最悪の真実
オーネストが転生する前、さつきが死んでしまう日、ヴァインリキウスーーー立石信行はある計画を実行しようとしていた。警察のマークが厳しくなりさつきに近づくことがまったくできずストレスとさつきへの執着がピークに達しようとしていた信行は一つの考えに辿り着いてしまう。
「あの男がいなくなれば俺を見てくれるんじゃないか?…」
さつきが自分を見てくれないのはあの男が壁のように二人の間に立ちふさがり邪魔しているから、と信じて疑わない信行はまことを亡きものにする決心をした。そしてまことがいなくなることで空くであろうさつきの隣に自分が入り込もうと考えた。
しかし結果を急いだ信行の計画はずさんそのものだった。信行が把握しているさつきの買い物ルートで待ち伏せし、まことを引き殺すというものだった。そして実行直前、酒まで飲み気分を高めた信行は買い物帰りの二人を見つける。二人はとても楽しそうに笑いあいながら歩いている。その姿に信行の怒りは頂点を越して爆発した。まことしか目に入らなくなり完全に怒りと嫉妬の炎に包み込まれアクセルを踏み込んでいた。
(あと少しであいつを殺せる…そうすれば、そうすればさつきは今度こそ俺の物に…!あと数メートル…こちらに気づいたようだがもう遅い、死ね、死ね、死…え?)
信行の車が当たる寸前、さつきが間に割り込んできた。信行はブレーキを踏めなかった。そして信行はさつきをはねた。信行の目の前でさつきが人形のように吹き飛んでいった。血がフロントガラスに飛び散る。それを見た信行は絶叫しながらその場から逃走した。無我夢中で走った。
「お、俺が?俺が殺した?さつきちゃんを?俺が…?」
思考がめちゃくちゃになっている。自分がなにをしているのかわからない。赤信号も目に入らない。
「いや?違う、俺じゃない、さつきちゃんを殺したのは俺じゃない!」
サイドミラーが壁に当たって弾け飛ぶ。叫んで逃げ回る通行人の声も耳に入らない。
「あいつだ!俺からさつきちゃんを奪っていったあの男…そうだ!あいつが殺したんだ!」
信行は山の奥深いところまで来て車は止まった。
「…さつきちゃんは死んだ、いや、殺されたんだ…どちらにしてももうこの世にはいない」
信行は後部座席くらバッグを取り出した。その中から包丁を取り出した。
「さつきちゃんがいない世界で生きている意味はない」
信行は包丁を心臓に突き立てた。
「ごふっ!…はぁはぁ、さつきちゃん…生まれ変わったら…今度こそ…」
数時間後発見された信行は完全に絶命していた。
「ここはなんだ?」
再び意識が覚醒した時、信行は見知らぬ場所にいた。周りを見渡したがまったく見覚えがない。そもそも日本ではないよだった。ニュースなどでたまに見たスラムのような場所だった。
「俺は死んだんじゃないのか?」
ゆっくりと立ち上がる。体が妙に軽く視線が低い。近くにあった割れた窓に自分を映した。
「誰だこいつは?」
そこに映ったのは知らないガキだった。だが体を動かすと目の前のガキも同じ動きをする。そして気づいた。
「これ、俺か?」
そしてその後すぐに自分が転生したことがわかった。自分がいる国がディニラビアという国にいることを知りどういう国であるかも知った。初めは貧困生活だったがある日自分の“テイマー”という能力を気づいた。そんな時、外国から流れてきたというニゲルに出会った。ニゲルは信行の能力に目をつけ力がすべての帝国を乗っ取る提案をした。その際に信行は自分の新しい名前をヴァインリキウス決めた。
そこからは早かった。“テイマー”の能力を駆使し、魔物を操り当時の王族を皆殺しにし、あっさり帝国を自分のものにした。
信行がヴァインリキウスとなり帝国を手にいれてから数年後に行われた隣国とのパーティに参加したときヴァインリキウスはエミューリアを見つけた。一目見てさつきだと気づいた。その時は声をかける勇気はなかったが、それでもヴァインリキウスは諦めるわけもなく自分の持つ権力を使いやっとエミューリアをさつきを手中におさめた。そして今度こそ完全に手に入れられる…はずだった。
「それなのに、なんでお前はまた俺とさつきちゃんの間に入ってくるのかぁ!」
ヴァインリキウスが怒り叫ぶ。彼が語った生まれ変わるまでの経緯を聞いた二人は言葉が出なかった。ようやく口を開いたのはオーネストだった。
「あの時…さつきをはねたのはお前だったのか?」
まばたきするのも忘れヴァインリキウスを凝視する。
「お前があの時さつきを…」
「違う!殺したのはお前だ!」
「ふざけるなぁ!!」
魔装を展開し怒りのままに飛び込む。魔装は周りの魔素の属性によって能力が変わる。今この場には火事による炎、吹きすさぶ風、夜の闇の三属性。風の魔素を取り込むことで飛行能力を持つ魔装となる。
「はああぁぁぁ!」
魔装の能力で剣を創造し怒りのままに切りかかる。
「この寄生虫があぁぁ!」
ヴァインリキウスも怒りのままに巨兵を動かし対抗する。真っ向から迎え撃つオーネスト剣と巨兵の腕がぶつかり合う。それによって発生した衝撃波が周りの建物を破壊する。帝国の国民が逃げ惑うのも構わずヴァインリキウスは攻撃を続ける。壊れた建物の一部がさらに崩れ、その下にいる子供に降り注ぐ。
「危ない!」
エミューリアが走りギリギリで助ける。すぐ後ろで大きな音をたてて瓦礫の山ができる。子供は近くにいた大人に託しオーネストたちを振り返る。ヴァインリキウスはともかくオーネストまで怒りで周りが見えていないようだった。攻撃がぶつかり合う度に被害が広がっていく。それでも二人は止まらない。しかもオーネストはヴァインリキウス、信行に対する怒りのままに真正面から巨兵に体当たりのような攻撃を繰り返している。巨兵はディニラビア帝国の伝説級の破壊兵器、徐々に押されはじめる明らかに力負けしているのにそれでもオーネストは攻撃を止めない。
「オーネスト!止まって!」
見ていられなくなり叫んで止めようとするがその声は届かない。
「まことさん!!」
前世の名前でも呼んでみるがそれすらも届かない。その間にも建物の被害は広がり、オーネストはボロボロになっていく。
「死ねえぇ!」
ヴァインリキウスが叫ぶと巨兵が少し動きを変えた。腕をふるうスピードが少しだけ早くなった。
「立石ぃぃ!」
オーネストも魔装の力を最大限に高めて迎えうった。しかしパワー負けし背中から地面に叩きつけられた。
「があぁっ!」
魔装に守られてはいるがダメージを殺しきれず体の中に影響が及ぶ。そこに巨兵の蹴りが容赦なくとんでくる。咄嗟に両腕でガードしたが蹴りとばされて背中から城の外壁の一部にぶち当たった。
「……っ!?」
声にならない痛みに絶えながらも目線はそらさない。その姿にたまらずエミューリアがかけよった。
「まことさん!しっかりして!」
「ぐっ…はぁはぁ……離れてて…」
明らかに動ける状態ではないのに動こうとするオーネストだったが
「ぐぅ」
痛みに耐えかね膝をおる。
「まことさん!」
それを心配するエミューリア、そんな姿を見せつけられてヴァインリキウスが、立石信行が黙っているわけがない。
「その男から離れるんださつきちゃん!!」
目を剥いて怒鳴るが、さすがに巨兵で無理矢理どかそうとはしない。
「目を覚ますんださつきちゃん!その男は俺たちの間に勝手に入ってきて結ばれるはずだった仲を引き裂いたんだ!」
「…」
エミューリアはその言葉を無視し少しだけ使える治癒魔法で外傷を治し逃げ出す時に持ち出していた救急セットで簡単な応急処置を施した。その態度はヴァインリキウスの怒りに油を注いだ。
「やめろさつきちゃん!前世の事を忘れたのか?そいつはさつきちゃんを殺したんだぞ!?迫る車の盾にしたんだぞ!」
「貴様…!」
ヴァインリキウスの物言いに腹を立て立とうとするオーネストをエミューリアが止める。その手は震え、顔を見ると唇を噛み締めていた。
「さつき…」
そんな様子に気づくはずもなくヴァインリキウスは怒鳴り続ける。
「そして死んで生まれ変わってやっと俺たちがあるべき関係になろうとしていたのに…なのに、そこにまたその男が現れた!殺さなきゃいけないんだ!そいつを今度こそ完璧に!そして俺たちは結ばれるんだ!」
自分が正しいと確信し、間違っているなどとは夢にも思っていないヴァインリキウス。恐ろしいまでの執着だった。しかしその言葉にも反応せずエミューリアはただ一心にオーネストの治療に専念しそのほとんどが完了していた。
「さあさつきちゃん目を覚まして!君を惑わせるものはすべて俺が排除する!さつきちゃんと俺はやっと結ばれるんだ!運命なんだ!必然なんだ!」
「………」
怒鳴り続けるヴァインリキウス。その声色が急に優しくなる。
「だから早くそいつを殺そう?そうすればこの世界に俺たちを隔てる壁はなくなるんだ。そうだ結婚式!最高に豪華で華やかなものにしよう!和風がいいかな?洋風がいいかな?ねぇ、さつきちゃん?」
悟すように優しくさつきに語りかけるヴァインリキウス。その場違いな内容にオーネストは寒気を感じた。ヴァインリキウスは自分の考えが正しいと信じて疑わない。改めてこの男の異常さを痛感する。今のヴァインリキウスの頭の中にはヴァインリキウス自身とエミューリアの歪んだ未来図しかなかった。
「ねぇ、さつきちゃん?さつきちゃん、さつきちゃん」
何度も何度も壊れたラジオのように繰り返し名前を呼ぶヴァインリキウス。
「俺だけのさつきちゃん」
「ふざけないで!」
突然立ち上ったエミューリアは怒りの表情を浮かべヴァインリキウスに叫び返す。
「いい加減にしてよ!生まれ変わってまでなんで私につきまとうのよ!!」
「さ、さつきちゃん?」
戸惑うヴァインリキウス。エミューリアは前世の自分の名前を呼ばれて不快感に顔を歪める。
「私の名前を呼ばないで!気持ち悪い!もう私に近づかないで!私は!」
エミューリアはオーネストの腕を掴んだ。
「私はこの世界でも…いえ、この世界でこそ私はこの人と一緒になるんだから!」
「さつき…」
自分の腕を掴むエミューリアの体は震えていた。前世のみならず生まれ変わってまでもストーカーされているのだ怖くないわけがない。それでもその恐怖を押さえ込みヴァインリキウスに対して強い拒絶を示したのだ。それがどれほど勇気が必要な事か、そしてこの世界でも一緒になりたいとまだ思ってくれている。一度は突き放した愚かなボクの事をまだ「好き」だと思ってくれている。
(ボクは本当にダメな夫だな…大事な女性にここまで言ってもらわないと踏ん切りがつかないなんて…でももう迷わない)
オーネストは震えるエミューリアの手を優しく握った。
「まことさん?」
「さつき、ありがとう。ボクはもう迷ったり自分をごまかしたりしない」
エミューリアを引き寄せ強く抱き締める。
「ボクも君とまた一緒になりたい、そのためならどんな困難も越えてやる」
「まことさん…私も…同じ気持ちだよぉ」
抱きあいお互いの本当の気持ちを確かめあう二人。その姿は当然ヴァインリキウスの逆鱗に触れた。
「離れろぉ!この寄生虫がぁ!!」
怒り狂ったヴァインリキウスの意思を汲み取るように巨兵がオーネストを狙う。オーネストはエミューリアを抱き抱えそれを避ける。
「またさつきちゃんを盾にするのかああぁぁぁ!」
エミューリアの命を本当に脅かしているのは自分だということを考えもせずあくまでオーネストを排除しようとする。巨兵の攻撃をなんとか回避しつつ自分の魔力を込めて“魔装”の力で属性を改変した武器をヴァインリキウスのもとへ投げつける。
「くらうかぁ!」
ヴァインリキウスは自身の魔法でオーネストが投げつけた武器に炎を当てる。すると同時に武器が強い光を炸裂させた。
「閃光弾!?くそっ…」
強い光に目を眩ませるヴァインリキウス。その一瞬の隙をついてエミューリアを安全な場所に移した。
「ここにいて」
「まことさん?私も一緒に…」
「気持ちは嬉しいけど、君の魔法で戦える?」
「…それは」
「必ず勝つから、ここにいて」
「…うん」
なんとか納得してもらいオーネストは再びヴァインリキウスの前に戻った。オーネストを見つけたヴァインリキウスはさらに怒りを爆発させた。
「さつきちゃんをどこにやったぁ!?」
「お前には二度とあの人に近づかせない!」
「~~~!このゴミムシがあぁぁぁ~!!」
完全に怒りに支配されたヴァインリキウスは怒りのままに暴れだした。