第20話 両雄相並ぶ。
根本からの変革目指すなら簡単な事から。回。
数日前のことだ。
「頼もうっっ」
ギルドの入口で仁王立ちしながら大声を張る騎士団長がいた。
しかもそれは、その場にいた屈強なる冒険者全員から胡乱な目を向けられているというのに、全く怯むことなくの仁王立ちであった。
「ラズール上級職員、いや、ミーニャ殿はおられるか!」
不躾な呼び出し。周りの冒険者達は騎士団長の未来に死を垣間見た。その証拠に…
カッ!カッ!カッ!カッ!カッ!カッ!カッ!
(((あ。怒ってる。)))
その場にいた全員、同時に察知する。
(((物凄く怒ってる時の足音だアレはっ!)))
…カカッ!
「お探しのミーニャであるなら。ここに。」
姐御。登場。
〈〈〈…ゴクリ。〉〉〉
その様子を見ていた周囲の何人もが、喉を鳴らした。
『ミーニャの姉御』と『売り出し中の団長殿』両雄相まみえるの図。
バックには何故か威嚇し合う龍虎の絵図が幻視できる。それほどの気炎を互いが発していた。
「あの騎士団の頭…すげーな。…姉御と目ぇ合わして全く引いた感じもねえ…。」
「何だアレ。見てるだけで寒気止まんね。俺クエスト行ってくっわ。」
「何だ情けねえな。こっからが見ものじゃねえかょ…お?なんかメンバーが外で呼んでやがる。…ったく仕方ねえな。こんないいトコでよぉ…俺がいねえとアイツラはホントに…」
「いや待てやコラ呼んでねえから。お前のメンバー今ナンパに夢中だから。しかもナンパされてる女の人数見ろ。お前完全に勘定入れられてねえから。…チッ行っちまった…」
「何だそうなのか?アイツ人望ねえなぁ。しょうがねえから俺が『リーダーとはなんぞや論』を語って聞かせてやろう。」
「いやそれ誰も聞きたくないから。つかお前も便乗して逃げてるのバレバレだから。つか俺もつれてけっての!」
「………………ああ!『そう言えば』俺も…行かなきゃ。」「おお?奇遇だなぁ俺も『そう言やぁ』ってのがあってよ。」「何だ何だみんな『ソウイヤー』なのかこりゃすげー偶然もあったもんだーこりゃまいったなー(棒読)」「ちげーね。『so yeah』とくりゃしょーがね。世の中そういうもんだぜこれ真理。」
ガヤガヤガヤガヤガヤ…ドタドタトタ…
…………シーーーーーーーん………
そして誰もいなくなった。
冒険者というのは空気を読む。読みまくる。危険な依頼の最中に風向きをまともに読めないようなら、すぐ死ねてしまえるからだ。そういう稼業だ。だから自然、みんなそうなる。
いや、まだいた。空気読めてなお残ろうとする者達が。ギルド職員達だ。彼らははまだいる。姐御の前で職務放棄など許されない。だからしょうがなく微妙に震えもって踏ん張っている。
とにかく静まり返った。
冒険者ギルドエコノス支部ロビー内部。
「さて。なんの御用でしょう。」
ミーニャはいつもより低く声を這わしてくる。
女性の声の限界にまるで挑戦しているかのような……そんな低い声だ。多分【威圧】スキルも少々混じらしている。
だが。
「ふむ。済まないが、これに目を通して欲しい。」
そんなものには怯まず、気負うことなくなったジャスティンから差し出されたのは書類。それは第一項からこんな内容で始まる提案書であった。
『騎士団員と冒険者は極力、互いに挨拶を交わす事』
そしてその下にはズラズラと無駄に多くの箇条書き。内容はといえば、単純にして稚拙。書かれた文字もやたら無骨。
しかし、丁寧に書かれていた。物凄く読みにくいが何度も清書した痕跡もある。それに、
『これが実現すれば確かに変わるかもしれない…まあ、手を加える箇所は膨大にありそうだが…』そんな風に思わせもする内容でもあった。
「ふむこれは。まぁまぁに、見事。」
ページをめくりながら、素っ気なく書類の出来を評価するミーニャ。
「『まぁまぁに』…か。ふむ。それは演技じゃないのだろうな?であるならば、嬉しい事だ。」
平然として受け答えするジャスティン。
先日ミーニャが言った嘘の『お見事』。
それを暗に引き合いに出して、皮肉を混じえ問い返したのだ。そんな余裕までも見せた。
ミーニャはといえば、その問いに答えない。
これは別に、皮肉の無礼を咎めての事ではない。
ミーニャはこの男を気遣う必要を、もう感じなくなっていたからだ。
『人の評価を無駄に気にする段階なら、もう卒業したのだろう?』
そういう事だ。ミーニャはもう既にジャスティンの事を対等な者として扱っていた。
「なら早速。この続きは会議室ですね。やり合いましょうか。バチバチと。」
「ふむ。」
(『目覚めてくれれば儲けもの』…そんな思いでジンに託してみたのですが。…どうやら化けましたね騎士団長殿は。獅子に。…いや、これはそんな感じでもない………まあ、なんだっていいのですが。)
そんな事を思いながら、先導するためにジャスティンに背を向け歩いていたミーニャ。そんな彼女を見て
ガタタッ
驚愕の相を浮かべ、廊下の壁に背を張り付かせていたのは、たった今ミーニャとすれ違ったギルド職員。
「なんですか。騒々しい。」
「すすすみませんっ!」
可哀相にギルド職員は叱られてしまったのだが、心中ではそれどころではなかった。怖くてしょうがなかったからだ。ミーニャの顔に張り付いている
獰猛な笑顔が。
それを見たジャスティンは。
「おい。顔がとてもコワイぞ。」
「ぐ!…うるさいですっ」
当たり前のように指摘した。
『言わんといてあげてっ』と心の中で叫ぶギルド職員。
ミーニャとしてもそれは、流石に不服とするしかない。なぜならその笑顔はミーニャなりの『自然に純粋にとても嬉しい』を表現したものだったから。
(…分かりました。いいでしょう。会議室での話し合いはとことん詰めさせていただきます。なので覚悟してください騎士団長殿…。)
密かに報復を誓うミーニャなのであった。
平和だと、敵でもないのにカリスマが揃うと無駄に競ってしまう訳ですが。
魔物蔓延る異世界なので協力出来る。そんな感じです。