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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第三章
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広がる繋がり

 数刻前、オーネストとヴァインリキウスの激闘を少し離れた場所で見守るエミューリアは巨兵の攻撃がオーネストを襲う度小さい悲鳴をあげて顔を覆う。

「何とかしないと…!」

 エミューリアは必死に考えた。

「私の固有魔法“リンク”で心を繋げばエルフの森の時みたいに魔力を渡せる?でもそれができたとしても今の私の魔力を渡してもあの巨兵には敵わない…」

 固有魔法、それ以外の使える魔法、増援など考えうる行動をすべて思い描いたがどれ一つオーネストの救出に繋がらない。

「何か何か…考えなくちゃ、考えなくちゃ…!」

 このままじゃまたあの人と離れてしまう!前世のあの時みたいに!せっかく再開できたのに!今度は私がおいていかれる!

「!!」

 『おいていかれる』。そう考えた瞬間一気に恐怖がエミューリアを襲った。

(まことさんも同じ気持ちだったのかな?)

 前世でまことを庇って死んでしまった時、正直さつきはまことを守れたことで安心していた。だがいざ残されるほうになると残される恐怖が痛い程わかったわかった。

「絶対諦めたくない!まことさんを助けたい!…なのに!」

 今の自分には本当になにもできない。王女という肩書きも今はなんの意味もない。今からヴァインリキウスに自分を捧げるか?いや、それが成立したとしてもまことさんは、オーネストは確実に殺される。そもそもそんな自己犠牲を恐らく誰も望まない。エミューリアは拳で頭を何度も叩き必死に策を考えた。しかし解決策はやっぱり出てこない。ふとオーネストのほうを見るとヴァインリキウスの巨兵の手に捕まっていた。

「あ、あ、あぁ!!」

 ショックでその場に座り込むエミューリア。焦りが先行し思考がまとまらない。涙を流しながら歯を食い縛り、せめてオーネストの近くに行こうと半ばやけくそに動こうとした時、ふいに誰かの声が聞こえた気がした。

「え?」

 立ち止まり辺りを見回すが自分以外誰もいない。不思議に思いながらも足を動かそうとした時、

『エミューリア!』

「!!?」

 今度は確かに声が聞こえてきた。そしてその声はよく知っている声だった。

「アルクィナ…?」

 反射的に声の主の名前を呼んだエミューリア。

『聞こえておるのか!?エミューリア!』

「!」

 エミューリアは答えが返ってきたことに驚き耳に手を当てた。

「私の声が届いてるの?」

 エミューリアの固有魔法“リンク”は他者と心を繋ぎ、心と心で会話することもできる。しかし範囲はそこまで広くないため現在ディニラビア帝国にいるエミューリアの声がアルバソル国内にいるはずのアルクィナぬ届くはずがないのだ。しかしアルクィナはすぐに反応を示した。

『ああ、聞こえておるぞ!ついでに言うとお前の感情も少し伝わってきておる。そちらはどういった状況なんじゃ?』

「私は…」

 答えよいとすると別の声が割り込んできた。

『この声、エミューリアさんですか!?』

「リリコット!?」

 アークゴブリンたちと暮らしている少女リリコット声が聞こえてきた。

『エミューリア様!我々に今できることはありますか?』

 さらにそばからアークゴブリンのリーダーアリベルトの声もする。

「何がどうなってるの?」

 意味がわからず固まっている間にもたくさんの“声”がエミューリアの元に集まってきていた。エミューリアが今まで出会った様々な種族の人々、昔お世話になった傭兵三人組、他国の様々な人々などエミューリアが交流を持った人々とどんどん繋がっていくのを感じた。

「何なのこの力は?」

 戸惑うエミューリアにアルクィナが答えた。

『恐らくじゃが、お主の魔法が進化したのではないか?』

「私の魔法が進化?」

 その推測があながち間違いでないことは先程までの二人の戦いを見ていればわかった。エミューリアは目を閉じて自身の心を見つめた。

「…たくさんの心の繋がりを感じる…」

 以前までは一人か二人が限界だったのに今はたくさんの繋がりを感じる。しかし

「でもこれでどうすればいいの?」

 一度にたくさんの人たちと繋がりこうして声を聞くことができる。自分の成長は嬉しい、でもこれでオーネストの力になるとは思えない。

「どうしたらいいの…?」

 エミューリアの不安までも伝わってしまい不安な気持ちが広がっているのを感じた。そんな中ある人物の声が心に響いた。

『しっかりしなさい!』

「!」

 その声にハッとなるエミューリア。その声はよく知っている声だった。

「シーラお義姉さま?」

『そうよ』

 “リンク”は心を通じ合わせた相手と繋がる魔法。エミューリアに対して心を開いていなければ魔法の対象にならず効果も受けない。エミューリアはシーラのことが大好きだったが、シーラからは嫌われてはいないものの好かれてはいないと思っていた。

「お義姉さま、なんで…?」

 こうしてエミューリアの固有魔法の効果を受けているということはエミューリアに対して心を開いているということだ。

『細かいことを気にしている場合じゃないでしょ!今のあなたはいつものあなたじゃないわ!』

「いつもの私…?」

『そうよ!お節介でうっとうしくていつも人をからかって…そしていつも嫌になるくらいいつも真っ直ぐで!』

「…」

『困難なことがあっても下を向かずに進むのがあなたでしょう!?今のあなたがどれほどの状況にいるのかはわからないけど、どんな状況だろうとちゃんと前を向きなさい!』

「シーラお義姉さま…!」

 義姉の思わぬ言葉に胸に熱いものが込み上げてくる。エミューリアへの励ましの声はどんどん広がっていった。

『エミューリア、シーラの言う通りだ君ならできる』

 聞こえてきたのは兄のソーレの声

『君ならできる、何て言ったってボクの自慢の妹なんだから!』

 兄の励ましの言葉にさらに後押しされる。その兄の言葉の途中で感じたシーラの小さな嫉妬の感情に心が少し綻んだ。

『そうじゃ、立ち止まるなぞお主らしくないのぉ』

 アルクィナのいつもと変わらないからかい。

『私たちの所にもまた来てください!』

 リリコットたちの“明日”を信じる言葉。

『エミューリア様!!』

 両親、臣下たち、友人、これまでエミューリアに関わってきた人たちの声がエミューリアの心を励ました。

「そうだ、こんなところで止まってなんかいられない!」

 気持ちを強く持ち立ち上がる。

「私は、まことさんとこの世界を生きるんだ!」

 ふと、頭にある作戦が浮かんだ。

「もしかして今なら繋がっている人たちの力を全部借りられるんじゃ?」

 先程は一人分の魔力だったから無理だと思ったが、もし今こうして繋がっている全員の魔力をオーネストに流すことができればこの状況を一変させられるかもしれない。でも自分にできるだろうか?

「…いや、“やるんだ”!」

 エミューリアはオーネストの所へと走り出した。




 オーネストは満身創痍だった。切り札も完全には通用せずそのせいで魔力もほとんど使いきりなんとか周囲の魔素で“魔装”防御しているがそれも限界が近づいている。

「や、ばい…」

 疲労とダメージで意識が朦朧としてきているオーネスト。ヴァインリキウスの攻撃の変化に反応できなかった。

「とどめだぁ!」

「なに、しまっ…がっ…」

 真横から直撃する拳。“魔装”の薄いところを的確にとらえオーネストを吹き飛ばす。

「いっぎっ」

 骨が砕け、破片が内蔵を傷つけているのを激痛と共に感じながらなす術もなく地面を転がった。

「……くぅぅ」

 痛みで立ち上がることもできない。あの巨兵のスピードから考えると追撃はすぐにやってくる。

(早く、早く動かなくちゃ…)

 動かない体をなんとか動かそうとしていると巨兵が近づいてくる気配を感じた。だが、その気配は近くで止まったものの攻撃はしてこなかった。

(な、んだ…?)

 不信に思っていると体を支えられる感覚があった。痛みに顔をしかめると唇に柔らかいものが触れる感覚があり、それを通して液体が自分の体の中に入っていくのを感じた。

(これは?)

 何がなんだかわからないままいると急に体が軽くなった。体の傷が癒えていくのがわかる。そして目を開けると目の前にはエミューリアの顔があった。それで現状を理解したオーネストは慌てて立ち上がった。

「な!え?どういう…!?」

 支離滅裂な言葉を並べ混乱するオーネストをエミューリアは抱き締めた。

「よかった、手遅れにならなくて」

「え、えっと?」

「普通にポーションを飲ませるだけでは治らない状態だったら私が一度口に含んで魔力を込めてから飲ませる必要があったの…その、だから」

 どんどん赤くなるエミューリア。そして

照れ笑いを浮かべた。

「えっと、この世界でのファーストキスもあなたで嬉しい」

「さつき…!危ない!」

 間一髪、巨兵の攻撃をエミューリアをかばい避けたオーネスト。攻撃主のヴァインリキウスはこれ以上無理だというくらい激怒していた。

「おま、えらは…?この、俺を、さしお…いて!な、な、に…?」

 怒りのあまり言葉もおぼつかなくなる。完全に理性が吹き飛んだ。

「死ねぇぇぇ!」

「危ない!!」

 今度の攻撃はオーネストだけでなくエミューリアも殺しかねない攻撃だった。その事を問う前にヴァインリキウスが壊れた人形のような動きで不気味に笑い出した。

「くはっ、くははははっは?もう何でもいいや、さつきちゃんの()()()()()()()()

「何を言って?うわっ!」

 無茶苦茶に攻撃してくるヴァインリキウス。その一発一発がエミューリアもろとも殺そうとしているのがわかった。

「もう中身はどうだっていい、一度殺して“テイマー”の力で俺の物にする。俺以外の誰かとの記憶なんていらない、俺の思いどおりにならないならもういらない!!」

 狂ったように攻撃を繰り返すヴァインリキウス。先程までの攻撃と違い完全に理性が飛んでいるので避けるのがやっとだった。

「どうすればいい?」

 対抗策げ浮かばないオーネスト、するとお姫様抱っこ状態のエミューリアが急に首に腕を回し顔を近づける。

「さつき!?突然何を?」

「私に考えがあるわ、信じて」

 真剣な眼差しにオーネストは少し考え頷いた。

「わかった。絶対に守り抜くから」

「信じてるよ」

 エミューリアはさらに強くオーネストに顔を近づけ頭をオーネストにくっつける。

(私の繋がりをまことさんに…オーネストに繋げて!)

 エミューリアの思いに答えるように二人を淡い光が包む。

「これは!?」

「みんなの力をオーネストに集めて!」

 エミューリアの声に答えるようにオーネストの中にたくさんの力が流れ込んできた。

(力が、溢れてくる。それにこれは!)

「隙ありだぁ!」

 オーネストの動きが鈍った瞬間を見逃さないヴァインリキウス。回避不能な攻撃が二人に直撃…しなかった。

「なんだと!?」

 驚愕するヴァインリキウスの目の前でオーネストは()()()巨兵の腕を掴んでいた。しかも今までとはあきらかに違う装甲をまとっていた。オーネストは掴んだ腕を持ち上げた。

「はあああああ!」

 すると巨兵の体が宙に浮いたと。

「なんだとぉ!?」

「せりゃあああ!」

 雄叫びと共に巨兵を地面に叩きつけた。

「ぎゃああ!」

 巨兵と完全に同化しているヴァインリキウスには巨兵が感じる痛みも当然感じる。そのヴァインリキウスを見下ろすようにオーネストは降り立ちエミューリアを下ろした。

 オーネストがまとっているのは“魔装”だったが、あきらかに今までと違うものだった。全身を覆う装甲は白銀に輝き優しくも強い光を放っている。

「立石、いやヴァインリキウス」

 オーネストは剣を作り出しヴァインリキウスに向け言い放った。

「今日この場所でお前との因縁を絶つ!!」

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