第13話 かなわない。
バトル回\(^o^)/
ッッザン……ッ!
〈〈ギャゴォォォエ!!〉〉
キマイラの絶叫で我にかえった。
絶叫がした方を見れば、
キマイラの後方で大蛇の頭が単体で宙に浮いていた。
あの義肢装具士も浮いている。
その手には剣が握られていて。
どうやら彼はキマイラの隙を突いて尾の蛇頭を断ち切る事に成功したらしい。これで熱線攻撃は使えない。地に足を届かせた装具士はそのまま回転しながら
ザキイィン…ッ!
またも何かを切り裂いた。
ボズン…ッ!ズダラララ…ッ!
地に落ち、なおもとのたうつキマイラの尾。
砂埃を上げる。団員達はそれを見守る事しか出来ずに硬直。
後ろ脚を散々に削られ、尾まで失った。
キマイラは身体のバランスを大いに欠き、機動力の殆どを失い、振り向こうにもその動きは辿々しい。
そんな不自由をあの死神が利用しないはずもない。回転の勢いを殺さずそのまま、流水のような動きで
ザグォ…ッ!
キマイラの向こう側。ジャスティンからは死角になるそこへと装具士の姿が潜るようにして消えた。
剣を突き立てた音だけが届いた。
そして
ザググザザザギグチガザザザザ…!
無理矢理に何かが切り裂かれて鳴る、湿った音。
それが連鎖し、
〈〈ギビギギャゲギギギギャアアオオオオオオ!!〉〉
その連鎖を追うようにしてキマイラが狂乱悲痛の声を上げる。
その二重奏に合わせてキマイラの腹の下。
ドボボボボ……ッ
後方から順に何かが…大量の血と臓物。
それらが地へと盛大に撒き散らされ太い列を作るという、グロテスクが見え…、そして遂に
バゴォオ〈〈ゲブアァッ!!〉〉オオォォオンっ!
姿を現した。
キマイラの下顎を…『爆裂させる』そんな勢いで断ち割りながら……あの、装具士が飛び出して…
( いや、アレは… )
纏わりつく魔物の粘い血と臓物で、
後方の宙空に尾を描きながら…
ドチャっ!
地に降り立った。
その姿はもはや…
( …魔獣… )
あの姿を見てしまえば……義肢装具士の背後で事切れ、ズズンと地に落ちるキマイラなどは…もはや過去のものと成り下がってしまった。
消えたように見えた義肢装具士は、キマイラの腹の下へと潜り込み突き立てた剣を手に握り込んでそのまま、疾走り抜けたのであろう。そうして下腹から下顎までを纏めて一文字に斬り割いた。
その結果装具士は…
血泥と臓物にまみれ、
余す所なく紅黒く濡れて、
昏く鈍く光って、
そのただでさえ禍々しいシルエットをさらにと歪ますほどの湯気を立て、その湯気は凄まじい程の異臭を放ち、そして今…目の前に。平然として、
立つ。
(…こ、んな姿を…見て、しまえば……)
ボソ「死神……」リ
言ってしまってハッとする。
しかし思わず溢れ落ちたそんな言葉などは意に介さず
────近付いて、くる。
───死神───
「く…」(るな……っ化けも…)
言いかけて止めて、心の中でも言いかけるのを、必死の想いで堰き止める。自分達を救ってくれたこの男に感謝すべきである…それくらいの道理は理解できていたからだ。
バシャッ
タパパパポポ…
「ぷあ…っ」
顔面に、身体全体に…何かの液体がかかり、雫を跳ね散らし濡らした。義肢装具士に何かを浴びせられたらしい。
遅れて…シュオオ……独特の音。
何かが和らいでいく。和らいだこれは…痛み?
どうやら自分はかなりの火傷を負っていたようだった。
それに気付いてイクリースの方を慌てて見る。
どうやら彼女も大火傷を負っていたようだ。焼け爛れた顔の皮膚がパリパリと見る間に剥がれ落ち、新たな皮膚へと修復されていく。
義肢装具士がかけてくれたそれは回復薬だったようだ。しかもかなり高性能な。つまり、かなり高価な。
それに気付いたのは後のことで、つい、自分は彼に責めるような視線を送ってしまった。
何故ならイクリースの片腕が失われた断面までもが治癒されてしまったからだ。こうなるともう、腕を繋ぎ合わせることは出来なくなる。すると
ボト…ッ
目の前に何かが落とされた。
ズタズタになってところどころ骨が覗き、そのところどころの骨は砕け、千切れかけているが筋繊維で何とか繋がっていて…しかも全体的に溶け始めている、そんな無惨な、女性の腕。
これは、イクリースの腕……だったものだろう。それを見ればもう修復は不可能であるのが理解出来た。
義肢装具士はわざわざキマイラの腹を割き直してその臓物の中からソレを取り出してくれたのだ。言えば解るだろうにこの男は何故か…喋ることをしない。
にしても、こんな無惨な残骸を、こんな無造作に目の前に投げてよこすとはデリカシーがなさ過ぎる。…流石に言ってやろうとして義肢装具士を見れば、彼の両手はシウシウと溶けるよな音を立て、煙を上げていて。
……そうだ。何故…あの数瞬で副団長の腕を溶かしかける程強力な胃酸を…手だけでなく、身体全体に浴びて平然としていられるのだろう…この男は…。
あれ程の胆力。
あれ程の戦闘技術。
あれ程の身体能力。
そしてこれ程の耐性機能。
その上で技術職。
しかも、魔導義肢なんていう、高度な技術を必要とする職にあって…。
どうやったらそうなれる?そう在れる?
(一体、どれ程の修羅場をくぐり、…どれ程の犠牲を払って…どれ程のスキルを……この男は…。)
何もかもだ。
桁が、違うのだろう。
有能さの権化に見えた。
全能の化身にも。
醜く穢れたその姿が、
何故か直視出来ぬ程に眩しくて。
…見てるだけで…ただ苦しい。
妬ましくて、悔しくて、イクリースが心配で…。
その後はグチャグチャになった心に身を任せてしまっていた。ただ茫として動けないでいるだけ。
何やら…
「臓物と血だけを残して素材の全てを持っていくというのか!この業突く張りの……死神めっ!」
と団員が口々にあの男を罵る声が聞こえたような氣がしたが…。
「えちょ。いや待ってっ!?臓物まで持ってくの?嘘だろ『死神』?」
そんな声もあった。
一から十までとは言わないが、冷静に考えてその『死神』の力無くしてはキマイラなど倒せるはずも無かった。だから本当ならそんな暴言を吐く団員達を嗜めなければならなかった。
でもあの時は…ただ呆然として彼が去るのを見送った。そう…彼には礼の一つも言っていないのだ。
(…何とも情けないっ。なんとも不甲斐ないっ!団を預かる資格など…こんな自分にあるはずもないっ!)
ノガード兄弟に声を掛けられた事をきっかけに、『思い出したくない』と無意識に封印していたものが全部鮮明に甦ってきた。そして…
「────という次第、如何様にも…」
と言葉を結ぶ。
(え?いや、結ぶ…だと?……?……え?え?)
何を言ったのかあまりというか殆ど覚えていないのだが、ジャスティンは改めて抱いた自責の念に素直に従った。
そしてその勢いのまま、あれ程億劫にしていた謝罪を……どうやらいつの間にか済ませてしまっていた……らしい。
いつの間にか同席していたエコノス支部支部長と、ミーニャ上級職員を前にソファに腰を落ち着け話していた……そんな感じだ。なんとまあ実にふわっとした…謝罪の会談。それでいいのかジャスティン。とまた自問。
何故なら…それを聞いていたらしいミーニャは、こう返して来たのだ。
「…………見事。」と。
(…は?……………ジャスティンよ…)
「様々な葛藤があったことでしょう。それに負けず、ここまでの事を言って頂けるとは。…お見事です。正直、今の今まで私は貴方の事を見くびっていたのかも知れませんね…。…確かに、謝罪、受け取りました。」
(…………え?え?…一体、何を言ったんだ。ジャスティンよ…)
…やはり全く覚えていないジャスティンなのであった。
(一体全体……)
この『烈腕ミーニャ』から『見事』などという言葉を引き出してしまう…これはとんでもない珍事なのである。
(何故覚えていないんだ。自分は。こんなに残念で仕方がない事もそうそうないぞ…)
と自身の思いがけないファインプレーを何故か悔やむという複雑な気分でいると…
「そして、申し訳ありませんでした。先程までの私の不明を許していただけますか?これはこのエコノス支部からの謝罪として受け取ってもらっても構いません。」
(なあっ!?しししかもっ!なんとっ!………はぁ?)
そう、しかもだ。
謝罪までも引き出してしまった。あのミーニャから。それもギルドを代表してまで。これは天変地異の前触れに等しい大事件である。一方で
「えー〜〜〜…………」と声を洩らし、
『はあ?勝手にそんな事言ってしまう?支部長である私を差し置いて?え、えー〜〜〜…………いいのかソレ?』という顔をしている支部長。そしてそんな支部長の後ろに立ち、『不憫な…』という顔でみつめる副支部長。
この支部で最高責任者であるはずの彼は……ミーニャから完全に蚊帳の外にいる者として扱われていて、しかもそれは暗黙のルールであるらしい。それが一発で分かってしまった。
(…えっと…)
このギルドに足を踏み入れてより畳みかけられてきた様々なギャップで、もう脳内が大忙しなジャスティン。
(…一番哀れなのは、この支部長なのかもしれないな…)
そんな騎士団長殿にはこんな感想で締め括るのが精一杯なのであった。
(今度酒でも、誘ってみるか…。)
バトルはリアルかどうか…というより
生々しさにこだわってます。
それが伝わってなお嫌いではない。そう思うあなたはこの小説適切…あるのかもっ!
ブクマしときましょ(*´ω`*)