第11話 姐御の助死リョク。
今日も宜しくお願いしますm(_ _)m
ミーニャの姐御登場回です。\(^o^)/
ジャスティンはこの人物が大の苦手なのであった。
会うたびに自分よりも背が低いはずのこの女性に、『見下ろされている』ような感じがしてならなくなる。
これはジャスティンに限ったことではなく、ほんのほんのほんのほんのほんの一部を除く、、、全ての男性が感じていることなのであるが…まあ、そんな事をジャスティンが知るはずもない。
とにかく挨拶は基本だ。向こうからしてくれたのだからこちらも礼儀を尽くすのみ。
「ご無沙汰している。ラズール殿。」
「ミーニャで結構。私達はこのエコノスの為ならどんな時も協力を惜しまず連携し連帯する、志を同じくする同士。そうでしょう?だから遠慮は要りません。」
バッサリと。
初っ端から強烈な先制攻撃。
なんとも容赦のない皮肉。
巷で噂の『烈腕ミーニャ』。
彼女には遠慮というものがないのである。
まあ、彼女の本領を知る冒険者達ならこの姿を見てこう思ったであろうが。
『あれ?姐御今日調子悪いの?』と。
そう、彼女はこれで一応、手加減しているのだ。
でもそれはあくまで彼女の常識内の話であるのだが。
(ぐうぬうう。だから苦手なんだこの鷹の化身めっ!)
ミーニャ=ラキ=ラズール。
そう名前はミーニャ。
名前はとても可愛い。
でも見た目は抜き身の真剣。
それを思わすほど鋭い雰囲気に包まれている。
背はぎりぎり170に届かないぐらいか。この世界では女性でもそれくらいの身長は珍しくもない。…のであるが。彼女の場合に限っては中肉中背という表現は適用されない。
その肉体は男性職員用の服(白いYシャツと黒ネクタイ、そして黒くタイトなスラックス。)の上から分かる程に研ぎ澄まされている。あの女性らしい胸の膨らみまでもが鍛えられていると見ていいだろう。
濃い紫の長い髪を括ることなくオールバックにしている。括られず、束ねられてもいないその髪の一本一本までに神経が通っているに違いない(偏見)。
数本だけ額にたらした髪の向こうにある顔を見れば、眉は細く長く天然に整えられていて、その下にある眼はジャスティンが先程喩えたのに相応しく鷹のように大きくそして鋭い。紫色の黒目部分が小さく見えるほどだ。
そんな目に釣られたように鼻筋も顎も妙に尖っていて、これまた鋭さに拍車をかけている。それらのエフェクトが顎のえらに浮かぶ筋肉の強張りをも自然なものにしてしまっている。
…綺麗な顔立ちであるはずなのに、女性であるようにはまるで見えない。勿論、男性に見える訳でもない。
人では及ばない知性と自然美を持つ獣。
そんな感じだ。
彼女はこの冒険者ギルドエコノス支部で、上級職員として務めている。この支部の最高責任者である支部長ですら頭が上がらないという女傑である。
『姐御はよぉ。目で凍らして言葉で射抜いて、拳で語って、結局足で踏み砕く。もう目の段階で死に体なんだぜコッチは?容赦ってもんを知らねえ。イキがるのもいいがよ。姐御相手に舐めた口きいてると軽く死ねるぜ?だからお前らはまず、そこんとこだけは気ぃつけとけ。な?』
と、ベテラン冒険者が蛮勇を誇る新人冒険者に諭して聞かす…そんな言葉通りの人柄で、荒くれが集うこの冒険者ギルドで最も畏怖されている人物だ。
なので見た目に依らず割と繊細だったりするこの騎士団長にしてみれば天敵にも思える存在だった。
「そうですね…こんな場所で話をするのも如何なもの。どうぞ。中へ。騎士団長殿。……茶を淹れさせましょう。」
何というか、ただの日常で使われるはずの言葉であるのに、それだけでプレッシャーが物凄い。
「か、かたじけない…。」
なので、変に緊張して時代掛かった物言いになってしまうジャスティンであるのだった。
そんな先制口撃を何とか耐えきったジャスティン=クルセイア騎士団長。『ミーニャの姐御』こと『烈腕ミーニャ』に連れられギルド内部へと入って行く。
実は彼がギルド支部の中に足を踏み入れるのはこれが初めてのことであった。なんだか物珍しくてついキョロキョロとしてしまう。
ロビーは外観から想像したよりも狭かった。しかし冒険者達から魔物素材や金を預かる以上、素材保存庫や金庫などの管理部門の他に解体室や応接室など様々な用途で使われる部屋が必要である事を考えれば、これは必然であるのかもしれない。
それにしても…煙草の煙が充満していて視界が悪い。
採光兼、空気入れ替えの窓はあるようだが、煙の生産量がそれを上回っていて中は随分薄暗く感じた。
それを補おうと魔導照明がいくつも壁や天井に取り付けられているがヤニで黄ばんでしまって折角の性能を台無しにしている。
(何というか…『管理の行き届いた巣窟』?…うん。そんな感じだな。)
左手を見れば手前には大きめの丸テーブルがいくつか並んでいて、そこでは打ち合わせらしきものをしている者達や、酒を酌み交わす者達、カードゲームを楽しむ者達などが居て憩い場となっていた。
受付嬢が何人も並ぶカウンターはその奥側にある。その受付嬢の背後では職員が忙しく働いているのが見えた。
受付ごとが手摺りで遮られていて列に並ばなければならないようにしているようだ。横入りや殺到が出来ないようにしているのだろう。
(荒くれ共が行儀良く列に並ぶ姿というのは…雰囲気として違和感しかないな…)
そんな事を思いながら右手を見ればカウンターバーがあり、そこではやたら巨体のバーテンダーが一人で切り盛りしていた。図体に相応しくその顔はコワモテ中のコワモテだ。
そのバーテンダーの圧力に耐えられる者だけが座って飲み食いが出来ているらしい。
座っている者達をザッと見ただけで分かった。あれらはこのエコノス支部でも有力な冒険者の何人かであるのだろう。酒を嗜んでいるだけでそれぞれ独特過ぎる雰囲気を醸していた。
依頼が張りつけられた掲示板は一番奥の壁にあった。大して人集りは出来ていない。何処を見ても思っていたより混雑していなかった。噴水広場ではあれ程沢山の冒険者達で賑わっていたというのに。
「思ったよりも狭いのだな…。これでこの都市の全冒険者を相手出来るのか?」
それは、ひと通り見ての、何気ない、言ってしまえばただの独り言だったのだが。
「無用な混雑を避けるために新規とソロの方々以外…このエコノス支部に在籍するパーティは代表者のみが入れるようにしています。そうしてみれば事前にパーティ内で打ち合わせをするようになり、またそれは密なものとなりました。それが良い教育となったのか、ワンマン的なパーティが減り、無責任なパーティリーダーも減りました。」
そう。ふと浮かんだ…ただの素朴な問いかけだったのだ。いや、誰に向けたでもない、ただの疑問が口を突いて出ただけ。
(……だったというのに…急に何なんだ…)
「パーティメンバーの視線もないのでリーダーの面子を無駄に賭けた小競り合いも減りましたね。すると不思議な事にパーティ間の力関係で依頼獲得時に生じる不平等も減りました。
混雑する時間帯も特定出来るようになったので人員の集中も可能になります。そうなればギルドの負担も減るので人件費も削減出来、ギルド職員にも自由な時間をやれます。」
…出るわ出るわ。ジャスティンにして見れば予想外の情報量。
(いやだから。ちょっと待て…)
「テーブルコーナーを見てもらって分かる通り、メンバーの目を気にする事なく気負う事もなくなったからか、代表者同士での交流がしやすくなったようです。そうなれば、ギルドとしても複数パーティの連携が必要な高難度の依頼も頼みやすくなります。複数パーティであたるなら危険な依頼での死亡率も減り、それは人員の確保にも繋がります。」
…思った以上の文字数と丁寧さだった。何だか申し訳なくなってくるジャスティン。
(いやちょっ…そんな一気に言われても入って来ないしっ。)
「外で待つメンバーは手持ち無沙汰でしょうが、噴水広場周辺の店舗にお金を落としてくれているようです。噴水広場という中心が賑わえば、この都市全体に活気が広がることにも繋がるでしょう。
簡単な事ですが一石を投じるだけで何羽もの鳥を仕留められる。これはそんな仕組みだと私は考えています。」
…以上、ジャスティンの独り言に対するミーニャからの回答。その全文。…正直、『クドい』と思ってしまった。
(きっとその『一石』とやらはこの『烈腕』が投じたのだろうが…それにしても…もしかしてこれって遠回しの『口撃』というやつだったんだろうか?)
やはりこのミーニャは先日の…キマイラ討伐の一件が腹に据えかねていて、『オラお前、管理職ならもう少し頭使えやっ』と暗に言及されているように思えてしまったジャスティン、なのである。
実際は騎士団長の緊張をほぐすつもりの、ミーニャなりのリップサービスであったのだが。意外とお茶目に不器用なミーニャの姐御、なのである。
騎士団とギルドの『不協和音』を見事に体現してみせる二人、なのである。
(と、とにかく、このままだと口を開く度に管理者としての能力差を痛感させられてしまう…そうに違いない。)
そんな危機感をおぼえてしまったジャスティンは応接室に通されるまでは口をつぐむことにしたのであった。
この姐御は、『アメとムチで言うなら圧倒的にムチが多くて、やたらめったら怖いのに、なんとなく、なんでか、ついていきたくなる女性』というイメージです。
描いてて思ったんですが
「Mっ毛というものが…、あるな…俺の中に。ある。うん、あるわ。」
そう思ってしまった回でした。
Mに造詣が深い方、色々感想等で教えて下さい笑
あとブクマも宜しくです(*´ω`*)