暴君
ディニラビア連合軍のとある駐屯地に侵略を受けた国々の負傷兵士が集められていた。全員が不安そうに囁きあっている。そんな中、壇上に光が当てられヴァインリキウスが壇上に上がってきた。
「やぁ、諸君!ご苦労」
やけに機嫌がいいヴァインリキウスに集まった負傷兵の不安はさらに高まった。そんな様子を気にもせずにヴァインリキウスは兵士たちを労った。
「我が国のために怪我までして我が国のために戦ってくれて本当に感謝している」
「………」
ストレートに感謝の言葉をあびてさらに困惑する負傷兵たち、ヴァインリキウスが話を進めるにつれて不安が高まっていき、その不安が的中してしまう。「
「さて、諸君らにはさらに文字通り俺のコマになってもらう。だが、負傷した部分が痛くて戦えんだろう?だから諸君らには死んでもらう」」
「え…?」
やっと疑問の言葉が出たと同時に部屋の四隅に魔法陣が展開される。
「な、なにを…!?」
恐怖の感情が部屋を満たしていく様をその身に感じ至福の笑みを浮かべながらヴァインリキウスは命令をくだす。
「やれ」
言葉と同時に魔法陣が発動し、陣から炎と雷が放出された。
「ぎゃああああ!」
「たずけっ…」
「あがあああぁぁぁ!?」
まさに阿鼻叫喚の地獄の光景だった。魔法を行使しているヴァインリキウスの部下のウィズたちも目をそらしてしまう中、ヴァインリキウスは声をあげて笑っていた。
「あっはははは!なかなか豪快な光景だなぁ?これで兵の補充は完了だな」
人が死んでいく様を爆笑しながら見ていたヴァインリキウスは魔法が修了し、その場に焼けた肉の匂いが漂うなかヴァインリキウスが立ち上がった。
「さて、次のステップだ」
ヴァインリキウスが手を叩くとウィズたちは別の呪文を唱えると紫の光が兵士の死体に降り注ぐ。すると死体が動きだしアンデットとして動き出した。しかしアンデットにの数に対してウィズの数が足りていないのもあり行動を完全に制御しきれておらず暴走寸前だった。
その様子をヴァインリキウスは満足そうに頷き両手をかざす。
「さて、仕上げだ」
そう言うとヴァインリキウスの手が輝き黒い光がアンデットを包む。
「“我が傀儡となれ”」
黒い光がアンデットに入り込む。すると急に動きが止まった。
「整列しろ」
ヴァインリキウスが命令すると部屋中のアンデットがキチンと整列した。一人のウィズに対してアンデット一体が制御限界のはずがヴァインリキウスは一人の魔法で部屋にいる約300程のアンデットを指揮下においていた。
「アルバソルに侵攻せよ」
外への門が開かれアンデットたちは隊列を保ったまま出ていった。それを見送りヴァインリキウスは椅子に座り直した。すると音もなく背後にニゲルが現れる。
「いつ見ても素晴らしい魔法ですね」
「そう思うならもう少し感情を出して言えよ」
無表情無感情で称賛の言葉を述べたニゲルに苦笑するヴァインリキウス。いつからいたのかわからないが先ほどの光景を見ても全く動じていない様子のニゲルに少し怖いものを感じながら自分の魔法の説明をする。
「俺の固有魔法“テイマー”は自分と同族以外の生物を操る魔法。魔物や人工生命まで操ることができる……人間も操れたらさつきちゃんも簡単に俺のものにできたのに……まぁ、その制約をスルーするためにこうして殺してアンデット化させているんだがな。死んでも使えるのは便利だけどな」
「そうですね」
まるで日常会話をするようなテンションで目の前の大量虐殺の話をしている二人にその場に残った臣下たちは身を震わせた。
「しかし…結構戦力を送り込んでいるのにまだ攻め落とせてないのか?」
「そのようです」
「ルーナモンドとレジスタンスが関わっているのは把握しているしオーネストって奴の戦力を考慮にいれてかなり多めに戦力を送り込んだんだがな」
「マルスが関わっているようですよ」
「あの完全自国第一主義のか?…そうか…あの国が関わっただけでここまで…ふむ、そうか…」
しばらくぶつぶつ考えたかと思うと急に立ち上がる。控えていたニゲルはヴァインリキウスがどこに行こうとしているのか察していたので自然に後ろに付き従った。二人は城の武器庫に向かい、さらに武器庫の隠し部屋に入っていった。その部屋はぼんやりと明るく他には誰もいなかった。ヴァインリキウスは部屋の中央にあるボタンに近づいていった。
「もっと簡単には侵略できると思っていたから試す機会はないかと思っていたけど、ちょうどいいな」
ボタンを押す。するとボタンがついていた台座が沈み部屋全体がエレベーターのように下がり始めた。最下層につくとかなり広い空間についた。周りにはアルバソルでエミューリアたちに見せたディニラビアの古代生物兵器と同じ見た目の一回り小さい、といっても最低五メートルはある巨人が30体ほど並べられていた。
「さて、試してみるとするか」
ヴァインリキウスが指をならし“テイマー”を発動させると、巨人たちの目に光が灯り外へと歩き出ていった。
「古代兵器の魔法技術を分析して作ったレプリカ古代兵器。こいつらなら遅れはとらないだろう」
「ランブルの部隊もそろそろ到着する頃ですね」
「そうだったな、アルバソルさえ潰せばさつきちゃんの気持ちは俺だけのものになるんだ、ぐふふ!」
なにかを想像し気持ち悪い笑顔を見せるヴァインリキウス。
「さて、一旦自室に戻るか」
二人は隠し部屋から出てヴァインリキウスの自室に向かった。その途中ニゲルがエミューリアのいる方に目を向けた。それに気づいたヴァインリキウスがいぶかしげな顔をする。
「どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
視線を戻したニゲルはヴァインリキウスについて彼の自室へ向かった。
同時刻、エミューリアは与えられた部屋の中で自分の未来に絶望しながらも城の中が慌ただしくなっていることに気づいていた。
「何かあったのかしら?」
確認しようにも外に出る術がなく途方にくれていると窓を叩く音がした。
「なに!?」
はじめは警戒したが、音のした方を見ると知っている顔があった。
「あなたは確かオーネストの部下の…忍者さん?」
影無は窓のそばまで来るようにジェスチャーで伝え、それを読みとったエミューリアはそれに従い窓に近づいた。影無は窓に近づいたエミューリアに見えるように紙を広げた。そこにはある言葉が書いてあった。
『ディニラビアがアルバソルに侵攻を開始した』
「え!な、なんで!??」
エミューリアがディニラビアに来たのは両国の友好のためであったはずだ。それに従ったのにディニラビアがアルバソルを攻める理由がわからなかった。影無は次の紙を広げた。そこに書いてあった理由がさに絶句する。
「私を完全に支配するため…?」
エミューリアはその場に座り込んでしまった。
「前世で散々私を苦しめておいて、生まれ変わった後まで私を苦しめるの?」
怒り、恐怖、悲しみ、ヴァインリキウスに対する様々な負の感情がエミューリアの心を蝕んでいく。
(このまま私が生きていればさらに人が死ぬのかな?だったら私なんていない方が…)
考えがマイナスの方向に行ってしまうエミューリア。“自殺”の二文字が頭をよぎり始めた時影無が窓を叩いたので音につられて顔を上げる。そこには別の紙を広げた影無がいた。そこに書かれた文字をエミューリアはゆっくりと読み上げる。
「『現在、このことを知ったオーネスト団長以下4名がディニラビアに向かっている…』え?」
オーネスト…まことさんがここに向かっている。そのことがわかりエミューリアの脳裏に前世で最後に見たまことの悲しそうな顔が浮かんだ。
「私がもし死んだらあの人はもっと悲しむわね…」
そんな顔は自分だって見たくない。
(正直、ディニラビアの皇帝の正体に対して恐怖はまだある。でもまたこの世界でまであいつに負けたくない!)
震える体を抱きながらエミューリアは決心を固め影無に助力を求めた。