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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第三章
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思惑

 ヴァインリキウスの死亡を確認したドラゴはサーベルをアルプスに渡した。ニゲルはドラゴに問う。

「ドラゴ様、“収集者”は成功したんですか?」

 任務とはいえ10年以上一緒にいた人間が目の前で殺されたのに全く気にも止めていない様子だった。ニゲルだけでなくアルプスももちろんドラゴも完全に興味をなくしている。

「この死体はいかがいたしますか?」

「もう用済みではあるが、いったん保管しておけ」

「わかりました」

「ドラゴ様~、なんでこんなやつ残しておくんですか?」

「死体がなければ義妹たちが不安に思うだろう?」

 ドラゴの思わぬ発言にアルプスとニゲルが顔を見合わせる。

「ドラゴ様にも家族を思う心があったんですね」

「やばい…私また惚れちゃいました」

「お前たちは俺のことをなんだと思ってるんだ?」

 ドラゴは不服そうに腕を組んだ。

「エミューリアは大切な“固有魔法の使用者”だ。あの異常なまでの行動力とコミュニケーション能力は貴重だからな、それにあいつがいれば同時にオーネストも確実に手中におさめておける。あの男は我が国にとってかなり有益な戦力だからな。可能な限り不安要素を排除しておいて損はないだろう」

「…」

「…」

 アルプスとニゲルはしばらく無言になった。

「やはりいつものドラゴ様でした」

「やっぱりいつものドラゴ様だったね」

「…」

 ドラゴはもう反論もしなかった。ヴァインリキウスの死体はニゲルが片付けた。その間にアルプスはある疑問をドラゴにしていた。

「ドラゴ様、一つ質問よろしいですか?」

「なんだ?」

「今回のヴァインリキウスの一件についてなのですが、いつも国益を最優先にお考えになるドラゴ様にしては少し危ないやり方のように思いまして」

「あぁなるほど、確かにかなり危ない橋を渡っている自覚はあったよ。でもどちらに転んでも最終的には国益に繋がるようには考えていたけどね」

「敗北していた場合でもですか?」

「もちろん。といってもあくまで予測の段階でしかないがな」

 ドラゴは椅子に座った。

「ヴァインリキウスがあそこまでやってくるのは少し予想外ではあったが、アルバソルが負けていたらディニラビア帝国に吸収されていただろうな。そのあとにはルーナモント、マルスと次々に侵略しこの大陸を支配していただろう。そしてそのタイミングでヴァインリキウスを殺せば、一気に大陸全土が我が国のものとなるわけだ」

「さすがに飛躍しすぎでは?」

「まあな、だが大陸全土は難しくても領土を増やすことはできたと思うぞ」

「いえそちらではなく、ヴァインリキウスを殺すことのほうです」

「なんだ、そんなこと問題にもならん。何度か会合し先ほどまでの様子からも感じたが、かなり視野が狭い男だ。ニゲルの裏切りに最後まで気づいていなかった。一応毒殺や呪殺などいくつか準備はしていたが、ニゲルに任せれば簡単に始末できただろう」

「確かに…」

「だが我々は勝った。侵略されていた国々は解放されるだろう。だが我が国に比べると国力は落ちている。すでに各国に俺の手の外交官が向かわせ今頃は交渉中だろう」

「なんの交渉ですか?」

「“領土”だよ。無理矢理とはいえディニラビア帝国に一度は占領されたことで各国の領土が曖昧になっている。その上各騎士団の報告書を見る限りでは我が国に被害を出した者もいるそうじゃないか?」

 第3騎士団などが中心にあげていた他国からの盗賊の流入などのことである。

「そういったあらゆるネタを使いお互いが納得した上で、話し合いだけで領土を増やすんだ」

 実際今のアルバソル王国の立場は大きい。暴走する帝国を打ち負かし侵略に苦しんでいた国々を解放したのだから。

「なるほど、そこまでお考えとは恐れ入りました。それほどまでに先を見通すことができるのでしたらやはりアルバソルの次期国王になられては?」

「またその話か」

 ドラゴはあきれて溜め息をついた。今までも何度か言われていたからだ。しかしその問いに対する答えはいつも一緒だった。

「“王”という立場については俺よりもソーレの方が適正がある。義兄上は人望が凄まじく厚いからな。だが非情になりきれないところがある。国益を損なったとしても奴は“人”を選ぶだろう」

 ドラゴはニヤリと笑う。

「俺は違う、“国”のためなら“人”を切り捨てることもできる。今はソーレが次期国王になることが“国”にとっての最善。だが義兄上が“国”にとってマイナスとなるのなら…俺は迷わずに切り捨てる。まぁ、そうならないのが一番だがな、義兄上の至らないところは俺がカバーするさ」

「…」

 “国”のためならどこまでも非情になり自分自身さえ場合によっては切り捨てる覚悟を持ったドラゴをアルプスは改めて尊敬した。

「今回の戦争でも得るものの方が多かった。領土はもちろんだが、マルスとの国交、貴族どもの地下の隠し施設、ソーレが作った第3騎士団の想像以上の有用性、エミューリアとオーネストの成長、他にもいくつかあるが、一番は俺の固有魔法による“テイマー” の所得だな」

「失礼ながら、ちゃんと取得できたのでしょうか?」

「それを今から確かめるんだ」

「ドラゴ様ー!!」

 部屋の扉を勢いよく開けてニゲルが飛び込んできてドラゴに抱きついた。

「ヴァインリキウスの遺体はあってもおかしくなくてすぐに見つけられる場所にに違和感がないように捨ててきました!そして隣の部屋に準備できてまぁす!」

「…」

 ギューっとドラゴに抱きつくニゲルを静かに睨み付けるアルプス。ニゲルの髪の毛を引っ張り引き剥がす。

「あいたたたたた!もう!乱暴しないでよ!」

「わきまえなさい、低能」

「なっ!…ふん、アルプスゥ怒りすぎて小じわが多いんじゃない?」

「なっ…」

 二人が小競り合いをしている間にドラゴは部屋を出ていった。それに気づいた二人は慌ててその後を追った。

 隣の部屋に入ると大きな檻がありその中に体長三メートルはあろうかという巨大な狼型の魔物がいた。部屋に入ってきたドラゴを目にした瞬間牙をむき威嚇してきた。野性的な殺意にさらされながらもドラゴは全く動じていない。

「ニゲル、檻を開け」

「はい…え!?」

 一度は返事をしたニゲルだったが、言葉の意味を理解すると声をあげて驚いた。

「ドラゴ様、まさかあの魔物を解き放つのですか!?」

「そう言ったつもりだが?」

「ドラゴ様危険です!」

 アルプスはドラゴを止めようとした。魔物を用意したニゲルもまさかこの狭い部屋の中でしかもドラゴに向けて解き放つとは思っていなかったので尻込みする。だがドラゴは前に進んだ。

「嫌なら自分で開ける」

「ちょ、待ってください!開けますから!」

 迷わず魔物に近づくドラゴを引き留め少しでも檻から離す。ニゲルは遠隔操作で檻を開けれる準備をしアルプスに目配せした。もしもの時はドラゴを守れる位置に控えた。

「じゃあ開けますよ」

 ニゲルが扉を開けると同時に魔物が飛び出した。その瞬間的なスピードにニゲルもアルプスも反応できず魔物は真っ直ぐにドラゴに向かっていった。

「ドラゴ様!」

“ドラゴさまぁ!”

 血相を変える二人とは裏腹にドラゴは冷静に魔法を唱えた。

「俺に従え」

「!!」

 ドラゴが一言唱えた瞬間に魔物は動きを止め頭を垂れた。ドラゴはさらに近づき右手を出した。

「お手」

 すると魔物は素直に自らの手をドラゴの手の上に置いた。その後数回別の指示を出したがそのすべてに従った。その様子を見ていたニゲルとアルプスは口を開けて固まっていた。そしてドラゴは最後に一言こう言った。

「自らの喉をかき切って死ね 」

 魔物は躊躇なく自らの喉をかき切り絶命した。その姿にドラゴは満足そうに笑った。

「完璧だ。俺は問題なく“テイマー”を取得できたようだ」

 満足げに笑うドラゴを見てニゲルとアルプスは我に返りすぐに賛辞の言葉を送る。

「おめでとうございますドラゴ様」

「私が頑張りもあるんですよドラゴ様!!」

「あぁ、これで魔物は俺の意のままだ。成長すれば国境を守らせたり、監視もできるようになるだろうな」

 自分が強くなったことで“国”が強くなったことを確信しドラゴは満足していた。

「さて、では事後処理に移るか。いくぞアルプス、ニゲル」

「はっ」

「はい!」

 意気揚々と部屋を出ていくドラゴの後ろに二人は影のように従いついていった。

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