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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第三章
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過去からの恐怖

 とうとうエミューリアがディニラビア帝国に旅立ってしまう日がやってきた。見送ったのは家族だけだった。最後に少しだけオーネストを見たかったがあきらめた。ディニラビア帝国までの道中は予想外に快適だった。特にヴァインリキウスは何かとエミューリアの世話を焼いてくれた。あまりに噂と違うので「何故こんなに世話を焼いてくれるのか?」と聞けば「あなたを愛しているからですよ!」と返してきた。エミューリアは「もしかしたら噂よりはましな人?」と思ったのだが、心のどこかで妙に警戒心が働いていた。

 約三日後ディニラビア帝国についたエミューリアは挨拶もそこそこにヴァインリキウス、ニゲルに連れられエミューリアの部屋だというところに連れていかれた。そこは塔のてっぺんの部屋だった。ニゲルを部屋の前に待たせ残りの二人は部屋に入った。そして入った瞬間エミューリアの背筋が凍った。

(な、なに?この感覚…)

 そこは初めて入る部屋だ。当然そうだ。しかしどこかで見たことがあるような気がしてならない。エミューリアが必死で記憶を掘り起こしているとそれに気づいたヴァインリキウスがにこやかな表情でエミューリアの手をとる。

「気に入ってもらえたかい?」

「え、えぇ…」

 答えながらもエミューリアは悪寒が強まったのを感じていた。

(な、なに?なんなのこれ??)

 困惑するエミューリアを置いてテンションが上がっているヴァインリキウスはルンルン気分でエミューリアの顔を覗く。そして

「どう?君の前世の部屋をできる限り再現したつもりなんだけど?」

「………」

 驚きの表情でヴァインリキウスの顔を見るエミューリア。ヴァインリキウスは相変わらず笑みを浮かべている。

「いま…なんて?」

「ん?だから、君の前世の部屋を再現したって言ったんだよ?()()()ちゃん」

「!!?」

 反射的に手を離し後ずさる。体中に鳥肌がたち冷や汗が吹き出る。目の前の男は何て言った?いや、あり得ない…

「急に黙りこんでどうしたの?」

 妙に優しい声で気遣ってくるヴァインリキウス。その姿に一瞬別の姿が重なる。

「…!…っはぁっ、はぁっ!」

 呼吸が乱れ足がガクガクと震え出す。

(そんな、まさか、ありえない!なんで私の前世の名前を知っているの?なんで前世の私の一人暮らしの時の部屋を知ってるの?)

 まばたきするのも忘れて目の前の男を凝視する。ヴァインリキウスはエミューリアに見つめられ少し照れたような顔になった。

「そんなに怯えないでさつきちゃん」

 困ったような笑顔で寄ってくるヴァインリキウス。少しずつ後ずさるエミューリア。そしてとうとう壁に追い詰められた。その様子にヴァインリキウスは何かを理解したかのように頷いた。

「あ、そうか」

 ポンと手を打ったかと思うといきなり片手をエミューリアの頭のすぐ横、後ろの壁にバン!と叩きつけた。

「ひっ…」

 明らかに怯えているエミューリアに対しヴァインリキウスは変わらない笑顔を浮かべている。

「大丈夫だよさつきちゃんこの世界にはあの泥棒男はいないから」

「あ、あなた、まさか…?」

 恐怖に目を見開き目の前の男を凝視する。ヴァインリキウスは顔を近付け囁いた。

「俺の名前はヴァインリキウス・D・ディニラビア、前世の名前は立石信行(たていしのぶゆき)

「…っいやぁ!!」

 エミューリアはヴァインリキウスを押し退け部屋を出ようとするが扉が開かない。ヴァインリキウスを見るとなぜが頬を紅潮させ震えている。

「あぁ、ああ!君の方から触れてくれるなんて!!前世の43年と合わせれば60年越しに願いが叶ったよ!」

「なんで、あなたが、ここに…」

 体中が冷えていくのを感じた。目の前に立つ男が言ったもう一つの名前、その名前はエミューリアの記憶と心に深く“トラウマ”として刻まれていた。




 エミューリアに転生する前、前世でまだ女子高生だった頃私はストーカーに悩まされていた。高校一年生になった直後から奇妙な出来事が起こり始めた。初めは少し変だな?くらいにしか思っていなかった。しかし、段々エスカレートしていき物がよくなくなったり、手紙が定期的に届くようになったりし始めた頃、さすがにストーカーだと認識し警察に被害届を出した。犯人は捕まらなかったが奇妙な出来事は起こらなくなった。

 だが大学生になってから何故かストーカー行為が再び起こり始めた。実家から離れて一人暮らしを始め、住所も変えたのになんで?怖くて悩んでいた頃に私はまことさんに出会った。彼は真摯に私の話を聞いてくれて私の不安は少しずつ消えていった。しかし、ストーカー行為はまたもや激しくなっていった。だけど今度はまことさんがいた。まことさんが警察と協力しとうとう犯人が捕まった。その犯人の名前が立石信行だった。立石が警察に連行される時、その場にいた私は一瞬立石と目があってしまった。その時に見たあのねばつくような笑顔は転生後もたまに思い出すことがあった。




「やっぱり怒っているんだね?あの時、あの男から君を救えなかったから」

「あの時?」

 “あの男”というのは誰かわかる。まことさんのことだ。だけど“あの時”?

(あいつが接近禁止命令を受けてから私が事故死するまであの男を見た覚えはない、じゃあもっと前?)

 エミューリアが記憶を辿るまでもなく信行は悲しそうな顔で教えてくれた。

「あの男を牽き殺そうとしたのに、あの男は君を盾にして生き残った…悔しかったなぁ」

「…はい?」

 これ以上冷えないだろうと思っていた体がさらに冷えていき凍ってしまったんではないだろうか?そんな心境に気づくはずもなく信行は続けた。

「君が死んだ日、ボクは車であの男を殺して君を助け逃げるつもりだったんだ。でもあたる寸前にあの男が君を盾にしたせいで君は死んでしまった。あの男は君を殺したんだ!」

 熱く語るその顔には悪意がない。自分がしたことが正しかったことだと信じて疑わない。それどころか私の死をまことさんのせいだとしている。あまりの身勝手さに返す言葉が浮かばない。

「でももう大丈夫だよ!この世界にあの男はいないんだから!」

 それは幸せそうな、無邪気な笑顔を見たエミューリアの押さえていた恐怖が爆発した。

「いやあああああ!!」

 錯乱し取り乱すエミューリアに「どうしたの?」と本気で心配するヴァインリキウス。すると部屋の扉が音もなく開きニゲルが入ってきてエミューリアの首筋に手刀を入れた。するとエミューリアは声もなく気を失った。それにヴァインリキウスが怒るが、ニゲルが冷静にたしなめた。

「エミューリア様がこうなられた理由はわかりませんが、このままでは怪我をされてしまうかもしれませんから」

「ぐっ、それはそうだが…」

「それにいつまでもここにいるわけにはいきませんよ」

 そう言って退出を促すとヴァインリキウスは渋々といった様子で部屋を出ていった。その後にニゲルも続く。そして部屋を出る一歩前に一度後ろを振り返り鉄格子がつけられた窓を見た。そしてすぐに視線を元に戻すと部屋を出ていった。




「…気付かれたでござるか?」

 エミューリアがいる部屋の外、そこに影無と朧月が張り付いていた。

 何故二人がここにいるのかというとエレビアの指示だった。エミューリアが帝国に行くとなってからオーネストの様子がおかしい。それがエミューリアに起因すると感づき忍の二人に尾行を依頼したのだ。そして追いかけた結果先ほどの妙な話を聞いてしまった。

「何やら皇帝が自分の事を妙な名前で呼んでいた気がします」

「あの姫様の狼狽えようも異常だった。…とにかくお前はこの事を殿にお伝えしろ、拙者はもう少しここに残る」

「御意」

「それと、先ほど部屋を出ていった輩には気を付けよ、何やら妙な胸騒ぎを感じる」

「承知いたしました。では!」

 朧月はカメレオンの能力で体を周囲に同化させながらその場を離れた。影無は周囲を警戒しながらエミューリアの部屋のなるべく近くに隠れ場所を探すことにした。

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