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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第三章
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進化する悪意

 ヴァインリキウスの操る巨兵はオーネストを的確に狙い攻撃してくる。威力はとんでもないが攻撃は単純でパンチをメインに使い時折蹴りと体当たりを繰り出してくる。オーネストはそれらをかわしながら“魔装”で出した武器と通常魔法を駆使しながら応戦する。

「あぁ~目障り目障り目障りぃ~!!」

 目を血走らせ歯を食い縛りながら巨兵を操るヴァインリキウス。右腕を高く掲げ真正面から殴りかかってくる。オーネストはそれをかわしながら辺りの風の魔素を使い“魔装”の力で短刀を大量に作り出し、それらを自身の魔素を使った通常の風魔法でヴァインリキウスを直接狙う。巨兵は体を回転させ左手を払いながら短剣を打ち払いつつ左肘でオーネストを狙う、オーネストは上昇しそれをかわす。

「逃がさねぇよ!」

 ヴァインリキウスは巨兵に魔力をそそぐ、すると巨兵の左手の形状が変化した逃げたオーネストに向かって牙のようなものが生え追いすがる。

「体の形が変わった!?こんなこともできたのか…!」

「俺は“テイマー”の能力をまだすべて見せてないんだよぉ!!」

 ヴァインリキウスの固有魔法“テイマー”は人間以外の生物を操ることができる。それは意識を操るだけでなく対象の体を細胞レベルまで操ることができ、自由に変化させることができる。

「くっ…!」

 風の“魔装”で空を飛べるとはいえ鳥のように自由に飛べるわけではない、攻撃がかする、体勢が崩れたところに右腕で打ち上げるように狙ってくる。“魔装”で防御を固め受け止めるが吹き飛ばされる。

「ぐっ」

「ぎゃはぁ!」

 ヴァインリキウスは巨兵を動かし左手で叩き落とすようにオーネストを捕まえようとする。

「こ、のぉ!」

 オーネストは逃げるのではなく“魔装”で闇と風の魔素を使って大剣を作って切りつける。叩き上げられた力と上から下に向かう力を利用し巨兵の手を切り裂いた。

「なんだとぉ!?」

 驚愕の声をあげるヴァインリキウス。一方のオーネストはこれを皮切りに攻撃を激化させる。先ほど作った剣の闇属性を外し炎属性を追加した。風の魔法を応用し空気中の酸素などの可燃性の物質を剣の周りに風の魔法越しに集め巨兵の左腕めがけて切りかかる。切りつける直前に風の魔法を解除し炎と反応させる。巨大な爆発とともに腕は切り裂かれ落ちる。

「くそっ!」

 慌てて巨兵を引き下がらせようとするがオーネストのスピードは落ちない。一気に下に飛び、右足の関節に狙いを定める。ヴァインリキウスは素早く反応したが対応が間に合わない。

「でやぁ!!」

 右足の関節のあたりが切り裂かれた。完全には切れなかったがバランスを保つことができなくなり足から崩れ落ちる。

「くっ、くそぉ!?倒れてんじゃねぇ!早く、あいつを…」

「はあぁ!」

 その間にオーネストはもう片方の腕も切り落とす。完全にバランスを失いうつ伏せに倒れてしまう巨兵。その拍子にヴァインリキウスは地面に落ちる?

「ぶべぇ!」

 痛みに耐えながら上を見るとオーネストが自分を見下していた。

「なんなんだよ…」

 オーネストは剣の属性を闇に統一し切れ味を高める。その様子を歯を食い縛りながら睨み付けるヴァインリキウス。

「なんで俺が負けてるんだよぉ!?俺はさつきちゃんのために戦ってるんだ!ヒーローは俺だ!主人公は俺だ!俺なんだぁ!」

 無茶苦茶な妄想を叫ぶヴァインリキウスを意にも介さず、オーネストは因縁を断ち切るためにその剣を振るった。剣がヴァインリキウスに届く寸前、光が辺りを包んだ。

「なに!?」

 光が消え視界が戻った後にはヴァインリキウスはいなかった。

「どこにいった!」

 見渡すがそこには誰も何もいなかった。そう、()()

「巨兵もいなくなってる?」

 焦りを覚えながら周りを見渡していると不意に影がオーネストを覆う。上を見上げるとそこには巨兵の欠片が浮かんでいた。

「これは…?」

「オーネストォ…」

 静かな恨みと怒りに満ちた声が頭上から聞こえてきた。その声は巨兵の体の部分から聞こえてきた。

「どういうことだ?」

 目を凝らして見てみると巨兵の額の部分に埋まるようにヴァインリキウスがいた。ヴァインリキウスはギョロリとオーネストを睨み付ける。

「貴様には果てなき、底なしの恨み、嫌悪、怒り…あらゆる負の感情しかない…だが、今この一瞬だけは感謝をしてやる…がぁ!」

 ヴァインリキウスが一つ叫ぶとヴァインリキウスを中心にバラバラになった巨兵の体のパーツがくっついていった。

「再生だと!?させるか!!」

 オーネストが先ほど巨兵を切断した炎と風の剣でくっつこうとする体のパーツに切りかかった。先程より威力を上げて切りかかったのだが、あたった攻撃が跳ね返された。

「なに!?」

 そのまま巨兵は完全に再生した。だが、それで止まらなかった。体全体が徐々に変容しむき出しの肌みたいなようだった所に装甲のような外鎧がついていた。その姿を見てオーネストは愕然とした。

「姿が変わった?」

「今度こそ死ね」

 次の瞬間にはオーネストの体に巨兵の攻撃が当たっていた。

「がはっ!?」

 吹き飛ばされ壁に当たる寸前に“魔装”の力で空中に回避する。

「はぁはぁ…動きが早くなっている?」

 オーネストが体勢を整えヴァインリキウスを見た時、巨兵がこちらに向かってきていた。明らかに動きがスムーズになっている。

「進化したのか?」

 オーネストの想像は当たっていた。極限まで追い詰められたヴァインリキウスはオーネストに負けたくない一心で自身の固有魔法を成長させていた。今までは遠隔で操るだけだったが、対象と同化し自分の体の一部としてさらに直感的に操ることができるようになっていた。さらに同化した場合に限り対象個体の潜在能力を100%引き出すこともできるようになった。

 オーネストはその場を移動し距離をとった。ヴァインリキウスの城を背に止まる。さすがのヴァインリキウスも自分の住まいでもあり国の象徴でもある城を無闇に攻撃しないだろうという算段だった。ヴァインリキウスはオーネストを追うように進行方向を変えてオーネストに向かっていく。

 自分の背後の城に気付き一瞬でも動きが止まるタイミングを狙うオーネスト。しかしヴァインリキウスは一切ためらいがなかった。

「落ちろぉ!」

「嘘だろ!?」

 慌てて避けるオーネスト、オーネストがいた場所にヴァインリキウスの全力の攻撃が通り城を破壊する。

「自分の城だろ!」

「俺にとって国なんてどうでもいいんだよ、住んでる奴らもどうなろうが知ったことか」

「それでも一国の王か!」

「うるさいんだよ!俺がよければそれでいいんだよ!そして何よりお前はさっさと消えろ!!」

 攻撃がさらに激しくなる。巨大な腕を振り回し空中のオーネストを狙う。スピードに加えて威力も上がっておりよけるのがやっとだった。そして避ける度に城だけでなく近くの民家まで破壊している。

「くそっ、ここまでやるとは!」

 オーネストは巨兵の攻撃がエミューリアがいる場所に向かないように気を付けつつ、巨兵の攻撃範囲をある程度把握し適切な距離をとって少しでも息を整えようとした。

「休ませると思ってんじゃねぇ!!」

 巨兵の口が開き魔素が収束していく。それを見たオーネストは次の攻撃に思い至り青ざめる。

「まさか…」

 慌てて上昇するがそれに合わせて巨兵の顔も動く。何とか巨兵の視線から離れようと動き回り急降下きら急上昇に切り替えたタイミングで巨兵の口から熱線が放たれた。その攻撃を予測していたオーネストはギリギリでかわしたが熱線が通った背後では大爆発が起こりその風をオーネストは背中で感じていた。

「お前…!自分の国の民も死んでしまうだろうが!」

 大きな攻撃の隙をついて接近し切りかかるオーネストを巨兵は腕で顔をかばいガードする。

「そんなものどうでもいい!俺にはエミューリア、さつきちゃんさえいればなぁ!」

「こんなことをしてさつきが喜ぶわけないだろうが!」

「お前がさつきちゃんを語るなぁ!!」

 怒りと怒りがぶつかり合い戦いはどんどん激しいものになっていく。




 そんな戦いの中心から少し離れたとある場所、影無、キャシー、エレビアがヴァインリキウスの直属の騎士の一人ランブルと戦っていた場所ではヴァインリキウスが町を壊し始めたあたりから戦いを止めていた。巨兵が熱線を放ディニラビアを容赦なく焼き払う様を見て呆然とするランブル。

「なぜ…なぜこんなことを…」

 自分が見ている光景がまるで理解できず同じ言葉を繰り返している。しばらくその様子を見ていたエレビアたちは戦闘態勢を解かないままランブルに声をかけた。

「もはや私たちの戦闘に意味はありません」

 その言葉にランブルはゆっくりと振り返った。その顔には後悔と困惑が入り交じっていた。戦意は完全に消失していた。

「…私は、どうしたらいいのだ」

 答えを期待しての言葉ではなかった。だが今はそれしか言えなかった。今までは帝国のためとヴァインリキウスの命令に従ってきた。他国を攻め落としたのもすべて帝国のためだとヴァインリキウスの事を信じて、だが今はそのヴァインリキウスが自ら帝国を破壊している。今の一撃で一体どれ程の犠牲がでたのかと考えると目の前が真っ暗になりそうだった。もはやなんのために何をすべきなのか自分だけでは答えがだせなかった。

 立ち尽くすランブルにエレビアはそっと近づき力なく下がっているランブルの手をとった。

「あなたの国の民を助けにいきましょう」

「え?」

 思わぬ言葉に驚き目の前の少女の顔を見る。その目は力強くランブルを見つめ返していた。

「今からでも間に合います…とはさすがに言えませんが、少しでも被害を減らすことはできるはずです」

「いや、しかし…君にとっては敵国の…」

「今はそんな些細なことを気にしている場合ではないでしょう!あなたの国の民を救いたいんでしょう!?」

「!!」

 ランブルは驚いていた。先程まで本気で殺そうとしていた敵が今は自分より先に帝国の民を救うことを提案してきている。本来は自分が真っ先にしなくてはならないのに…

「そうだな、その通りだ!まさか敵国のしかも自分よりも年下の少女に教えられるとは思ってもみなかった」

 少し心に余裕ができたランブル。完全に敵意を感じなくなり影無も警戒を解いた。

「これからどうされるおつもりで?」

「今も帝国民は現状を理解できず闇雲に逃げ回っていると思います。ですので動ける者を集めて安全かつ速やかに民を避難させます」

「私たちも手伝いますよ」

 エレビア、影無が頷き、キャシーもしぶしぶ前にでた。その提案に驚きながらもランブルは頭を下げた。

「ありがとう、助かります」

 そして四人は逃げ惑う民の先導に赴いた。




 さらに所変わりアルバソル王国城内作戦室。次々と変わっていく戦況に対しドラゴは適切な指示を送っていく。その合間にできたニゲルと二人になった時に()()()()()報告を受けていた。

「隠れた貴族と第1騎士団共の居場所はわかったのか?」

「いえ、国外には出ていないようなんですが」

「全くどこに隠れたのか、なんとしても見つけ出せ、この状況であえて隠れるということはかなり安全な設備の可能性があるからな。今後の国民の避難場所に使えるかもしれんからな」

「了解しました」

 ニゲルは次の報告を行った。

「アルバソル王国周辺の戦況ですが加勢してくださっているマルスの騎士たちのの能力が凄まじくさらに中でも騎士王のアーサー様は飛び抜けてお強いです。一人で帝国の古代兵器を50体以上倒されたとか」

「ははは、敵じゃなくてよかったな」

「さらに第3騎士団の朧月とヴォルフが帰還し少しずつ戦局は持ち返しています」

「今日は満月だからな、ヴォルフにはちょうどいいな。さらにレジスタンスの働きもあって侵略された国もこちらにつきつつある。残る問題は…」

「ヴァインリキウスですね」

「そうだ、報告はきているか?」

「はい、現在はオーネスト・ファーレンと戦闘中との事です」

「戦っているのか?戦況は?」

「細かいところまではわかりませんが、ヴァインリキウスの固有魔法が変化したようです」

「変化した?元々の性質がなくなったのか?」

「いえ、変化は正しい表現ではありませんでした“進化”したというほうが正しいですね」

「ほぉ」

 ドラゴは一番の関心を示した。

「詳細が知りたい、密偵にさらなる情報収集を指示しておけ」

「了解しました」

 ニゲルはすぐに行動にうつった。

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