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カルル視点

ティレニア嬢を見送って、僕はヴァシリーの頭を軽く叩いた。


「お前、いい加減にしないと、ご両親から見放されるぞ?」


「いいんだよ、兄貴たちがいれば十分だろ」


捻くれた言い方をしているが、彼の家族はみんな、ヴァシリーのことを心配している。

まぁ、上の兄たちの出来がいいと、周りの目から逃げたくなる気持ちはわからなくもないが、このままではよくない。


「せめて、取り繕うくらいの愛想は身につけてくれよ。まだ、お前とは離れたくないんだから」


僕としても、ずっと一緒にいたのだから、これから先も変わらずにいたいと思っているんだ。


「……わかったよ。でも、貴族の女はどうもなぁ」


「思っていても口にしない。それだけで、だいぶ変わるよ」


ヴァシリーの場合、思っていることがすぐ口に出てしまうので、それを我慢するだけでももめ事を回避できるだろう。


「へいへい。それより、正門の方を見にいくんだろ」


小言は聞き飽きたとばかりに、話を変えてきた。

これ以上言っても仕方なさそうなので、歩き始めた彼のあと追う。


正門と言っても、ただ大きいだけで華美なものではない。

王族が神に祈りを捧げる祭事のときにだけ開かれる扉だ。


「まぁ、こんなところで悪さする奴なんか、いるわけないよなぁ」


こちらの通りは、祭殿に通じていることもあって、人通りも多い。

今も、土産物屋などに人が集まっていた。


「じゃあ、次は裏門か」


裏門は通りから外れているので、人通りはほぼなかった。

その代わり王宮はすぐ側で、使用人たちが使う門からも近い。

神官や魔法師たちが行きやすいようにと配慮されたためかもしれないな。


裏門の近くまで行ってみると、なぜか扉が開いていた。

神官か魔法師が通ったとしても、これは不味いのではないのか?


「ちょっとだけ覗いてみるか」


ヴァシリーがそう言って中に入ろうとするのを、従者がすかさず止めた。

神域は許可なしに入ってはいけない場所だと。


「知っているけど、おちびが間違って入ったかもしれないだろ」


お転婆だというミーティア嬢ならやりかねないが、だからと言って僕たちが入っていいわけでもない。

王宮に戻って、殿下に報告した方がよさそうだ。

そう従者と相談していたら、一瞬の隙をついてヴァシリーが神域に入ってしまった。


「あの馬鹿!」


「カルル様はここでお待ちください」


そう言って、一人がヴァシリーのあとを追っていく。

大変なことになった、早く出てこい、と落ち着きなく裏門を見つめていると、側から呻き声が聞こえた。

そしてすぐに、僕は羽交い締めにされ、口まで塞がれた。

何が起きたのかわからず、めちゃくちゃに暴れるものの、拘束が緩むことはなかった。


「おーい、中は大丈夫か?」


僕を抱えた人物は、なんの躊躇もなく神域へと入っていく。

神域の中で見た光景は、とても恐ろしいものだった。

人相の悪い男たちが、ヴァシリーと従者、そして知らない人を縛り上げていた。

そのうちの一人が、ナイフをもてあそんでおり、わざと落として従者に傷をつける。


「こいつらも追加な」


容赦なく地面に放り捨てられ、慌てて逃げようとするも、すぐに捕まり、身動きできなくなる。

僕の側にいた、もう一人の従者は気を失っているのか、引きずられて運ばれていた。

いったい、何がどうなっているんだ!?

こいつらは、どう見ても犯罪者だろう。

そんな者がなぜ王宮近くに巣くっているのか。

なぜ神域に踏み入ったのか。


「ガキはいい値がつきそうだが、こいつらは処分だな」


「女がいりゃよかったのによぉ」


「移動する前にさらってくるか」


ガハハと下品な笑い声が上がる。

こいつらは、隣国で噂になっていた凶賊たちかもしれない。

残忍で、村がいくつも滅ぼされたと聞く。

あまりにも被害が大きいため、軍が動いたとも噂されていたが、そのせいでこの国に逃げてきたんだな。

ひょっとしたら、こいつらが都に来るまでに、被害にあった村や人たちがいるかもしれない。

なんとしてでも、王宮に知らせなければ!


どうにかして逃げる手立てはないかと思案していると、知らない人物と目が合った。

何度もまばたきをしていて、何かを伝えようとしているみたいだ。

僕がわずかに首を傾げると、今度は視線を行ったり来たりさせる。

そして、次の瞬間、その人物から強風が吹き出した。

この人、魔法師だったのか!

風から庇うように顔を背けると、縛られていた縄が切れていた。

凶賊たちからも、慌てふためく声が。


急いでヴァシリーの手を取り、走って逃げる。

それに気づいた者たちが騒いでいたが、気にかける余裕もない。

ただ、あの魔法師の悲鳴だけは、はっきりと聞こえた。


口に詰められていたものを吐き出し、呼吸が少し楽になる。

それでも走っているせいで、息があがってきていた。


「……なんなんだよっ!」


ヴァシリーは状況が飲み込めず、今にも泣き出しそうだ。


「大きな声は出すな。とにかく、奴らのことを知らせないと」


人が立ち入らない神域なので、足場の状態はよくない。

このままでは、いずれ追いつかれてしまうだろう。

木々が生い茂っていることもあって、王宮がどちらの方向なのかもわからない。

時折聞こえる音が追手のものなのか、自分たちが立てているものかもわからず、ひたすらに走り続けた。


「カルル、あそこ!」


ヴァシリーが指差す方向に、建物の残がいらしきものがあった。

身を隠せるかもしれないと、そちらの方向に向かえば、それはたくさんの石柱だった。

長い年月が経っているのか、風化しており、元がなんなのかはわからない。

柱が倒れ、折り重なっている隙間を見つけて、そこに逃げ込む。


「ヴァシリー、大丈夫か?」


なかなか整わない息の合間に問うが、返事はなかった。

きつく繋いだ手から、彼が震えているのが伝わってきた。


「……こ、ころされる。俺たちも殺される……」


「大丈夫だ。神域に異変があれば、魔法師たちがすぐに気づいてくれる」


そう励ましたものの、気づいてくれるかは僕も知らない。

本当は、今すぐにでも神域を抜け出したいが、無闇に動くのは危険な気がする。

裏門近くは、奴らが見張っているだろうし、正門は開かない。

神域の森を抜けて、王宮の敷地までたどりつけるかどうか。

それよりも、祭殿を探した方が早いか?

祭殿ならこちら側が見えているし、神官もいるから、すぐに警備の軍人を呼んでもらえる。

王宮か祭殿、どちらでもいいから、方向さえわかれば……。


「ヴァシリー、諦めるなよ。僕がどうにかするから」


「どうにかって……どうにもならねぇよ……」


絶対に、生きて戻る。

僕は諦めないからな!


ストックなくなりました……(´;ω;`)

たまるまで、日曜日のみの週一更新になります。

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