第5章 「闇のなかの月明り」②
エルドルは、かつての親友……エルファイスだった!
リルファーナにかけられた呪いを解くため、ランティスは親友を説得しようとする。
(今回、短めです)
テンマとジューダは二人の様子を静観する。
だが、ただ見守るだけではなく、この先どう事態が転んでも良いように、思考を巡らし続けていた。
先に口を開いたのはエルドルだ。
「ずっと気になっていたことがあった。もしかして君が巫女の呪いに干渉していた? 以前に比べて、呪いがずいぶん弱まっている」
「エルファイス……いやエルドル、もう巫女の魂を苦しめるな。闇を身に宿し続けて、おまえの魂だって、」
「――うるさい! 君になにが解る!」
エルドルの怒気が疾風となり、ランティスの頰を切り裂いた。
思わず飛びかかろうとするテンマを、手で制するランティス。
「そうだ。……オレはおまえの事を何も解ってない。けどな、愛しい者を喪った哀しい気持ちなら理解できる」
「うるさいっ! 黙れ!」
エルドルが繰りだす疾風を、今度は剣で受けるランティス。透明な剣はほのかに光を帯び、疾風を掻き消していく。
怯むことなく、かつての親友にランティスは語りかける。
「オレ達は転生した。時代も変わった……。今のリルファーナは、魂は同じでも「巫女」ではない。だからもう、あんな悲劇は二度と起きないんだ……」
「ヨウランはずっと巫女のことが好きだったよね。だけど……私も同じくらいレノアのことが好きだった。いや、今でもレノアだけを愛している!」
唇を噛み、苦しげに叫ぶエルドルの瞳から、涙が零れる。
「私にとって……レノアだけが全てだった。だからレノアを死に追いやった巫女を赦さない!」
「エルドル! もう過去に囚われるな!」
「君こそ目を醒したら? 巫女の魂は、一歩道を外せば大陸を壊し、人々に災いをもたらす怖ろしいものだと。それにリルファーナ姫は、もうじき全てを憶いだすだろう……」
「なんだと……」
「真実を知り、絶望し、また世界を壊そうとするかもね……。その時こそ、巫女の魂を完全に逃れられない【闇】の世界に送ってやる。私の命を賭けて……!」
「エルドル……」
ランティスは哀しげに眉を寄せた。
自分の想いも、声も、何を言っても届かない。エルドルは今もレノア姫を愛し、大陸と民を愛し、だからこそリルファーナを滅しようとしている。だが――
「絶対に、そんな事はさせない!」
ランティスは左手に持っていた剣を、右手に持ちかえる。
結晶化している左手で透明な刃を撫で上げると、剣は強い光を帯び始めた。
「オレは、必ずリルファーナの呪いを解く。そしてエルドル……おまえの心臓にこの剣を突き立て、おまえの魂も闇から解放する――!」
「私を倒せると本気で思っているの……?」
エルドルは嘲笑う。
そして二人は、お互いの瞳を見つめながら臨戦態勢をとる。
見守っていたテンマとジューダにも緊張が走った。
――これから、大陸最強と謳われる魔術師たちの戦いが始まるのだ。
「君のその剣は水晶か……まったく、忌々しい代物だね。なら私は……」
エルドルの右手から放たれた闇の粒子が収束し、形を取り始める。
――剣だ。
暗闇よりもさらに漆黒に染まる剣……。
エルドルが剣を軽く薙ぐと、無数の黒い……闇の粒子が部屋中に勢いよく飛び散る。
対抗するように、ランティスは己の剣の光で、闇の粒子を次々と滅していく。
「リルファちゃん!」
テンマはエルドルが剣を振りかぶった瞬間に飛び出し、闇の粒子からリルファーナを守るため身を盾にする。
もともと闇に耐性があり、ランティスの加護も受けているテンマだからこそ出来ることだ……。
ふわふわと雪のように舞う闇の残滓が、リルファーナのそばにいたジューダの元にも降りてくる。
「これが、エルドルの闇か……」
ジューダはその残滓に手を伸ばした。
指先が僅かに触れる――
瞬間、身体がビクリと跳ね、まるで雷に打たれたかのような衝撃が脳裏に走った。
「闇に触れては駄目デス!」
テンマが、ジューダの右手についた残滓を叩き落とした。
「耐性のない人間が触れると、闇は囁いてくる。絶対に触れては駄目デス!」
「……。今のは……、なんだ。記憶……?」
震える指先を見つめ、ジューダはぽつりとこぼす。
触れたとき、瞬くように視えた光景に不思議と懐かしさを覚えた。
闇の怖さなど、微塵も感じなかった。
それどころか……
「エルドル……。俺は、お前を……」
指先から視線を移すジューダ。
そこには「貴石の魔術師」であるランティスに、漆黒の剣で攻撃を仕掛けるエルドルの姿が見えた。
次回。
ランティスと、エルドルは、自分の想いのために剣を振るう。
そしてリルファーナを取り戻そうとするテンマ。
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