密談
会談終了後ヴァインリキウスは上機嫌で廊下を歩いていた。そんなヴァインリキウスにランブルが疑問を投げ掛ける。
「あの、ヴァインリキウス様、ひとつよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「先程のプロポーズ…についてなのですが…」
「プ…!?プロポーズって!おいおい!恥ずかしいじゃねぇかよ!!」
と見たこともないような上機嫌でランブルの背中を叩く。少し気味悪く感じながらランブルは続けた。
「いたっ…あの、なぜ第2王女を選ばれたのですか?」
「好きだから」
「あ、そう…いうことではなくてですね」
「まぁ理解できないのも無理はないか!ただ今回の事に関しては政治とかそういうのは関係ないぞ、100%俺の個人的なやつだ!!」
「はぁ…そうですか?」
この人の考えは理解できないと諦めるランブル。そしてある廊下の分かれ道に来たときヴァインリキウスは部屋とは違う道に入った。
「あれ?部屋はこちらですよ」
「ああ、気にするな俺たちは少し会う奴がいるから先に行っておけ。行くぞニゲル」
廊下の先に消えていく二人を首をかしげながら見送り「考えてもわからない」と残りの部下と用意された部屋に向かった。
ヴァインリキウスとニゲルはある部屋に入った。そこに行くまでにはかなり複雑な道のりだったが、外国の人間のはずのヴァインリキウスはまるで知っているかのように迷うことなくその部屋に辿り着いた。そこは少しせまめの部屋で窓はなく机と椅子が二つあるだけだった。部屋には先客がいてすでに椅子に座っていた。
「遅かったな」
椅子に座っている人物、ドラゴ・J・アルバソルが後ろに側近のアルプスを従え無感情な声でヴァインリキウスを出迎えた。
「悪い悪い」
言葉とは裏腹に特に悪びれた様子もなく椅子に座る。早速ドラゴの方から話を始める。
「さていきなりだが、アレはなんだ?」
「アレ?」
何の事かわからず首を傾げたがすぐに思い当たったようだ。
「ああ!!求婚のことか?お前あの時淡々と対応していたと思ったが内心では動揺していたのか?」
「…」
ドラゴの眉間にシワが寄る。ヴァインリキウスのバカにしたような言葉遣いが気にさわったわけではなく、的はずれな回答に苛立ちを覚えただけだ。それに気づかない様子のヴァインリキウスにドラゴはため息をついた。
「その事ではない、あの古代兵器についてだ」
「あ、あれか」
「それだけではない、今日に至るまでのお前が起こした数々の問題、今回の突然の訪問、言いたいことはたくさんある」
「え~ちゃんと後で説明しただろ?」
「…」
悪びれる様子が全くないヴァインリキウスにこめかみを押さえるドラゴだったが、考えても無駄だと思い頭を切り替える。
「わかった…では、古代兵器についてだけでもちゃんと話してもらおうか」
「わかったよ、ニゲル」
呼ばれたニゲルが進み出る。
「では私の方から説明させていただきます。あの古代兵器はディニラビアで300年ほど前に造られた魔法人形だそうです。魔法と魔法石を練り込んだ土を人型に固めて巨大化、さらに魔法操作で土を鋼鉄よりも固い物質に変換し、体内にちりばめた魔法石に魔力を送ることで動かします」
「ずいぶんと壮大な魔法遺物だな」
「はい、しかし体内の魔法石の量が多く大量の魔力を必要とするのと体内の魔力量が一定量を越えると制御できず暴走してしまうというデメリット…というか致命的な欠点が見つかり長らく封印されていたものをヴァインリキウス様が封印を解かれて見事手の内にされたのです」
説明が終わるとニゲルは後ろに下がる。静かに聞いていたドラゴは大きな疑問をぶつけた。
「ではなぜお前はアレを操れる?」
「フム…」
ドラゴの問いにヴァインリキウスは少し考えたがすぐに答えた。
「別に隠すこともないかな?さっきも言ったが俺の固有魔法で操っている」
「固有魔法?どんなものだ?」
「俺の固有魔法、名前は“テイマー”ってつけた。俺はな自分と同族、つまり人間種以外のすべての生物や意志が宿ったものを操ることができるんだ」
「!!」
「しかも人間じゃなければなんでも操れる。それこそ魔物やゴーレムみたいな人工生命までもな。さらに魔力も始めだけ注入すれば後は操り放題だ」
自慢げに笑うヴァインリキウスを見ながらドラゴは思考を巡らせていた。
(想像以上だ…この力が我が国のものになればアルバソル王国はもっと強くなる)
ドラゴはヴァインリキウスに接近するという今の計画を実行してよかったと心の中でほくそ笑んだ。
そもそもなぜこの二人がここでこうして話をしているのか?始めに近づいたのはドラゴの方だった。ヴァインリキウスがディニラビアの王となった日に家族に内緒でディニラビアに赴き当時のヴァインリキウスと出会った。国を手に入れたがどうしてよいのかわからない様子のヴァインリキウスに国を造るノウハウを教えた。そして今に至るまでの付き合いとなる。なぜ影で繋がっていたかというと、ヴァインリキウスに秘めた何かを感じとり、アルバソル王国の驚異となる前にいい関係を築くのが目的だった。しかし、ヴァインリキウスは想像以上に自分勝手な人物でかなり苦労した。一時は完全に暴走しそうになったが、何故かエミューリアの存在を知ってからはアルバソル王国に対して妙に慎重になっているように感じた。ドラゴとしてはありがたかったが最近は国内の各地で問題を起こしているのでなんとか止めようと思った矢先に今回の訪問と求婚、ドラゴのストレスは極限に達しようとしていた。そんなドラゴの内情など知らずヴァインリキウスは嬉しそうに今回の求婚について話をしだした。そこからは異常とも思えるほどにエミューリアに対する思いが伝わってきた。
「なぜそこまで義妹にこだわる?」
ヴァインリキウスは帝国内では様々な女をとっかえひっかえしていると聞く。エミューリアは確かに見た目も中身も優秀だが一人にこだわる必要はないはずだ。そもそもあれだけの力があれば強引に奪えたはずだ。なぜそれをしなかったのか?どんな答えが返ってくるのか?しかし返ってきた答えはよくわからないものだった。
「ずっと待ってたんだ、ずっと想ってたんだ、生まれるずっと前から…今は誰も俺を邪魔できない、なにより、運命の赤い糸を感じるんだ」
意味がわからない言葉と感情が理解できず後ろのニゲルを見るが、目が合うと彼女は首を横に振った。…こうなったら何をしてもダメなようだった。
しばらくして我に返ったヴァインリキウスに残りの話し合いを済ませヴァインリキウスとニゲルは部屋に戻っていった。ドラゴは椅子に座り直しため息をはいた。アルプスがスッと飲み物を出す。
「いかがですか?」
「うむ、奴は持っているようだ。しかも“当たり”の可能性が高い、しかし…」
本日何度目かのため息が出る。
「制御ができるかわからん。常に警戒を怠るな」
「了解です」
飲み終わったカップをしまいながらアルプスは頷いた。