見捨てる事も出来ないという苦悩』にまでは、気づいてやれない。


 全て救うことを諦め切れず片っ端から救ってみても、結局は心の平安など得られない。そう、『全てを救える訳がない』のはどうしょうもない事実であるからだ。


 ジンはそんな『異世界の現実』に抗い戦って来た。


 まだだ。完全敗北を喫した訳ではない。まだ。


 しかし『平穏は得られない』というこの現実だけは諦観を持って受けとめなければならなかった。


 そうしなければやっていられないのだ。安寧や平穏に執着してしまえば、救えるはずの『次』さえも救えなくなるからだ。


 そんな矛盾。


 これは物語のヒーロー達が抱える苦悩をすら凌駕する苦悩であろう。『災厄が見えてしまう』とはそういう事だ。生身の人間であるなら、それは尚更に抱え切れるものではない。


 だからこそ、『救う為に出来る全てをやり尽くす』という事に、ジンは半ばマシーン化して従事しているのかもしれない。



 あの『何でもない』という顔。



 あれは、そんな過程を経て形成されていった哀しい顔であるのかもしれない……




 そんなジンにとって、夜という時間帯は『素材集め』の為に使われている。

 夜という危険な時間帯には、街や村の外には誰も出歩かないからだ。みんなそれぞれの安全地帯で知らずの内に災厄をやり過ごす。


 なので、ジンにとって夜というのは、人に取り憑く災厄を見ないでいられる貴重な時間。


 かと言って休んでもいられない。


 ジンが造り出す義肢や装具は、完全オーダーメイドであるので汎用性はまるでないが、大変に高性能なものだ。それを見た誰もが『これは世界一の技術である』と認めざるを得ないほどに。


 しかしその高性能は、技術だけでは補完出来ない。使われる素材の性能も合わさり初めて成立するものなのだ。


 強力な生命力を宿す魔物からしか取れないような貴重なる素材しか使われておらず、その素材に見合った魔石や薬品などの類いはギルドからの買い取りに頼っている部分が大きいし、義肢の製法がこれまた繊細で、製作途中でそれら貴重な素材を台無しにしてしまうことだって珍しい事ではなかった。


 なので、ジンが造り出す義肢というのは適正価格どころか、原価を大幅に下回るような価格であるにも関わらず、市井の人々にしてみれば大変な高額品となってしまう。


 そんな高級品であるなら勿論、ただで提供する事など出来るはずもない。そんな事をしてしまえば、後が続かなくなるからだ。いつか、必ずや限界がやってくる。破綻する。


 なので少しでもコストを抑えるべく、数が揃わない高純度の魔石など、流通に頼らざるを得ない素材以外は、なるべく自分の手で素材集めをしようと努めるジンなのである。


 …勿論


 そもそもとして義肢が必要となる深刻な事態になる前に、全ての人を救うことが出来れば理想なのだが。


 ……そう簡単に実現出来ないのが理想というものだ。

 というわけでジンは今、素材集めの真っ最中。


 場所は危険極まる、『夜の森』。


 そんな危険な日課を自らに課すジンだからこそ、薄々であったが日に必ず一度は感じる事があった。


 それを感じた時のジンは『何でもない』を極微量に曇らせる。誰が見ても見分けがつかないほどの極微量であったが。


 このジンの顔を曇らせるそれは何かと言うと…

 

 この都市、エコノスに忍び寄る破滅の影──。


 


 


 日本のヒーローって、特定の敵がいて、順番に登場して、それを各個撃破していく感じ。


 それに慣れていた私は『スーパーマン』を初めて映画で見た時ショックを受けました。沢山の「ヘルプ!」が聞こえてしまうという設定。それを見て我に帰ったんですよね。


 作中に描かれてない所で『救われなかった沢山の人がいるんや…』って。ラストは地球を逆回転させて恋人だけを助けるわけなんですけど…子供心に『オイオイヒーローそれでええんか?』と思ってしまって。


 それからは昆虫なライダー見たら『同類めっちゃ殺すやん』とか、光の巨人さんには『格闘すな。ビルヂング壊れる。光線はよ出せ。』とか、そんな風に水差しながら観てしまうので、真正面から人が持つ矛盾に取っ組んでいた機動戦士な物語の方にシフトしていきました。


 この物語はそんな、子供の頃に気付いてしまった『ヒーローが抱える矛盾』を何とかしてあげたい……だけど無理…それでも…的な感覚で描いてます。


 年齢バレしますが…笑

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