共同戦線
騎士国家マルスの騎士たちは一人一人がかなりの手練れだった。その中でも王であるアーサーはとてつもない強さを見せていた。
「せりゃあぁ!」
剣を一閃すれば十を越える敵が吹き飛び、長い距離も一瞬で移動する。さらに先ほどから増えてきている死人のような兵士に対してはなんのためらいもなく切り伏せていた。
さらに第3騎士団も戦線を維持するのに大きな役割を果たしていた。獣人はブライアンを中心にそれぞれの獣技を生かして第2騎士団をサポートし、ウィズの部隊は後方支援に撤し、忍び部隊は各部隊間の情報伝達を行っていた。騎士部隊は第2騎士団、騎士国家マルスの騎士と共に前線で戦い戦線を押していっていた。戦いが続く中でディニラビアから来る敵も変わっていっていた。初めは普通の兵士のようだったが、時間が経つにつれて体のどこかを負傷した兵が増えてきた。始めは負傷兵を無理矢理戦わせているのかと思っていたがよく見るとその顔に生気はなく、切りつけても武器を突き刺しても痛みを感じてないかのように動き続けてくる。さらにどういうわけか魔物の群れまで明確な敵意をもってアルバソルの王都に攻めてきている。
この状況にアルフォードは頭を抱えた。
「くそっ!数が多すぎる上に減らねぇ…くそ!」
そこへある伝令を任せた部下が戻ってきた。
「団長!」
「おお!アルバートはなんて言ってた!?」
マルスの騎士たちが加わったとはいえまだまだ数が足りないと感じていたアルフォードは第1騎士団長アルバートに第1騎士団の前戦参加を申し出に行かせていた。しかし…
「申し訳ありません、第1騎士団のやつら一人も見当たりませんでした」
「なんだと!?」
「あとどういうわけか貴族の連中も一人も見当たりませんでした!」
「!?どういうことだ…いや、まさか…」
この時アルフォードの脳裏に以前聞いた噂が浮かんだ。
(貴族たちは万が一の時に備えて地下に巨大なシェルターを建造していると聞いたことがある。そこから逃げたのか?)
考えている間にも敵はどんどん増えていく。アルフォードはその事について考えるのをやめた。
「もう第1騎士団はあてにせん!今ある部隊で人数を調整しつつ戦う!!」
「団長!」
今度は別の部下が息を切らせてやって来た。
「今度はなんだ!?」
「は、それが国の端にあるエルフの森で森のエルフたちが戦闘を始めたという情報が入ってきました!」
「森のエルフだと?」
「はい、どうやらあのあたりの国境を越えてくるディニラビアの兵士たちを食い止めているようです」
「なぜ…」
国の端のエルフの森については知っていたが、森の中のエルフは積極的に外と関わろうとはしないと聞いていた。ましてやこんな国同士の面倒ないざこざに進んで関わろうとするような種族ではないはずだ。
「どうして…」
「団長ー!」
今度は別の部下が息を切らせてやって来た。
「今度はなんだ!?」
「は、南方の方で魔物同士が戦闘を始めたと情報が入りました!」
「こんなときにか!状況は!!」
「はい、それが…」
「なんだ?早く伝えてくれ」
「それが、その魔物というのがゴブリンを主体とした群れなのですが、近くの町の騎士団員によるとまるで魔物から人々を守るように戦っているそうです」
「な、なに…?」
魔物が魔物から人間を守っている?そんなおかしな状況にアルフォードの思考はすでにおいてかれていた。
「一体何がどうなっているんだ?」
疑問がまだ晴れないがとにかく今は敵を倒すことに集中しようと切り替えるアルフォードだった。
場所は変わり国の端のエルフの森の周辺。“ウィズダム”の戦えるエルフたちがアルクィナを中心に国境を越えてくるディニラビアの兵士たちを迎え撃っていた。
「一人でも多く捕らえよ!骨くらいは折っても構わん!!」
「了解です」
ルディ、シルヴィを中心に向かってくるディニラビアの兵士を叩いていく。正常な兵士はウィズダムので捕縛しゾンビ兵になったものは排除していった。
「まったく、こんなことになるなんてね」
うんざりした顔で魔法を操るアルクィナ。容赦なく敵の体を攻撃していく。
「でもま、エミューリアちゃんの国が危ないってんなら仕方ないわね」
大規模な魔法を展開しながらアルクィナは友の顔を頭に浮かべた。
魔物同士が争っている戦場。魔物軍団のうちの一方、アークゴブリンのアリベルトを中心に魔物の討伐を行っていた。先の事件で片目と片足を失ってしまったが、エミューリアの計らいで魔道具の義眼と義足を取り付けてもらっていた。その状態で敵をなぎ倒していた。
「まだ少し慣れませんね、おっと」
「大丈夫ですか?」
義足がぐらつき倒れかけたのをリリコットが受け止める。
「すいません、リリコットさん」
「言ったでしょう?私があなたを支えるって」
「そうですね、ありがとうございます。ところで頼んでいたことは?」
「はい、周辺の村の王国兵にはなんとかわかってもらい避難を進めてもらっています」
「ありがとうございます。ではあとはこいつらを先に進ませないことを考えましょうか」
「はい、大恩あるエミューリア様のために」
頷きあった二人は気迫そのままに敵陣に切り込んでいった。




