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第16話 え、何でいないの?



 騎士団長さんイジメるの、結構好き。




 やっと


《ジョキリ》タイムは終了した。


 全体の形が決まったのだろう。

 今はその形を微調整する段階であるらしい。

 なので


 シャクシャクシャクシャクシャクシャク…


 間断なくリズミカルにハサミの刃が合わさる繊細な音が室内に響いている。

 ジャスティンの視線はその『シャクシャク』音を生むジンの手元に集中していた。

 それは自分が今どんな髪型になりつつあるのか見ない為でもあった。鏡に映るジンの手元に限界までフォーカスして他の映像をぼやかしている。………怖かったからだ。一体今自分はどんな髪型に変貌しつつあるのか…そんな恐怖。


(にしても器用にこなすものだな…)


 そんな風に興味深くも思いながら見ていると


 シャカシャカシャカ…今度は頭皮に残る切った髪の残骸を弾くためなのか、指先による繊細なタッチで頭皮をこすりだした。パラパラと落ちてくる髪の切れ端を見て、思わず目をつむるジャスティン。そして顔全体と首筋を何かで丁寧に優しくブラッシングされたあと、訪れたのは


 ……………………


 …誰も何も言わないし、何もしないという空白の間。


(も、もう終わったのか……?)


 しょうがないので薄っすらと目を開ける…。


(そうだ…さっきの女性客は喜んで帰って行ったではないか)


 ザックリと大胆に切られもしたが…もしかしたら自分では想像もつかないほど格好いい髪型に変身しているのかもしれない。いやそうだ。そうに違いない。でないとあんな大胆に人の髪にハサミを入れられる訳がない……そう、祈りながら、


(…よし)


 ジャスティンが思い切って目を開け…


「…っんなっ!」


 ……て見るとそこには…


「何なのだっ!これはっっ!」


 …変わり果てた頭があった。


 サイドもバックも大胆過ぎて刈り上げられ、頭の上に金の王冠のように短髪がポスと乗せられている。どうお世辞を捻り出そうとしても…、


「なんだ!何だこれっ!かかか格好悪過ぎるっっ!こんな…こん……ハッ」


(これは…もしかしてあの鬼女(ミーニャの事らしい)の差し金ではないのかっ!)


 今頃気付いたジャスティンなのであったが、


(まさか騎士団の権威を更に失墜させるために、このような道化の如き髪型にしてこの自分を笑いものにしようとおおおオオオオオのれええええ!ああの鬼女めええええええエエエエエエっ!)


 ジャスティン。それは飛躍。


 そんな迷走の末、驚愕で見開いた目で何も見ず、ただ疑心暗鬼に夢中でいるジャスティンに向かって、


 ピン。


 と人差し指を立て注目を促すジン。

 それに気付いたジャスティンが視線を移すと…


 シュコアア……。


 何かチューブ状の容器からジンの左手に異常にきめの細かい泡のようなものが膨らんでいき…


「何だそれはそれで何を……ぇなっ…何をするっ!」


 ジンはそのきめ細やかな泡を両手に分けるとフワッフワッとジャスティンの頭髪になじませ、手ぐしで粗く整えていく。その際にはシュワシュワと小気味良い音が鳴って耳をくすぐった。


 そして見る間に地球で言う所のツーブロック、そのパンクバージョンのような感じに仕上げて見せた。


 この世界の人間から見ると、あまりにも不自然な形状で髪が固定されている。ツンツンとトゲトゲしく逆立ってソリッド。いかにも野性的かつ都会的。そんな風情を醸していた。


「何、だぁ……こりゃぁ。なんつーか……もぅよく分からんな…」


 と店主の方は怪訝そうに眺めるばかりである。

 一方、ジャスティンの反応はと言えば…


「な………これが、自分なのか……」


 秘かに綺麗な金の長髪を自慢に思っていたのは確か。


 しかしジャスティンは最近の自分の顔が嫌いになり始めてもいた。自信のなさが滲んでいるように見えて、ともかく団長として相応しくない顔だと思い悩んだりもしていたのだ。


 この通り、彼はクヨクヨとする傾向にある男だったりする。でも空想浪漫に出てくる主人公達のように、正義感に溢れ、かつ迷いが少ない人間など、現実には殆どいない。


 『正義』という観念は多くの矛盾を孕んでいて、追い求める人をこそ試し、悩ませるものだからだ。


 だからこそ、人一倍悩めるこのジャスティンという青年は騎士団長として適任の人物だと言える。


 悩めるということは正義という言葉の中に含まれるいくつもの欺瞞にいちいち躓いては自問出来る『資質』を持つ…ということ。

 『正義』と名を冠するだけの、思考停止のまま凝り固まってしまった価値観を振りかざす……そんな人間ほど信用してはならない。


 ロンプフェーダが彼を推挙したのも、マイスが彼の失態に目をつむったのも、イクリースが片腕を失ってなお彼の傍に居たいと思うのも、ミーニャがこのような搦め手を使って嵌めるような事までしたのも、ジャスティンが生来持つこの『迷いながらも揺るぎない正義』を見込んでのことなのだろう。


(…うーむ。このツンツンがなんとも……雄々しいな。ふむ…これは……うむ。いい……かもしれん。いや、いい。いや!これは、凄くいいぞ!!)


 今、ジャスティンが見つめる鏡の中には、もはや理想の自分に近い顔があった……うーむ。この単純。…もとい素直さもジャスティンの資質なのだろう。


(髪型一つでこうも……)


 自分の顔なのに見慣れない。そう思うほどの変貌。何歳若返ったのか分からない。そう思えてしまうほど、凛々しく精気にあふれて見えた。


 それに、今の所この髪型をしている者を他に知らないというのも心の琴線に触れた。

 彼は常識人過ぎるしミーハーな性格でもないので、『オリジナリティ溢れる外見を他人に誇る』という今の気持ちを知らずに生きてきたのだった。


「うむっ!素晴らしい腕だっ!気にいったっ!」


 さっきまでの不機嫌を忘れパンッと手を叩きジンの技術を称賛する。掌返しが物凄い。


「あのフワフワした泡みたいなヤツがあれば自分でもこの髪型に出来るのか?」


 コクコク。(首肯)


「そうか出来るか。だが…この泡というのは人体に影響などは…」


 バサッ。(書類)


「ほう…もうすでに商人ギルドで試験済みだと…それが登録証という訳だな。なら安心であるな。そうかなるほど…ならばいくらだ?買って帰りたいと思うのだが…」


 チョイチョイ。(指差)


「ん?店主に聞けと?そうか。よし店主よこの泡は何と呼べばいい?そしてこれは幾らで……」


 と、そこまで言いかけ…




「…ってイヤイヤイヤ!お前は何でここにいて!しかも床屋の真似事などしておるのだあああっ!!?」




 キョトン。(はてな顔)


 『え。今更それを言う?』という顔だった。これがノリツッコミだと言うならそのスタートはジャスティンがこの店に入ってその直後から…ということになる。であるならあんまりにも尺の取り過ぎというものであった。そんなジンの困惑に助け舟を出すが如く…


「はうぅ…きしだんしゃま…またおこぅ?」


 どこからか幼き声。


 ジャスティンは ビクッ!


 硬直する。

 何故なら今のは彼が聞いた事のある声だったから。

 忘れられぬ、あの子供の声だったから。


「あのぅ〜…」そして今度は大人の声。


 覚悟定まらぬまま、声がした方を見れば、店主がいた。店主の顔から視線を下げるとその店主の足にはヒシリとすがりつく幼女が………いた。



(うわぁ。)やっぱりあの幼女だった。


『きしだんしゃまは、なんのおちごとをちていぅの?───ふ…ふえ、ふえぇぇ〜ん、ご、ごえ…ごえんなしゃ…ふええぇぇ〜ん』


 そう、あの、幼女だ。


「う…む、あ、」


 大人気なくもいたいけな幼女を泣かせた。あの記憶はジャスティンにとってはジンに抱いたのと匹敵する程のトラウマと言えた。そして今目の前にそのトラウマの原因となったあの可愛らしい幼女がいる。


「あ〜…そのぅ。…キマイラの討伐、有難うございやした。」


 杖をつきながら深くお辞儀をする店主を見るとさらに混乱は増した。何故なら実質的にそのキマイラを討伐したのは、先程まで店主が散々に怒鳴りつけていたあの義肢装具士であったからだ。


 助け舟を求め周囲を見渡せばそのジンは……


(何故だっ。もういない……っ!)




 

 ジャスティンイジめ、


 個人的に流行っててスミマセンm(_ _)m


 あと作中で使われてる整髪料はムースです。


 ジンは錬金の業も一流で、

 スライム素材いじってたら偶然に製法を発見してしまった感じです。

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