異常な決断
時は少し戻り四日前、ヴァインリキウスはあることを悩んでいた。
「彼女はどうして俺を見てくれないんだろ?」
エミューリアと運命的な再会を果たし、過去からの繋がりも明かしたのに一向にこちらを見てはくれない。むしろ何かに怯えているようにも見える。ヴァインリキウスは腕を組んで考えた。だが、原因が自分自身だということは全く頭になかった。
考えたヴァインリキウスは笑顔でパッと顔をあげた。
「そうか、帰るべき場所があるからいけないんだ!」
まるで最高の名案が浮かんだかのように喜ぶヴァインリキウス。
「帰る場所があるから、その場所を思い出してしまうから俺のことを見てくれないんだな、ホームシックとマリッジブルーが一緒にきてるんだ!だったら帰る場所をなくしてしまえばすがるものが俺しかいなくなる。そうすれば、俺だけを見てくれるようになる!」
ヴァインリキウスはすぐにニゲルとランブルに命令する。
「今すぐに全兵力を持ってアルバソルに侵攻しろ」
「お、お待ちください!!」
ランブルが顔を青くして意見する。
「なぜそのような判断をなさるのですか!?」
「なぜ?」
ヴァインリキウスは首をかしげた。
「俺とエミューリアの未来のためだ」
「は?いえ、しかし……ぐぅ!?」
ヴァインリキウスがランブルの襟首を掴んで締め上げた。その目には苛立ちが浮かんでいた。
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ?黙って従えや」
「ヴァインリキウス…さま?」
ランブルは驚いた。ヴァインリキウスは暴君と呼ばれ恐れられているがその強さゆえに本気で怒ったところを見たことがない。それに自分に近しい者には割と優しい所もあった。ヴァインリキウスが本気で怒っているのを初めて見たランブルは驚愕と恐怖に固まってしまう。
「なんだ?俺の話を聞いているのか?」
無視されたと思ったヴァインリキウスはさらに締め上げる。
「ぐっくっ…」
謝罪をしようにももう声も出せない。意識がもうろうとしてきた時ニゲルがヴァインリキウスの手を外した。
「そこまでにしてください」
「…ああ、すまなかったな」
「がっは…はぁはぁ…いえ、私も家臣にあるまじき態度をとってしまい…申し訳ありませんでした…」
息を整えながら謝罪したが、ヴァインリキウスはすでに興味をなくしていた。
「明日には侵攻を開始する。ただちに準備に移れ」
「はい」
「は!」
ニゲルとランブルはすぐに行動にうつる。ランブルはまだ不安を感じていた。
(ヴァインリキウス様には何か意図があるんだ。帝国の国益になるような意図が)
無理矢理自分を納得させ侵攻の準備を進めた。
ヴァインリキウスら三人がいた部屋の床の下に影無は潜んでいた。そしてヴァインリキウスのとんでもない命令を聞いてしまった。
(殿に早くお伝えしなければ)
その場をすぐに移動した。その途中、先ほど一瞬視線を感じたことを思い出した。
(誰かが拙者の存在に気づいていたのか?しかし気づいていたのならなぜ見逃した?…いや、今はそれよりも伝令が先決だ)
この後、影無は伝書鳩を使って報告を送ったが、まるで始めから準備されていたかの世家に帝国の準備が早く、宣戦布告が先になされた。