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第1話 異世界の義肢装具士。


 宜しくお願いします(*^^*)




 『腕』が外された。少年の身体から。

 

 実にスムーズに。


 腕を外されたその少年は泣かなかった。

 痛がりもしない。

 別に人一倍我慢強い訳でもなく、

 【苦痛耐性】のスキルを持っていたという訳でもない。

 取り外されたその腕というのが


 『義手』であっただけだ。


 それに、外された箇所にはまた新たな義手が装着されるようだ。だから大人しく外されるに任せていたのだろう。

 その少年に新たな義手を装着してやっているその手も義手であった。


 『互いに義手である』という、一種の連帯感がうまれていたのかもしれない。とにかく、少年は行儀よく、大人しく、安堵すら覚えながら自身の義手が換装されるのを見守った。


 少年の義手を換装していた義手の男は少年と目線を同じくするよう腰を落ち着けている。


 多分この男は『義肢装具士』であるのだろう。


 『義肢装具士』というのは四肢の欠損を補助するための義肢や、身体機能の不全を補完するための装具を造る職能を持つ者達の事。


 その義肢装具士の男は、少年に装着した義手の動作、その一つ一つを丁寧に確認していった。そして確認をしながら微調整も施していく。


 …どうやら新しい義手は問題なく少年の身体に馴染んだようである。それをじっとして見ていた少年は笑顔を弾けさせこう言ったのだ。


「おじちゃん有難う!これ…うん。ピッタリだよっ!」


 どうやら成長期の盛りにあるこの少年の身体には、前の義手では合わなくなっていたらしい。今の一連の作業は成長したその身体に合わせるための換装だったのだろう。


 『義肢装具士』は礼を言う少年に言葉を返さなかった。ただ頭をそっと撫でてやるだけ。





 「…おい。」





 そんな無言なる義肢装具士にまたも声がかかった。声は頭上から降ってきた。少年からではない。

 そしてその声色はさっき少年が発したものとは全く違っていた。感情だってまるで籠もっていない。


 ボトリ。


 その後に続いた音もまた味気ないものだった。

 地面を見れば金子の入った粗末な布袋。

 どうやらそれは少年のために新装された義手の代金であるらしいのだが、少年の父親らしき男はそれを手渡す代わりに地面へと落として寄こしたようだった。

 

「…用が済んだんならそれ持って、とっとと帰ってくれ。」


 重ねられる無礼。

 言われた義肢装具士はそれら無礼に抗議することをしない。相変わらずの無言。そのまま、袋を拾い上げて立ち上がるとスッと頭を下げ、去っていった。実に潔い所作で。

 

「父ちゃ…なんであんな…」


 流石に申し訳なく思った少年が装具士に代わって父に抗議しようとしたのだが。


「『死神』め……」


 その返事は実の父から聞くには余りに不吉なものだった。


 まだ幼い少年の身……。だから途端に分からなくなった。何を思って良いのか。

 分からない以上口を閉じるしかない。そのまま他に為す術を見出だせない少年は、ならばせめてと義肢装具士を見送ろうとした。


 見てみれば彼は先程の不遇に何も感じていないように見える。『何も起こらなかった。』そんな感じだ。


(この人はいつも…)


 『何でもない。』そんな顔だ。


 ふと頭によぎる。


 『この人には、心が無いのだろうか?』


 いや、

 いいや。


 そうは思いたくない。

 思えない。

 だって、感じてしまったから。

 頭に触れてくれた彼の手に。


 分厚いくらいの、温もりを。


 ……その手は、自分と同じ義手であったのだ。

 義手であってあれほどの温もりを、人に伝えられる。


 それは少年にとって何よりも確かな希望に思えた。だから信じたいと思うのだ。だからこそ目が離せない。義肢装具士の横顔を観察せざるを得ない。


 …見た感じだとどうやら彼はもう既に興味を次に移しているようだった。その視線の先には珍しく村に来ていた騎士団の一行…。


 どうやら次は彼らに『何か』を見ている。

 何を気にしているのかまでは、解らない。


 騎士団の面々を見てみれば、誰も義肢を必要としているようにも見えない。


 『一体、騎士団の何がそんなに気になるのだろう?』


 『………なんだか……計り知れない人であるな』


 と少年は義肢装具士を改めて評しながら、こうも思った。


(あれは、心が『無い』んじゃないんだ…きっと。あの人は…たくさん…入っちゃうんだ心の中に。たくさん入れることができるから……だからあのおじちゃんは…あんなに…)


 少年は、そっと、そう想うことにした───。


 

 

 ===============




 ────ここは、異世界だ。


 異世界と聞けば、

 まず何を思い浮かべるだろう?


 勇者と魔王。

 冒険者と冒険者ギルド。

 騎士と姫君。

 中世チックな城や街や村。

 剣。魔法。スキル。


 チート。

 存分に無双。

 楽しくハーレム。

 気ままな旅暮らし。

 etc… 冒険に溢れた世界。

 現実では味わえぬ、そんな夢で溢れた世界。


 それは、人が持つ『夢』に正しく寄り添った世界。

 でもそれは、実在しない世界だから『夢』たりえるのかもしれない。もし、実際にその異世界が実在していたらどうだろう?


 『勇者や魔王や騎士や姫様がいて剣や魔法やスキルを駆使しなければならない、そんな命懸けの冒険に事欠かない世界』にもし…付け加えられてしまったら?


 『現実』という言葉が。


 そんな世界はきっと、奇跡で溢れてばかりでは、いられなくなる。

 

 そんな世界には、魔法という万能なる力を以てしてもどうしようもない事が沢山あるからだ。

 そんな世界では、素の部分での人間力が、どうしようもなく試される事が沢山あるからだ。


 文明があるなら社会もあるだろう。であれば法もある。しかし…中世に似た世界であるなら法整備もいい加減なものではないだろうか?


 そんな世界では

 どんな迫害を受けるか分からない。

 どんな罪に問われるかも分からない。

 どんな非道な罰を受けるかも分からない。

 どんな悪党に目を付けられるかも分からない。

 どんな不運に遭遇するかも分からない。


 いや、それだけではない。


 忘れてはならない。


 もっと恐ろしいものがあるではないか。

 異世界特有の恐怖と言えば…そう、


 ───『魔物』。 


 『現実』がプラスされた異世界というものがもし、虎やライオンや北極熊などの猛獣を足して3で割って10以上を掛けたような超生物や、地球の物理法則を完全に無視した巨大生物が普通に繁殖する世界であったらどうだろう?


 それは、『滅び』がすぐ側に在る世界……。

 

 ……地球人にとって馴染みか有りつつも、もはや御題目でしかなくなってしまったこの、『滅び』という言葉。

 …環境破壊や無くならない戦争、エトセトラ。世の中ではそんな『滅び』についてずっと前から熱心に話し合われている。

 しかし真に熱心なのはほんの一握りだ。殆どの人が『滅び』をリアルに実感出来ていない。

 災害や難病や理不尽な暴力にさらされた事のない人の殆どは『きっと誰かがなんとかしてくれる。』無意識にそう思ってしまっているのが現状だ。

 残念ながら私もそうだ。環境が破綻した未来には確実な『滅び』が待っているというのに未だエアコンを手放せないのはいい例だろう。


 そんな私達では想像は出来ても実感など出来ない。

 魔物がいる世界とはどんな世界であるかなど。


 魔物がいる世界とはきっと、そこに生きる全ての人にとって『滅び』が他人事では全くなくなった世界だ。極端な話、一国の王ですらその例外ではいられない世界。


 『滅び』が常に、息がかかるほどの直ぐ側に在る。『寿命以外の死』や『全滅』という現実を、思い知らされ続ける…そんな世界。


 そんな世界で生きる人々の殆どはきっと心に余裕なんて、本当には持てないだろう。


 『運が悪かったら→死んで当たり前』そんな理不尽がまかり通る世界なんだから余裕なくしても当然だろう。有ったとしても微々たるものに違いない。


 『魔物に襲われた。手足を食いちぎられ欠損した』


 そんな人生を大きく狂わす一大事ですら『死なないだけ幸運だった』と見過ごされてしまうかもしれない。


 かと言って、人は人だ。

 誰もが無慈悲というわけではないだろう。


 現実に魔物を見てしまえば誰だって、人類のか弱さを痛感してしまう。誰だって魔物が怖いに違いない。


 というわけで自然として定着するのは『人類=弱者』という常識。

 誰しもが『自分は弱者』だという自覚を持ち、共感を持つ。『誰だって弱者なんだ』という共感を。


 共感出来るなら連帯があって、連帯出来るなら慈悲だってあって当然だ。

 それら共感や連帯を頼りに泣けなしの勇気を持ち寄って団結することにもなるだろう。そしてその団結の力で魔物に対抗だってするはずだ。


 なのに……いや、だからだ。


 その団結の妨げになる弱者にまで構うほどの慈悲や余裕を、この世界の人々の殆どは…きっと持てない。これは矛盾ではないと思う。


 共感して慈悲をかけるには余裕というものが必要であり、その余裕には、限界があるのだ。


 ただその限界が、こんな世界ではひどく狭く調整されてしまうだけだ。皆その限界を見極め生き伸びるしかなかっただけだ。それもこの異世界の『現実』の内であっただけなのだ。

 勿論、そんな諸々の『現実』に精一杯抗おうとする者も、いるにはいた。


 『異世界街のとある義肢装具士』


 彼もその一人だった。

 まあ、彼にそんな自覚はないのだろうが。


 彼の中にヒロイズムなんてものはない。

 彼はそんなロマンチシズムを持てないくらいには現実を知っているし、そのきっかけとなる挫折も味わったことがあるからだ。


 そんな彼は『勇者になる』なんて夢をこの異世界に見出せない。夢なら他にあったらしいがそれすらも忘れてしまった。数奇なる運命に導かれ、彼は当然の結果であるように選んだのである。


 『義肢装具士』という職を。


 職というのは生き残るための手段でもある。

 そして当然それだけでもない。


 『義肢装具士』という職は、彼にとってこの異世界の『現実』への、精一杯の反抗であり、その『現実』に迫られ選び取るしかなかった(ただ)一つでもあった。



 これは、そんな一人の男と、その男に関わった人々が織りなす、とある大英雄の物語…


 …… 



 ……に、なるかもしれない物語。 




 もし、引っかかるものがあったなら…ブクマ、感想…待ってます\(^o^)/

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