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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第一章
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異常事態

 「やったぁ!」

 先ほどのように再生することなく溶けてなくなった“落ち果て”を見た皆がオーネストに駆け寄った。エミューリアは抱きつき、エレビアとヴォルフはオーネストの勝手な行動を怒った。第三騎士団の面々が喜ぶ中驚愕の表情を浮かべる二人がいた。 

「なんで倒せたの?」

「どうして弱点を知っていたの?」

 森に入ってからずっと表情を変えなかったルディとシルヴィか初めて別の表情を見せていた。オーネストを見るその目には疑念と困惑がいりまじっていた。双子の言葉に反応したのはヴォルフだった。

「おい、お前ら今“弱点”って言ったか?」

「言いました」

 特にごまかそうともせずにルディが答えた。その単調さにヴォルフはイラついた。

「さっきは倒せねぇって言ってただろうが!」

「おい、やめろヴォルフ」

 今にも噛みつきそうなヴォルフをライノスが止める。ルディとシルヴィは怖がりも焦りもせず、隠す意味も必要もなくなったので“落ち果て”について知っていた事を話した。

「“落ち果て”には一つだけ倒す方法が存在します」

「それは体の中にある“魔石(コア)”を破壊すればいいんです」

「はあ!?なんでそれを最初に教えなかったんだよ!」

「逃げるのが得策だというのは変わらないですし、余計な選択肢があると行動に支障がでます」

「弱点がわかっていてもそれを狙うのはほぼ不可能だからです」

「まず魔石(コア)の位置と大きさが個体によって違います」

「次に固さです。鉄よりもはるかに固いし簡単には壊せないんです」

「最後に“落ち果て”の体です。あの体は中までしっかりつまっているので剣や弓矢は通らず、魔法もほとんど効きません」

「当たっても先程のように再生してしまいます」

「あれ?でも僕は切れたよ?」

「だから聞いているんです!」

 ルディとシルヴィがオーネストに詰め寄る。

「なぜ魔石(コア)の位置がわかったんですか?」

「なぜ?なぜ?」

「えっと…」

 答えないと解放されそうにないので答えを探すオーネスト。しかしいくら考えても答えは一つだった。

「…勘…かな?」

「勘?」

「勘であれを?」

 ルディとシルヴィは顔を見合せ同じポーズで首を傾げた。オーネストは説明を続ける。

「なんとなくだけど、倒せるって思ったんだよ、そしたら成功したっていうか…」

 説明に苦戦しているオーネスト。それを遮るように第三騎士団忍部隊のカメレオンの獣人の“朧月(おぼろづき)”が辺りを警戒しながら会話に入る。

「団長、早く移動した方がいいのでは?倒せるのだとしても連戦は避けなければ」

「そ、そうだね、急いで移動を」

「その心配はないです」

 落ち着いたルディとシルヴィは衣服を整えて移動の準備をしながら現状の整理をする。

「“落ち果て”の行動にはもう一つ特徴があります」

「“落ち果て”は群れを作ることはおろか、半径百メートル以内に同じ個体、つまり別の“落ち果て”を入れようとしないし入ろうともしないのです」

「全個体が互いを近づけないように移動しています」

「なせそんな移動を?」

「詳しくはわかりませんが、多分まだほんの少しだけ人間としての本能というか羞恥の心が残っているのか、落ち果てた自分の姿を見られたくないんだと考えています」

「以上のことから“落ち果て”の移動の速度を考えると次の個体が来るまでに十分以上かかかります。オーネストさんが“落ち果て”を倒したのでさらに時間がかかるはずです」

 ルディとシルヴィは次のルートを示した。

「さぁ、次はこちらです」

 ルディとシルヴィがランタンを持って次に進むべき方向に体を向けた瞬間、目の前に“落ち果て”が姿を現した。

「え?」

「ほ?」

 あまりに予想外のことだったのでルディとシルヴィは固まって動けなかった。“落ち果て”は体を少し広げながら双子に近寄る。すでに予測していたオーネストが双子と“落ち果て”の間に割り込む。

魔装展開(マキナ・チャージ)!」

 オーネストの周りの魔素がオーネストの体を包み隠す魔法の鎧となった。

 “魔装展開(マキナ・チャージ)”はオーネストのみが使える『固有魔法』で、一年前の式典の時に目覚めた魔法だ。大気中にある魔素を利用し自らを守る鎧にする魔法で、魔素がある限り使用できてこの魔法自体には魔力は必要ない。魔素は大気中に必ずあるのでほぼ無限に発動できる魔法だ。さらに場所によって異なる魔素の属性やオーネストの魔力を干渉させることで魔装の属性を変化させることもできる。

 この森にある魔素は“闇”の属性が強いので闇属性になり、毒などに対する絶対防御を持った。そのため“落ち果て”の体に魔装で直接触れても毒や酸による侵食は受けなかった。しかし、徐々に取り込まれている感覚はあった。

「このままじゃ動けないな、とりあえずこの二人をなんとかしないと」

 オーネストの後ろには震えて怯えるルディとシルヴィがいる。逃げてほしいが恐怖で動けないようだった。とにかく部下に指示を出そうとした時、それより早く前に動いた人物がいた。

「ヴォルフさん!行くわよ!」

「は?え?おい、待て!」

 誰よりも先に動くエミューリア。そんな王女に度肝を抜かれながらヴォルフもエミューリアに続く。二人は一気に距離を詰め震えるルディとシルヴィを抱えた。一瞬、オーネストとエミューリアの視線が合う。だがすぐにその場から離れる。同時にオーネストも魔装を分離し“落ち果て”との距離を取る。剣を構え先ほどと同じように攻撃をしようとしたがすぐに考えを改めざるをえなかった。

「そんな馬鹿な…」

「ありえないです!」

 ルディとシルヴィは恐怖も忘れるほど目の前の光景が受け入れられなかった。

「これはさすがに無理かな」

 剣を構えたまま後ろに下がる。“落ち果て”は分離された魔装を取り込むとまたオーネストたちに向けて動き始める。そしてその後ろにはさらに2体“落ち果て”が並んで立っていた。

「おい!あいつらは群れを作らないんじゃなかったのか!?」

「そのはずなんです!なのになぜ?」

 “落ち果て”が木々を腐らせながら近づいてくる。オーネストはすぐに指示を出した。

「すぐにここを離れるぞ!とりあえず目的地に向かう!移動中“落ち果て”に気を付けろ!」

「おう!!」

「はい!!」

 全員一斉に動き始める。ルディとシルヴィを抱えたヴォルフを先頭に一つに固まって移動する。四隅に気配や音の感知に特化した獣人を配置し、しんがりをオーネストと…エミューリアが努めた。

「ちょっと!エミューリア王女がなんで一緒にいるんだよ…ですか!」

 オーネストの立場上、一番守るべき人物が自分と同じ一番危険な場所にいるのは非常にまずかった。一方エミューリアの方はとても楽しそうな顔をしていた。

「私だって戦えるのよ?」

「だからって、ご自分の立場を…」

「それにね私すごく嬉しいの、小説や映画だとしか思ってなかったような世界に生まれ変わって、しかもまことさんと二人でこうやって戦ってる。それが本当に楽しいの!」

「………っ!」

 その輝くような笑顔を前にしたらオーネストはもうなにも言えなくなった。“落ち果て”を警戒しながら腹をくくった。

「わかりました!ただし、もしもの時は自分の事を最優先に行動してくださいよ!」

「わかってるわかってる♪」

 出現する“落ち果て”を遠距離攻撃でよけながらオーネストたちは目的地であるこの森のエルフの住みかに向かった。

 オーネストたちが森の奥にか進んでいくのを近くの木の上に立つ黒いフードを目深に被った男が見ていた。

「チッ、まさかこうまでしぶといとは」

 男は木から飛び降り“落ち果て”たちが蠢く真ん中に着地した。

「ギリギリまで追い詰めてここぞって時に登場して助けようとしてたのにぃ~!!」

 その場で地団駄を踏む男。周りには“落ち果て”がうじゃうじゃいるのに気にする様子もない。それどころ“落ち果て”もなぜか男を襲わずにまるで従者のように男の周りに控える。男はあぁでもない、こうでもないとその場を行ったり来たりしていたがやがて何かを思いつき立ち止まった。

「そうか、ならもっとすごい“ピンチ”を演出したらいいんだ!そのためにはもっとたくさんのこいつらが必要だな…」

 フードの奥の顔が新しい遊びを見つけた子供のように無邪気に歪んだ。




 オーネストたちはルディとシルヴィの案内で30分かけてようやく目的地のエルフの住みかの入り口に辿り着いた。奇跡的に怪我人はいなかった。疲労回復の薬などを飲んだりして体力を回復したところでルディとシルヴィが初めの頃の元気を取り戻し第三騎士団に向かってお礼を言った。

「ありがとうございます!」

「おかげで無事にここまで来れました!」

 双子の素直なお礼に照れる面々、ルディとシルヴィは入り口の門に手をかける。

「それではみなさん」

「私たちの住みか、エルフの里“ウィズダム”へようこそ!」

 双子が門を開けていく。オーネストたちはへとへとに疲れながらも隊列を整えて門が完全に開くのを待った。たが、門が完全に開こうかというまさにその時、門の中から飛び出す影が一つ。その影は真っ直ぐにエミューリアに向かって突進していき思い切り飛びついた。

「エミィた~ん!一年ぶり!会いたかったのじゃ~!!」

「ちょ、アルクィナ…きゃあ!?」

 一瞬の出来事で全く反応できなかった。いきなり金色のメッシュが入った黒髪ロングのエルフがエミューリアに飛び付いてきた。今は地面に押し倒し頬擦りをしている。

「久しいの~嬉しいの~」

「ちょっ、離れて…誰かなんとかしてー!」

 エミューリアの叫びが森の中にこだました。


 

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