救出
オーネストたちが帝国内を進んでいる途中巨人が歩いていくのを見た。
「なんだありゃあ!?」
全員が足を止め巨人に驚愕する中、オーネストはそれが何かわかった。
「あの時の古代兵器だ」
ヴァインリキウスが王都を訪れた際に見せられた映像の中の巨大兵器だとすぐに理解した。
「本気でアルバソルを潰す気なのか?」
怒りと困惑で足を止めるオーネストの手をエレビアがひく。
「だとしてもここで止まるわけにはいきません!今ならエミューリア様の警備も手薄になっているかもしれませんし」
「その通りです」
建物の影から影無が姿を現す。
「影無!」
「お待ちしておりました殿、エミューリア様に現状はお伝えしてあります」
「ありがとう。しかしあの巨人は?」
「先ほど確認いたしましたがあれにはヴァインリキウスが搭乗しているようです」
「じゃあ本当にエミューリア様を救出するのは今が好機なんですね!」
「えぇ、ただ一つ問題がありまして、エミューリア様の部屋の扉の前には常に兵がおります」
「それは面倒だな…しかし迷っている暇はないとりあえず部屋の付近まで連れていってくれ」
「御意」
「朧月とヴォルフはアルバソルに戻り現状をドラゴ様やアルフォード団長に報告してくれ」
「御意」
「はあ!?なんで俺まで!?」
不満そうにするヴォルフの肩をオーネストは力強く掴んだ。
「朧月のスピードについていけてかつ彼女を守れるのはお前だけなんだ!頼む!」
「~~~!」
少し悩んだヴォルフは不満を残しながらもその命令に応じ朧月とその場を後にした。オーネストたちは影無の案内でエミューリアの元へ急いだ。
エミューリアがいる塔の前を過ぎていく巨人の以前見た巨人の姿を見たエミューリアは叫びそうになるのを必死にこらえた。冷静で居続けられるように意識した。
「…影無さんがこの事を伝えてくれるって言ってた。私は早くここから出ないと」
しかし部屋の前には常に帝国兵が二人いる。そもそも扉自体か外からじゃないと開けられない。
(かといって窓から出るのは絶対無理だし…あー!どうすればいいの!?)
エミューリアが悩んでいる部屋の外では扉を守っている二人の兵士の元にニゲルがやって来ていた。
「ニゲル様!!」
「ご苦労様、姫に怪しい行動をとっていないか?」
「少し前まで唸り声のようなものが聞こえていましたが今はおとなしくしているよつです」
「そうか…ではここは私が代わろう」
「え?皇帝陛下につかれていなくてよろしいのですか?」
「その皇帝陛下からの命令だ、疑うのか?」
「ま、まさか!?直ちに退きます」
そして見張りの二人は離れニゲルが門の前に立った。
オーネストたちは妙に静かな城の中をひた走っていた。足音や物音はキャシーの獣技“抜き足”で完全に消していた。“抜き足”はキャシーを中心に一定範囲のすべての音や気配を消すことができた。それでも視認はされてしまうのでその時は影無が対処していた。
「いくら戦争に兵を出しているからって人がいなさすぎじゃないか?」
「確かに、一応城の前や国境に守備部隊はいましたが、あまりに少ない様子でした。自国をあまり重要視していないように感じます」
「…そうだね」
今のヴァインリキウスにとってエミューリア、さつきは何よりも優先すべき唯一の存在だろう。エミューリアさえ手にはいれば平気で自国や侵略した国なんかは何食わぬ顔で切り捨てるのだろう。
「でも今ならエミューリアの周辺は手薄なのでは?」
「いえ、ニゲルというヴァインリキウスの側近が門を守っているようです」
「そいつは強いのか?」
「調べたのですが幼い頃からヴァインリキウスと共にいるということしかわからず、出生などのすべてのデータがありませんでした。ですか実力は本物のようです。お気をつけください」
「わかった」
気を引き締めながら目的の場所にたどり着くと扉の前にニゲルはいた。オーネストたちは身構えたがそれに気づいているはずのニゲルは剣の柄に手すら置かなかった。ゆるりと立ち上がると戦意が感じられない目をオーネストに向けた。
「アルバソル王国第3騎士団団長オーネスト・ファーレンか?」
「…そうだ」
警戒を解かずに答えるとニゲルは半身を引き右手で扉を示した。
「どうぞ」
「は?」
状況が理解できず固まるオーネストたち、ニゲルは気にせず言葉を続けた。
「姫様を連れていくのでしょう?さ、どうぞ」
「………は!な、何を考えている!?」
「そんな言葉を信じられますか!」
警戒を解こうとしないオーネストたちにニゲルは困った顔をする。
「うーん…では私はここから離れましょう」
そう言うと両手を挙げてオーネストたちの方へ歩き始める。オーネストたちの間に緊張が走ったがニゲルは気にせずオーネストたちの間を通り抜け廊下の暗闇へと消えていった。しばらくその後を目でおっていたオーネストたちはニゲルが階段を降りる音が聞こえなくなって初めて警戒を解いた。
「なんだったんだ?影無、エレビア何か罠は?」
「周辺に罠はありません。それどころか罠を解除した形跡があります」
「罠まで解除していたのか??」
「あの者も本当に我々に危害を加える気はないようです。たった今この建物を出ていきました」
「一体何が目的なんだ?」
考えても答えはでないので注意をしながら扉を開けた。
エミューリアがいる塔を離れたニゲルはエミューリアが閉じ込められている部屋を見上げた。
「今頃再開の抱擁でもしているのかしら?」
相変わらずの無表情で呟くニゲル。すぐに視線を戻すと再び歩き始める。
「さて次の行動を開始しましょうか」
ニゲルはポケットから一枚の紙を取り出した。それは伝達用の魔道具で自動で飛んでいく手紙のようなものだった。ニゲルはペンで紙に言葉を記した。
『エミューリア様が侵入してきたオーネストたちに奪われました』
紙を折り畳みフッと息を吹き掛けると紙は鳥の姿になりすごいスピードで飛んでいった。
「これでよし、ランブルにも先に送っておいたからヴァインリキウス様と同じくらいのタイミングで戻ってくるでしょう。あとは、ヴァインリキウス様が戻ってきた時に私が無傷だと怪しまれるわね」
ニゲルは腰の短剣を抜き刃を自らの体に向けた。
「傷が残らないようにしなくちゃねーーー全ては主様のために」
そう言うとためらいなく自らの体に刃を突き立てた。
突然開かないはずの扉が開かれたのでエミューリアは驚き身を固めたが、入ってきた人物に気づいて今度は力が抜けてその場に座り込んだ。そして不安の糸が切れて溢れた涙で視界を霞ませながら震える声でその人の名前を呼んだ。
「まことさん…」
「よかった…」
エミューリアの無事な姿に安心し現状を忘れ強く抱き締めるオーネスト。数分経ちさすがに部下が止めに入った。
「あの、急いだ方がいいと思いますが…」
「「!!」」
おずおず話しかけたエレビアの声にオーネストとエミューリアは磁石の同極同士の反発のように素早く離れる二人。エレビアはすかさずオーネストをしかる。
「以前にも申し上げましたが、気安く王族の方に触れないでください、あと時と場合を考えてください、それから…」
エレビアのお説教の方が長くなりその間エレビアの怒りの視線に加えてキャシーにも睨まれ続けるオーネストだった。