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男の人が助けを呼んだのか、ちょっとした騒ぎになってしまいました。

どうも、あの猫は王宮にいついている「ねこ様」として、崇め奉られている存在だったようです。

そんなねこ様のお昼寝を邪魔したと、偉い人たちが怒っています。


「いったい、どういう教育をされているのやら」


親の顔が見てみたいと、知らないおじさんに言われました。

平民でも知っていることを、幼いとはいえ貴族の令嬢が知らないとはと、大げさに嘆いています。

平民でも、ねこ様のお昼寝を邪魔してはならないと、幼いころから親に言われて育つそうです。

私も先生に教わりましたが、邪魔をしたわけではなく、一緒にお昼寝をしたが正しいのですが?

くどくどと、お説教を聞いていると眠くなってきます。

父親、早く迎えにきてくれませんか。


ようやく助けが来たようで、父親の姿が見えました。

なぜか、陛下もご一緒ですけど。


「私の娘が迷惑をかけたようだな」


ただそれだけなのに、私にお説教をしていた男の顔色が青くなります。

親の顔が見てみたいって言ってたじゃないですか。

あれが父親ですよ?

そう言ってみたい気もしますが、大人しく黙っておきましょう。


「……いえ」


先ほどの勢いはどこへやら。

というか、なぜ私の父親に怯えているのでしょうか?

侯爵とはいえ、父親もしがない宮仕えの一人のはずですが?


「そう威圧するな、イヴァン」


陛下は先ほどお会いしたときと変わらずニコニコされていますが、どこか楽しそうですね。


「別に威圧などはしておりません」


まぁ、父親の無表情もそれはそれで怖いと感じる方もいると思います。

私は見慣れた感がありますが。

……私って、父親似だったのですね。


「さて、ティレニア嬢がねこ様の邪魔をしたということだったな。ティレニア嬢、なぜあの場所にいたのか、説明してもらえるか?」


「はい。お昼寝ができる場所を探しておりましたら、あの東屋を見つけました。一応、ねこ様にお声をおかけして、一緒にお昼寝をしました」


「つまり、ねこ様の邪魔はしていないと言うのだな?」


そうですと肯定すると、あの男がしかしと異議を唱えます。


「ねこ様が邪魔だと感じられたのであれば、私のことをすぐに追い出したでしょう」


ねこ様がそうしなかったのだから、邪魔ではなかった。私はそう主張します。


「確かに、ねこ様が邪魔だと思えば、何かしら行動を起こされていただろう」


ですよね。

私もお昼寝を邪魔されたら、絶対に不機嫌になりますし。

お昼寝の大切さは重々承知していますから。


「子供の言うことを真に受けては……」


男はなおも言い募ろうとしました。

陛下が大きくため息を吐き、少しあからさまではありますが、失望したという態度に誰もが口をつぐみました。


「一から言わないとわからないか。ティレニア嬢がただ者ではないとは思わなかったか?」


陛下の問いに答える者はいませんでした。

そして、陛下は一つずつ告げます。

今日、私が王宮にいるのは、王子のために招待されたから。

それなのに、王子に興味を示さず、抜け出したこと。

ねこ様に遠慮するどころか、一緒にお昼寝するという豪胆さ。

そして、これだけ大人に囲まれているのに怯えもせず、堂々と正当性を告げる度胸。


「どれも、六歳の子供とは思えない」


あれ?私、(けな)されています?

何か釈然としませんが、王子に興味がないことも、ねこ様と一緒にお昼寝したことも本当ですので、言い返せないですね。


「実に将来が楽しみだ」


「あげませんよ」


「まだ、何も言っていないだろう」


陛下に対して軽口を叩く父親。

もしかしてとは思っていましたが、陛下と仲がいいのでしょうか?

年頃も近かったはずですので、ご学友だった可能性はありますね。


「して、娘に(とが)はないということでよろしいでしょうか?」


「あぁ。ティレニア嬢はねこ様に許された。それがすべてだ」


では、もう帰ってもいいですか?

眠らないよう、意識を集中させるのも、そろそろ限界なのです。

父親が話をまとめて、ようやく退室すると、ふっと意識が遠のいて、カクンと頭が落ちそうになりました。

頭がぶれた衝撃で意識が戻りましたが、危ない危ない。


「……眠たいのか?」


ふらついた私を支えようとしてくれたのか、父親が不自然な格好で手を伸ばしていました。


「はい……もう限界です」


すると、父親が私を抱きかかえたではないですか。

記憶にある限りでは、こんなことされたの初めてですね。

父親が歩くたびに伝わる振動が心地よく、そのまま眠ってしまいました。


目が覚めたら、自分の部屋でした。

誰かが着替えさせてくれたようなので、今日はこのまま寝ることにします。

思っていた以上に疲れているみたいです。



◆◆◆

再び王宮に呼ばれました。

今日も王子のお友達選びだそうです。

前回と同じ部屋に連れていかれましたが、父親とは部屋の前で別れました。

似たような光景ですが、王子は男の子たちと積極的に話していますね。

女の子たちはそれを遠巻きに眺めていますが、王子だけでなく、将来の側近たちをも視野に入れているようです。

それが、本人の意思なのか、親の命令なのかはわかりません。


盛り上がっているうちに抜けてしまおうと、窓に近づくと視線を感じます。

あの警備の者、それに侍女もですか。

私が抜け出さないように見張れとでも言われているのでしょうか?

かと言って、いつまでもここにはいたくありませんし。

何か言われたら、そのときに考えましょう。


そっと窓を開け、露台に出ても、警備の者は動く気配がありません。

侍女の方がこちらに向かう素ぶりを見せたので、私は慌てて庭に逃げました。

追いかけてくる様子はないようです。

周囲を警戒しつつ、あの東屋(あずまや)に向かいます。


東屋に着いても、ねこ様はいませんでした。

残念ですが、ねこ様のお昼寝場所はここ以外にもたくさんあるのでしょう。

今日はここでお昼寝するとして、次があればねこ様のお昼寝場所を探してみるのもいいかもしれません。

きっと、気持ちいい場所でしょうから。


東屋でお昼寝をしていると、何かもぞもぞと動く感触がしました。

右腕と体の間に、何かが潜り込んできているような……。

夢現つの、ぼんやりとした状態でしたが、確かめるとねこ様がいました。

腕の隙間に体を収め、私の腕を枕にして、すでに目を閉じています。

ねこ様が触れている部分が、じんわりと温かくなって、私も目を閉じました。

今日もお昼寝日和ですね、ねこ様。


あとから来られたねこ様と一緒にお昼寝を満喫すると、なぜか父親が迎えにきました。


「ねこ様、娘が失礼いたしました」


「なぁーん」


恭しく礼を取る父親に対して、ねこ様は一鳴きすると毛繕いを始めます。

気にしていないということでしょうか?


「ねこ様、ありがとうございました。今度は別のお昼寝場所も教えてくださいね」


図々しいかなと思いましたが、お昼寝仲間のねこ様なら許してくれるかもしれません。


「なぁー」


すりすりと頭を寄せてくるねこ様。

これは、次に期待が持てますね。

甘えてくるねこ様の柔らかな毛並みを撫でて、約束ですよと呟きました。

それにしても、ねこ様の毛並みはとても美しいですね。

新雪のように真っ白で、艶もあって、羨ましいです。

私の髪は父親とそっくりで、黒く重たい印象を与えてしまうようですから。


「それでは、おやすみなさいませ」


陽が傾いているので、ねこ様は温かい寝床に移動して、また寝るのでしょう。

だから、おやすみなさいと言って別れました。


屋敷に帰る馬車の中では、父親が難しい顔をしていました。

無表情が売りの父親にしては珍しいこと。


「本当にねこ様と昼寝をしているんだな」


「えぇ。お昼寝場所を貸してくださるなんて、優しいねこ様ですよね」


動物でしたら、私もお昼寝場所を取られてもなんとも思いませんが、人間は許しません。

ねこ様にとっては、私も他の動物と変わらないのかもしれませんね。


「……何かあれば、すぐに報告するように」


はいと返事はしましたが、何かというのが漠然としすぎていて困ります。

何かとはなんでしょうか?

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