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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第三章
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執着

 アルバソルに侵攻していたヴァインリキウスの所にニゲルが飛ばした魔道具が届いたのはエミューリアの救出に成功してから約20分後だった。

「なんだとぉぉぉ!!?」

 巨人の肩に乗りながら受け取った手紙がくしゃくしゃになるくらいに握り締めるヴァインリキウス。

「あの男ぉ、俺のさつきを奪おうとするのかぁ!!こうしちゃおれん!」

 “テイマー”で巨人に指示を送り方向を変える。急な方向転換に一緒に行進していたディニラビアの兵士たちが驚き戸惑いヴァインリキウスを呼ぶがすでに耳に入っておらずディニラビアに向かって走り出した。一緒にいた兵士たちは去っていくヴァインリキウスを呆然と見送った。




 オーネストたちはディニラビアからの脱出のために急いでいた。すでに侵入はばれており帝国兵が襲ってきたが主力は残っていないらしく障害にもならなかった。

「これなら簡単に脱出できそうだにゃ」

「キャシー、最後まで油断するなよ」

 エミューリアの囚われていた塔の出口が見えてきてそこに向かった。

「もう少しだ!」

 五人があと少しで出口を抜けようとした瞬間、五人の足元が淡い光に包まれた。

「しまった!罠か!?」

 光が全員の視界を完全に覆った。すぐに光は消えたがオーネストとエミューリアが消えていた。

「団長とエミューリア様がいない!?」

「にゃ、どこにゃ!?」

 エレビア、キャシー、影無はあたりを必死に探したが二人の姿はどこにもなかった。エレビアは床にかすかに残っていた魔法陣を見つける。

「この魔法陣は転移の魔法陣です」

「では殿たちはどこか別の場所に飛ばされたというのか?」

「なんで私たちは飛ばされなかったにゃ?」

「陣の中に年齢と性別に関する一文があります。二人を狙ったものだと思われます」

「エミューリア様だけならわかるが、なぜ殿まで?」

「考えていてもわからないにゃ、早く探すにゃ!!」

 三人が探しに戻ろうとした時、一本のナイフが飛んできた。影無は即座に気付き弾き飛ばす。

「何奴!」

 ナイフが飛んできた入り口の方向に気を向けながら刀を構える。そこには一人の剣士が立っていた。

「お前たちが侵入者か?」

 男はゆらりと中に入ってくる。三人は身構えた。男は答えない三人に剣を向けた。

「答えないということはそうなんだな?我が仲間のニゲルを傷つけた仮を返させてもらう」

「意味のわからぬ事を…!」

 帝国の剣士、ランブルと影無の刀が合わさり戦いが始まった。

 その様子を離れた場所から見守るのは自ら傷つけた傷からまだ血が流れているニゲル。懐から緑色の液体が入ったボトルを取り出し傷口にかけると煙をあげながら傷が癒えた。

「ここまでのものを頂けるとは思ってはいませんでした。さて、ランブルは帝国で私の次に強い剣士ですからうまく足止めになってくれるでしょう」

 ヴァインリキウスに送るよりも先にランブルに帰還命令の手紙を送っていたので少し前に帝国に到着していた。その際に傷ついた自分を見せ「帝国に侵入した敵兵に襲われた」と伝えた。ランブルはニゲルの思惑通り例の三人の元に向かい足止めしてくれている。変わらぬ無表情でアルバソルがある方向を見るとヴァインリキウスが操る巨人が見えた。

「もうすぐここに着きますね。あの二人はすぐに目につく所に飛ばしましたしうまくヴァインリキウス様とぶつかってくれるでしょう。さて、どういった結果になるかはわかりませんが、“終わり”に備えましょうか」

 ニゲルは溶けるように姿を消した。




 飛ばされたオーネストとエミューリアは帝国内のどこかの塔の上にいた。

「ここはどこだ?」

 周りを見ると外の高いところにいるのがわかった。だが、見える範囲には誰もいない。

「エミューリア!エミューリアどこだ!?」

 思わず呼び捨てて名前を呼ぶとすぐ近くで声がした。

「まことさん、私はここよ」

「さつき!」

 思わず前世の名を呼んで駆け寄る。見たところ外傷もなく魔法による痕跡もなかった。とりあえず一安心する。エミューリアを助け起こしあたりを確認する。そこはいくつかある塔の中で一番高い塔の上だった。

「私たちだけ飛ばされたみたいね」

「なんで僕らだけなんだ?」

「わからないけど、私たち二人って言うのがなんだか意図を感じるわね」

 二人で状況を分析していると上空からとてつもない殺気を感じた。同時に声が降ってくる。

「なぜここにいる?」

 地響きと共に下にあった建物を破壊しながら一体の巨人が降ってきた。その肩にはヴァインリキウスが乗っている。ヴァインリキウスの目にはオーネストとエミューリアがとても中睦まじく映った。

「なんで貴様がここにあえるオーネスト・ファーレン!!」

 巨人の腕が持ち上がる。危険を察知しオーネストは“魔装”をまとう。エミューリアも魔力をねり同時に壁をつくる。その壁に巨人の攻撃があたり直撃は免れたが衝撃は消しかけれず塔が崩れた。

「まことさん!」

「さつき!」

 二人で手を伸ばし二人でなんとか一つ下の階に着地した。すぐに体制を整えたが、不思議と次の攻撃は来なかった。ヴァインリキウスの顔を見ると困惑と怒りで赤紫色になっていた。ふるふると震える唇から言葉がもれる。

「今、まことって言ったのか?」

「…!」

 こちらはヴァインリキウスの正体を知っていたがヴァインリキウスはこちらの正体を知らないことを思い出した。挑戦的な視線を向けてヴァインリキウスの()()を呼んだ。

「久しぶり…になるのかな?立石信行」

「!!」

 ヴァインリキウスの表情が怒り一色になった。

「何故俺の前世の名前を知っている!?いや、それよりも…」

 ヴァインリキウスは寄り添う二人の姿を見て歯を食い縛る。

「俺のさつきから離れろぉぉぉ!!」

 巨兵の腕が動き出した。

「まずい!“魔装展開(マキナ電気チャージ)”!」

 オーネストの体に風属性の魔装が展開される。巨兵の腕が二人を狙う。オーネストはエミューリアの腕を取る。

「しっかり掴まって!」

「う、うん!!」

 エミューリアはオーネストにしがみつく。同時にオーネストは塔から飛び離れ、巨兵は誰もいなくなった塔を叩き崩した。オーネストは少し離れた風に乗り別の塔に降り立った。

「ここまで離れれば少しは時間を稼げるだろう」

 距離は百メートルくらいしか離れていないが間にはたくさんの建物がある。いくらヴァインリキウスでも建造物を避けて来るだろうと考えていたが、それは甘かった。

「さつきに触れるなぁぁ!!?!」

 巨兵が動き始める。その動きには何のためらいもなく足元の建造物を踏み潰しながら迫ってくる。

「なに!?」

 踏み潰された中には自身の城の一部や市民の家、それどころか住民もいるはずだ。

「なにを考えてるんだあいつは!?」

 オーネストは急いで次の着地地点を探す。

(なるべく市民がいる場所からは離れないと…)

 ヴァインリキウスは、立石信行の頭にはさつきにの事しかない、彼にとってさつき以外は何の価値もないような感じだった。無闇に逃げれば罪のない人間にまで犠牲が出る。迷うオーネストの肩をエミューリアが揺する。

「まことさん!あそこ!」

 エミューリアが示した場所は城内の中庭のような場所だった。

「わかった!」

 オーネストは再びエミューリアを抱え中庭に飛んだ。

「ぐわー!?また貴様ぁ!!」

 ヴァインリキウスは見境なく破壊を続けながらオーネストを追いかける。足元では何人もの国民が犠牲になっているがヴァインリキウスの目にはまったくとまらない。少しでも被害を防ごうと魔法で攻撃するがまったく効いていない。

「オーネストおおぉぉ!」

 それどころか余計に怒らせてしまうので攻撃を止め急いで中庭に着地した。着地するとすぐにエミューリアを下ろした。

「早く隠れて!」

 ヴァインリキウスは勢いを緩めずにこちらに向かってくる。

「でも!」

 戸惑うエミューリア。その間にすぐそこまでヴァインリキウスは近づいている。それに焦るオーネスト。

「早く逃げて!」

「だめ!まことさんをおいていけるわけない!」

「…な、に?」

 驚愕の声をあげたのはヴァインリキウスだった。

「お前…まこと?前世の名前はまこと…なのか?」

「そうだ、直接会ったことはないけどな」

 エミューリアを後ろに庇いながらヴァインリキウスを睨む。一方のヴァインリキウスは頭を抱え唸るようにまことの名前を連呼する。

「まこと?まことまことまこと………お前だったのかぁ!!」

「!?」

 急に叫びだしたヴァインリキウスに呼応するかのように巨兵も叫ぶ。その上でヴァインリキウスは狂ったように体を振り回していた。

「お前は!あの、?前世でさつきを騙して、惑わして、奪ったあのおぉぉお!」

 巨兵の腕がオーネストを狙う。オーネストは魔装の属性を地属性に切り替え物理攻撃に備える。一撃を受けたが跳ね返した。しかし次々に攻撃が降りかかる。

「お前が!お前がぁ!俺の運命の人を!結ばれるべき相手を奪ったんだぁ!!」

「受けきれないか!なら!」

 オーネストは足の裏を変化させドリルにし地面に潜った。オーネストを見失い攻撃が止まる。その一瞬を狙い飛び出したオーネストは魔装の属性を雷に切り替え電撃を飛ばしたが巨兵の腕がそれを弾く。

「まことぉぉ!!」

 ヴァインリキウスの怒りは尋常でないレベルに引き上がっていた。それを感じながらオーネストは少し腑に落ちない事があった。

(確かにボクは彼にとっては好きな人を奪った男だけど、それにしたって怒りが強すぎるように見える)

 攻撃が当たらない事に苛立ちが募るヴァインリキウスの口から溢れでる恨み節はどんどんエスカレートしていく。

「だから俺は何度も助けようとしたんだ!何度も何度も何度もぉ!!」

 前世では接近禁止命令が出てからもストーキングは続いていた。気づく度に警察に連絡して何度目かでやっといなくなった。いなくなって数週間後にさつきは不幸な事故で亡くなってしまうのだが…

 “あの瞬間”が久しぶりに脳裏に浮かび嫌な気持ちになるオーネスト、

頭を振り辛い思い出を振り切る。だが、その思い出はとてつもない魔物となってオーネストを襲ってきた。

「あの時、本当はお前が死ぬはずだったんだ!なのにさつきを盾にして生き延びやがった!」

「は?」

 オーネストの動きが止まった。見開かれた目でヴァインリキウスを見る。

「なんでお前がその話を知っている?…まさか…」

 ヴァインリキウスは自分が正義と疑わない様子でオーネストの問いに答える。

「あの時、さつきが死んだ日、軽トラを運転していたのはこの俺だ!」


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