表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

10

妹が、王宮に行きたいと言い出しました。

どうやら、私が屋敷にいない日があることに気づいたようです。

乳母に私はどこに行ったのかと聞き、乳母は素直に王宮ですと教えてしまいました。

好奇心旺盛な妹は、王宮がどんなところなのかと乳母を質問責めにします。

そして、国王王妃両陛下、王子が住んでいる場所であり、父親の仕事場でもあると答えたせいで、自分も行きたいと父親に訴えたのです。

もちろん、王宮は遊び場ではないので、父親はだめだと妹を諌めました。

それで、諦める妹ではありません。

毎日毎日、父親に王宮に行きたいと詰め寄ります。

そのしつこさに、ついに父親が折れました。

もちろん、陛下が許可したらという条件つきですが。

陛下は、なんの面白みのない私を面白いと言うような変わった方ですので、妹の王宮行きも面白そうだということで許可を出されたと聞きました。

私はねこ様とのお昼寝を優先すると父親に宣言していますので、妹の子守りは父親がすることになっています。

父親に子守りができるのかは謎ですが。


父親と妹と別れ、ねこ様を探して歩きます。

真っ先にエリセイ様のところに向かったのですが、今日はお留守でした。

きっと、魔法師としてお仕事が入ってしまったのでしょう。

ゆき様とらい様の姿を探していると、普段は来ない方向に来てしまったみたいです。

確か、王宮に配備されている軍人のための訓練場だったと思います。

男性の雄叫びに似た声がしますしね。


外から中を覗くことができる場所があり、ふと視線をやると思わぬものが見えました。

王子が、自身の選んだ側近候補たちとともに、剣の扱いを学んでいたのです。

側近候補が決まったとは聞いていましたが、あのときの顔ぶれから少し変わっていますね。

カルル様はわかるとして、あの失礼な男の子が選ばれているのはなぜでしょう?


「あーー!!お前っ!!」


私の視線に気づいた失礼な男の子は、またもや私を指差します。

しかし、周りにいた男の子が素早くその指をはたき落とし、別の子が口を塞ぎ、羽交い締めにしました。

見事な連携です。


誰かが私の名を口にしたようです。

訓練していた軍人たちが、一斉に礼をします。

父親の肩書きのせいでしょうが、こんな小娘にまで礼をしてくださるとは。

ですが、なんて声をかければいいのか悩みます。


「皆様の勇姿を拝見しました。邪魔をするつもりはございませんので、訓練にお戻りください」


ここで微笑むことができれば、面目が立ったでしょう。

しかし、表情が動かないのは父親譲りです。

軍人の皆様は父親で慣れているのか、無表情な私を気にする様子もなく訓練に戻っていきました。


「ご機嫌よう、ティレニア様」


「カルル様、ご機嫌よう」


柵越しでしたが、先に挨拶されては離れるわけにはいきませんね。


「これからねこ様のところへ行かれるのですか?」


「えぇ。探している途中ですの。お姿を見かけませんでしたか?」


ついでにと聞いてみましたが、剣術に集中していたと思われますので、期待はしていませんでした。


「いえ、今日はお姿を拝見しておりません」


「そうですか」


ねこ様たちはどちらに行かれたのでしょうか?

もう少し探してみますと、カルル様に告げて、その場を離れました。


しばらくすると、らい様が露台の手すりでお昼寝をしているのを発見しました。


「にゃーん」


起こしてしまうのも悪いかと思い、そのまま通りすぎようとしたのですが、気づかれてしまいました。


「邪魔をしてしまい、申し訳ございません。ゆき様のお姿が見えないのですが……」


らい様は二階の高さから、軽い身のこなしで降りてこられました。

そして、こっちだというように、歩き始めたのです。


らい様についていくと、案内されたのはらい様のお昼寝場所のようでした。

奥に見えるのは厩舎(きゅうしゃ)でしょうか?

この場所にはたくさんの木箱や固められた藁が置かれていて、物置きとして使われているようです。

らい様は木箱の上を渡り歩いて、藁の山に登ってしまいました。

さすがに、私が乗ると崩れてしまいそうなので、気持ちよさそうですが諦めましょう。

私は、半端に置かれていた藁を台にして寝ることにしました。

しかし、なかなか寝つけません。

藁がチクチク刺さるのです。

何か、敷ける物がないと、眠れそうにないですね。

ごそごそと何度も寝返りを打っていたせいか、らい様をまた起こしてしまいました。

本当に申し訳ないです。

私が眠れないことに気づいてくれたのか、らい様は体を大きくすると、藁の山に寄りかかるようにして寝そべりました。


「にゃー」


「よいのですか?」


そう尋ねると、ジッと私を見つめたあと、ゆっくりと瞬きをしたのです。

なんだか、らい様からの友愛を感じます。


「ありがとうございます」


らい様のお腹に寝そべると、毛布代わりなのか、尻尾でくるんでくれました。

ふわふわとした尻尾があるだけで、とても暖かくなるのですね。

この尻尾、抱き枕としても非常に気持ちいいです。


結局、今日はゆき様に会えませんでした。

何かあったのかもしれません。


「らい様。ゆき様は大丈夫でしょうか?」


「にゃん!」


心配いらないと励ますためか、らい様に頰を舐められました。

このらい様の様子だと、本当に心配いらないみたいです。

また、次の機会にお会いできるでしょう。


私はらい様に別れを告げ、王宮へと戻りました。

父親と別れた客間に行けば、ぐったりとした父親と、無残な有様の部屋が。

何があったのかは聞きませんが……。


「ミーティアの世話をしている者たちの苦労がおわかりになりましたか?」


最初は、幼い子供らしいと微笑ましく世話をしていた者たちが、私の世話をする者たちを羨ましいとまで言うようになったらしいです。


「そうだな……」


これで、世話をする者が増えるかお給金が増えれば、少しは不満も減るでしょう。


「それで、ミーティアはどこに?」


荒れ果てた部屋の中には、妹の姿がありません。


「逃げた」


どうやら、王子に会いたいとわがままを言い、癇癪を起こしたようです。

父親が宥めていたものの、心配して様子を見にきた侍女が扉を開けた瞬間に飛び出していったと。


「本当に、元気な子ですね」


あれだけ動き回れるというのは、ある種の才能かもしれません。

教育しだいでは、ライフィック家を継ぐことができるかも。


「では、被害が大きくなる前に、ミーティアを探しましょう」



◆◆◆

父親と手分けして、王宮内を探し回りました。

痕跡、花瓶などを破壊した跡はあるものの、見つけることができません。

妹はかくれんぼも上手だったのですね。


しばらくすると、妹の声らしきものが聞こえてきました。

そちらの方に向かうと、妹が王子の腕にすがりついているではないですか!


「ミーティア、殿下に無礼な真似はおやめなさい」


「……ねーたま」


私が近づくと、妹は王子の後ろに隠れてしまいました。

それを見て、こちらに来なさいと言おうとしたら、先に王子からお声をかけられます。


「お前の妹だったのか」


「はい。今日は一緒に参ったのですが、好奇心を抑えられなかったようで」


さすがに、父親の隙をついて逃げ出したと、本当のことを言っては、父親の名誉に関わります。


「さぁ、お屋敷に帰りましょう」


妹へ手を差し出しても、王子の後ろから出てこようとしません。


「ずいぶん、懐かれましたね」


その様子を見て、カルル様が微笑まれていますが、私のときと態度が違いすぎやしませんか?

まぁ、幼すぎる妹に厳しく接するわけにはいかないのでしょうけど。


「皆様、ご迷惑をおかけいたしました」


礼をして、妹に帰るよう促しますが、(かたく)なに動こうとしません。

皆様も妹の様子がおかしいことに気づき、どうしたのかと優しく問いかけます。

妹は小さな声で答えたようですが、私の耳には届きませんでした。

しかし、皆様の視線が一斉に私を見たことから、なんとなく予想はつきます。


「お前!こんな小さい妹をいじめてんのかよっ!!」


いまだ名前を知らないのですが、お会いするたびに指を差すのはやめていただきたいです。

妹の言葉に気を取られていたのか、隣の方が急に我に返って、彼の腕を無理やり下ろさせました。


「そのようなことはけっしてありません」


そもそも、妹と共に過ごす時間がないのに、どうやっていじめろと?

大方、帰りたくない理由に、嘘でもついたのでしょう。

私を言い訳に使えば許してもらえると、甘く考えているのですね。


「ミーティア、どんなことを言おうと、父は貴女を連れ帰りますよ?」


幼い子供を理由もなしに王宮へ泊まらせることはできません。

今日、王宮に来られたのも、陛下の特別な配慮をいただいたからです。


私の言葉に、いやいやと首を振る妹。

そんな妹に、王子が膝を折り、視線を合わせました。


「君の父上も心配されているだろう。()が父上のもとまで送ろう」


正直、驚きで声が出ません。

あれは、本当に王子なのでしょうか?


「あの一件から、殿下は反省をして、王族らしくあろうと努力されているのです」


カルル様がそう教えてくださいましたが、変わりすぎのような気もします。


「よい反面教師が側にいるのでね」


私の気持ちを読んだのか、カルル様がそう続けましたが、仰っている意味がよくわかりませんでした。


そうこうしているうちに、妹の説得に成功した王子が、妹と手を繋ぎ歩き始めます。

私たちはそのあとを追うように、ついていったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ