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第15話 え。何してくれてんの?


 『義肢装具士…床屋になる』の回(笑)


 入店して来たジャスティンの顔を見て


「あ…。」


 一瞬、固まる店主。


「?」


 何故?


「あ…、その…。今人手が足りてないんで、その、すみませんがそこらの椅子に腰掛けて待っててもらえやすかぃ…。」


 ジャスティンは先程の店主が見せた不自然が、どうにも気になったが言われた通りに腑に落ちないまま、取り敢えずは腰掛けるのであった。そして、


 「だから違うっての!」「ヒイイ!」 …ペコリ。


 というやり取りが繰り返されるのを見つめ続けること数分……


「おいおい、随分とまあ、左右バラバラに…すみませんねえお客さん…。」


 仕上がったらしい女性客の髪型を見て済まなそうにする店主をよそに、当の女性客は


「あら……っ!あらあらあらっ!これ……いいじゃない!」


 先程までの『ヒイ』連呼はどこに行ったのか。喜色を満面に浮かべそう言ったのだ。


「え…そんなので良かったんですかぃ?」


 店の主人は首をひねてばかり。


「いやご主人『そんなの』って。…まあ確かに変わってるけど。でも、すごくカワイイじゃないコレ♪私気に入ったわっ♪」


 予想外の上機嫌だ。たし蟹その髪型はこの世界では珍しい髪型だった。その変わった髪型というのは、地球で言う所のアシンメトリーを利かせたショートボブ。確かにこの世界では見ない髪型である。珍しくもあるだろう。そしてその女性客は


「はい、お代金。お釣りならいらないわ。大満足だから。…まぁちょっとハラハラしたけど。…じゃぁまた来るわね♪」


 そう言って嬉しそうに代金丁度の金額を手渡したあと、


「この可愛さ…イケる。これイケるでぇ。ククク…待っとれや…」


 と何やら不穏な口調でブツブツ言いながら去っていったのであった……彼女にロックオンされている男性には合掌するばかりである。


 ────………………………おっと。」」


 見てはならない女性の暗黒面を垣間見たような気がして思考停止に陥っていたのを、同時に復旧させる男二人。

 ……を見つめながら養生用の布を、胸の高さで両手につまみ、次の客を待ち構える義肢装具士。


 なんだかシュールな絵面である。布を摘む右の義手が黒光っている。それを不吉に感じながらも


「む、で、では、切って貰おうか。」


 ジャスティンは散髪用の背もたれ椅子に腰掛けるのであった。


 ファサリ…。


 騎士団長の周囲で布が舞う。その布は首から下をスッポリと覆い隠すとうなじの部分で結ばれた。そう、……いよいよである。目の前の大鏡越しに見てみればジンが


 クん


 と首を傾げてこちらを見ていた。『さあ今日はどんな髪型にいたしましょう?』そう言いたいらしいのだが、やはり喋るということをしない。耳が聞こえない訳でもないようだが。……まあ、とにかく仕方ないのでこちらから。


「コホン。…今日一日で女性二人に『前髪が鬱陶しい』と言われたものでな。仕方ないので少し短めに…」





 《ジョキリ。》





「「え。」」


 団長は…どれくらいの長さと言えばいいのか分からないが、とにかく前髪を『丁度いい感じ?』で少しスッキリさせて、やっぱりどう言っていいのか分からないのだけど、その前髪に合わせて後ろと横の方も『丁度いい感じ?』に調整して欲しい…という、とてもフンワリとしていて捉えどころが無いんだけども、それでいて自分の中では確固としてある『妥協なき厳密な何やら』を、しっかりと相手に伝えたい……そう思っていたのだ。


 でも…


 《ジョキリ。》


「な…こん…おま…っ」


 《ジョキリ。》


 ああ…言わせてもらえなかった。


 《ジョ「おまえ…」キリ。》


 この3文字ですら言わせてもらえなかった。3文字すら間に合わないほど思い切りよく、切られていく。


 《ジョキリ。》


 秘かに自慢だった金色の長い髪が、断ち切られていく。


 《ジョキリ。》


 切られた箇所には薄っすら地肌すら、見えている。


 《ジョキリ。》


「おいおい旦那…あんたそれはさすがに…」


 《ジョキリ。》


 先程まで遠慮なく怒鳴り散らしていた店主もさすがにドン引きしている。怒鳴る事すら忘れ、ただ呆然としている。

 『いやお前は今こそ怒れよっ!』というジャスティンの心のツッコミは全く届いた様子もなく呆然としている。というか…


 《ジョキリ。》


「………ぃゃ……ぁぁ…ぁの〜……ぁぁそぅだな………ぅん。…まぁ…これはこれで……ぁり?……ちゃぁ…ぁりとぃぅか……ぅーん。」


 どうやってこの責任から逃れるかに思考がもはや完全にシフトしているのがバレバレなのである。そうして…


 《ジョキリ。》


(いやこれ。夢だよな。) 


 《ジョキリ。》


 ジャスティンは諦めた。考える事を。


 《ジョキリ。》


 ……ミーニャよ。 何故この場所を選んだのだ。


 《ジョキリ。》


 何だかもう、

 『取り返しつかない感』?

 半端ない。

 立ち込めるは暗雲のみ。

 これ、本当に大丈夫なんだろうか。


 《ジョキリ。》


 うむ。


 次話に《……ジョキリ。》……続く。







 散髪の時、希望の髪型伝えるのって難しい。

 なので私の場合、


 「短めで、あとは任せます。」


 初めて行く理容店や美容室でもこう言います。

 抜け毛が気になる季節では


 「オシャレなボウズで。」


 これです。

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