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商人に相談した例の枕も完成して、私の安眠はますます快適になりました。

それに比例するかのように、妹が騒がしくなっていきます。

二歳になった妹は、毎日屋敷中を走り回り、奇声を上げ、転んでは泣き叫ぶということを繰り返しているのです。

以前、使用人たちが隠れて話していたことがあります。

この家の娘は両極端だと。

気味悪く大人しい姉と、暴れん坊でうるさい妹だと。

妹が生まれたころは、元気な赤ちゃんだと嬉しそうに世話をしていた乳母も、今は手に余ると嘆いているそうです。

私と違い、ほとんどお昼寝をしない妹の相手をずっとやっているのですから、父親も乳母をもっと(いたわ)ってあげるべきです。


ある日、父親に呼び出されました。

私を王宮に連れていくそうです。


「なんのためですか?」


「第一王子のご友人を選別するためだ」


王子なんて人、そういえばいましたね。

私には関係ないので、すっかり忘れていましたよ。


「では、招待されているのは私だけではないのですね?」


「あぁ。同じ年頃の子息令嬢が招待されているよ」


では、なんとかなるでしょう。

途中で一人くらいいなくなってもわからないと思います。

いいお昼寝場所があるといいのですが。



いつも以上に着飾らされて、馬車に乗り込みます。

私は小さな猫を連れていくことにしました。


「ずいぶんと気に入っているようだな」


私がお出かけの際にはいつも持っていくので、父親は私にぬいぐるみを愛でる感性があったのかと喜んでいるらしいです。

ぬいぐるみではなく、枕として愛でていますよ。


「そうですね。この子がいないと眠れないので」


王宮に着き、大きな部屋に通されました。

そこには、私のように父親に連れられた子供がたくさんいました。

みんな一様に緊張した面持ちをしていますが、女の子は気合いが入っています。


しばらく待つと、この国の王様と王子が入ってきました。

一同に礼をして、陛下のお言葉を待ちます。


「今日はよく来てくれた。第一王子のクリードを支え、将来の側近となってくれる子供たちを探すことが目的の集まりだが、気負わずに楽しんで欲しい」


陛下はそう言うが、気負うのは大人たちでしょう。

王子の側近ともなれば、子供の将来は安泰。ついでに、家も繁栄するかもしれないとなれば、なおさらです。


まずは挨拶ということで、身分が高いもの順から行われます。

といっても、今回招待されているのは伯爵以上の貴族たちです。

なので、私の順番はすぐにやってきました。


「お初にお目にかかります。ライフィック侯爵家長女、ティレニアにございます」


何気に、我が家は高位貴族だったのです。

侯爵ともなれば、使用人の数が多いことも頷けます。

陛下はニコニコと優しそうな方でしたが、王子の方はうんともすんとも言いません。

無表情ではありましたが、どこか拗ねた様子も窺えます。

まぁ、親の言うことなんて聞かない年頃なので、今日の集まりが不本意なのでしょう。

となれば、私がいなくなってもバレる確率は低いです。


挨拶を終えて、他の方々が終えるのを待ちます。

全員が終わると、陛下は父親たちを促し、部屋から出ていきました。


「大丈夫だと思うが、しっかりな」


私の父親もそう言い残し、陛下のあとに続きました。

子供たちだけになると、ざわめきが広がります。

親が側にいなくて不安なのでしょう。

自然と顔見知り同士で集まり始めたようです。

一番近くにいた女の子の集団から、クスクスと笑い声が聞こえてきました。


「あのご令嬢は、あのぬいぐるみしかお友達がいないようね」


私に聞こえるように言うあたり、あざといですね。

私が侯爵家だとわかっていても言うのですから、同じ爵位かそれ以上なのでしょう。

と言っても、公爵家は参加しておりませんので、侯爵家が一番上のはずですが。


「それに、ぬいぐるみを持ったまま殿下にお声をかける気かしら?」


「それはそれで、見てみたいものですわね」


貴女たちが大好きな王子様は取らないので、安心してくださいね。

相手にするだけ無駄なので、私は視線を王子の近くにやります。

そして、少しだけ近づくと、彼女たちは急いで王子の方に向かいました。

私が王子に声をかけにいくとでも思ったのでしょう。

先を越される前にと、王子に突撃していきました。

まだ、王子という存在に夢を見ているのですね。

その集団を冷ややかに見送り、私はどうにかして抜け出せないかと出入り口を見回します。

この部屋には、侍女も複数いますし、扉には警備の者が立っていました。

扉からは無理そうなので、ベランダ側の窓に近づいてみます。

そこから見える庭はとても美しく、どうやら外に出られるようになっているみたいです。


周囲が王子に気を取られていることを確認して、そっと窓を開けます。

素早く露台に出て、そこから伸びている階段を駆け下りました。

目の前に広がる庭は、色とりどりの花が咲き誇っています。

その花々に導かれるように、庭の奥へと足を運びました。

木陰があれば、気持ちよくお昼寝ができそうです。

お昼寝の場所を探してさまよっていると、東屋(あずまや)を発見しました。

あそこにしようと決め近づけば、先客がいたのです。

真っ白い猫が気持ちよさそうに丸くなっています。

猫が寝ているのですから、気持ちいい場所に違いありません。

私も仲間に入れてもらいましょう。


「お邪魔しますね」


起こさないよう小さな声で言ったのですが、猫の耳がピクピクと動きました。

起きる気配はなかったので、猫の側にそっと寝転がります。

小さな猫を枕にして、瞼を閉じると心地よい風が吹いてきました。

あぁ。これはいい夢が見れそう。



◆◆◆

うーん、お腹が重い。

何か乗っているみたいに苦しいです。

寝苦しさで目が覚めると、お腹の上に猫がいました。

私が寝台代わりですか。

でも、可愛いので許します。なので、撫でさせてください。

ゆっくりと猫を驚かさないよう腕を動かし、おそるおそる触ってみました。

猫の目が開いたので、嫌がるかなと動きを止めましたが、逃げませんでした。

優しく撫でると、再び目を閉じます。

これは、猫なりの許可ってことでしょうか?

ふわふわな毛並みは、枕よりも気持ちよくて、いつまでも撫でていられますね。


猫は神の眷属だと伝えられています。

よく眠るからかもしれませんが、猫が神話によく登場するので、何かしらの力を持っているのでしょう。

こうして、私のお腹の上で眠っている姿は、ただの猫に見えますけど。


猫とのふれあいを楽しんでいると、無粋にも誰かがやってきました。


「そこで何をやっている!ねこ様に無礼だぞ!!」


その大きな声で、猫が起きてしまいました。

猫は私の上から飛び降り、うにーっと背伸びをしています。


「こっちへ来い!」


現れた男が、私を東屋から出そうと腕を掴みました。

まだ幼い子供に、そんな強い力で掴むなんて馬鹿ですか。

痛みで顔をしかめると、突然、目の前が真っ白になりました。

フーッと低い声が聞こえたと思ったら、男の悲鳴が上がります。

一歩下がって状況を把握しようとしたら、目の前の白いものが猫だと気づきました。


「ねこ様?」


さっきまでは普通の大きさだったのに、今は馬と同じくらい大きいです。


「なぁーうぅ」


大きさにしては可愛い鳴き声ですね。

私を守ろうとしてくれたのでしょうか?

大きいまま頭を寄せてきてすりすりされます。

軽くやったつもりかもしれませんが、大きさゆえに体がふらついてしまいました。

とっさにしがみつきましたが、体全体がもふもふに包まれる感覚には感動しました。

どうして大きいままでお昼寝してくれなかったのですか。

こんな気持ちいいもふもふに包まれてお昼寝したら、まさに夢心地だったでしょうに。


「ねこ様、ありがとうございます。よければ、またご一緒にお昼寝してもいいですか?」


「なぁう」


いいよと言っているように思いますが、本当のところはわかりません。

ですが、王宮に来る楽しみはできました。

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