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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第三章
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皇帝

 ヴァインリキウスが帝国を出発して3日後、アルバソルの王都に到着した。1日目に国境を超えた時点でソーレたち王族には連絡がいっていたので到着までの間に会議が開かれ、あらゆる事態に対する案がいくつか上がったが帝国の意図がつかめなかったので兵を密かに待機させ万が一に備えることにした。

 ヴァインリキウスの出迎えには現国王エルドラドとソーレ、ドラゴが直々に対応した。ヴァインリキウスはニゲルとランブル、他2名を付き添わせ残りの兵は待機させた。そして王宮内の客間に案内された。

 今回の目的は両国間の『和平条約』の締結。これはなんと帝国側から持ち込まれた提案だった。今まで大きな力で他国を侵略してきたディニラビア帝国がいきなり平和的な話を提案してきたことにもアルバソル王国は混乱した。様々な疑念が残るなか会談は始まった。会談の席にはアルバソル王国からは国王エルドラド、継承権3位までのソーレ、ドラゴ、シーラの三人にドラゴの側近のアルプスだ。アルプスは王族でも貴族でもないが、普段から王族(特にドラゴ)のために根回しやらいろいろ裏で動いているため、こういった席には決まって同席している。いつもならこのメンバーだけなのだが今日に限ってはヴァインリキウスの要望で王位継承権第4位のエミューリアも参加することになっていた。

 一方のヴァインリキウスの方はヴァインリキウスとニゲル、ランブルを含む城内に連れてきた4人で会談に望んでいた。

 会談が始まる前にこんな場に参加するのが始めてのエミューリアは緊張をまぎらわすために隣のシーラに話しかけていた。

「ねぇ、シーラ義姉様。なんで今回は私も参加するのですか?」

「…」

「他の種族の人とはよくこれに近いことをするけれど…他の国の王様、しかもあの帝国との会談なんて緊張するわ」

「…」

「でも今まで私は参加したことなかったのになんで今回は参加するのかな?帝国の指名らしいけど…」

「………」

「ねぇ、お義姉様?聞いていますか?」

 ずっと無言で振り向いてもくれないシーラの肩を揺する。シーラの怒りゲージが上がる。

「ーーーもう!うるさいですわ!あなたも王族なんでしたらドンと構えていなさいな!!」

「は…はい」

 怒られてエミューリアが黙った。程なくして条約締結に向けての会談が始まった。といっても絶大な力を持つディニラビアに無理難題を押し付けられ帝国有利の条約が締結されると思ったが、実際はどちらも損をしないまともな条約げ締結された。あまりにスムーズに話が進んだので1時間ほどで会談の主な話は終わった。むしろヴァインリキウスが早く終わらせたかったようにも感じられたがソーレは無事に済んで内心ほっとしていた。

 和平条約の内容もまとまり後は両国の国王が印を押せば締結されるといったタイミングでヴァインリキウスがある提案をしてきた。

「あー、少しいいか?」

 急に話し出したヴァインリキウスにアルバソルの人間はビクッと体を振るわせ全員がヴァインリキウスを見る。

「な、なんでしょうか?」

「今回の和平条約は帝国とアルバソルの絆を強固にするために結ばれるんだよな?」

「は、はい、そうですが…」

「なら、より強固になればなおいいってことだよな?」

「そうですね」

 この場で唯一冷静沈着なドラゴが答える。ヴァインリキウスはニヤリと笑いながら話を続ける。

「そこで俺から提案だ。この国で俺の結婚相手を探す」

「!!!」

 アルバソル側の人間が想定外の提案に目を見開いて驚いた。全員が固まる中、ドラゴだけは冷静に会話を続ける。

「つまり婚姻を結ぶことで両国間の絆をより強くしたいということですか?」

「そうだ、俺も23だからな、真剣に後継ぎのことも考えなければならないしちょうどいい」

「お、お待ちください!」

 ソーレ王子が硬直から立ち直り話に入る。

「申し出はその…ありがたいのですが、この国にあなたに釣り合う女性がいるかどうか…いえむしろ、この国の人間は皆平凡でヴァインリキウス殿の隣に立てる程の者はいないかと…」

 ソーレにしては自国の女性に対して少し失礼な言い方だが、ヴァインリキウスの帝国内での噂は聞いていたので「花嫁の捜索」の名目で国内の女性かよからぬ事になるかもしれないと考えた故の発言だった。しかしそんなソーレの言葉をヴァインリキウスは笑い飛ばした。

「わはははははは!心配するな、もう相手は決めてきている」

「え?」

 ヴァインリキウスは部屋を見渡しニヤニヤ顔をし続けながらもったいぶる。

「それはこの部屋の中にいる!」

 それを聞いてシーラの肩がピクリと動いた。この部屋の中で未婚の女性はシーラとエミューリアの二人だけ、しかも継承権はシーラの方が上で公の場にも多く出ている。ヴァインリキウスが将来的にアルバソル王国の実権を握るつもりならばシーラと結婚する方が効率がいいだろう。だが、シーラはソーレの事を心から慕っていた。だからこの時はまるで生きた心地がしなかった。しかしヴァインリキウスの口から出てきた名前にその場のほぼ全員が驚きの表情を浮かべた。

「俺が嫁として欲しいのは、エミューリア・B・アルバソル。君だ」

「!?」

 全員の視線がエミューリアに集まる。エミューリアも継承権自体はあるもののこの国で国政に関与できるのは現時点での継承権第三位までである。国王が交代してもこれは変わらない。万が一ヴァインリキウスが今後アルバソル王国の国政に影響を及ぼそうとしているのならまず選ばない。そもそも他国との交流に参加できるのも継承権第三位までで、エミューリアはそういったものに参加したこともない。他種族との交流を頻繁に行ってはいるがそれもアルバソル王国内でのみ行っていることなのでヴァインリキウスとは顔すら合わせたことがないはずなのに何故エミューリアを選んだのか?溢れ出る疑問の波に飲まれる面々を無視してヴァインリキウスは求婚を続ける。

「細かいことはどうでもいいだろうが、とにかく俺は彼女が大好き…いや、愛してるんだよ。なぜ?とかはどうでもいいだろうが」

 ヴァインリキウスがエミューリアを見た。視線を向けられたエミューリアは全身に悪寒が走った。そして現状が夢でないことを再認識させられたエミューリアの顔色が青くなる。

(一体何が起こっているの?)

 その様子を見たソーレが考えを改めてもらおうと声をあげる。

「ヴァインリキウス殿、さすがにそれは…」

「おおそうだ!我が国と友好関係を築けた暁にこの国が手に入れるものも教えておこうか」

「え?」

 まるてソーレの声をかき消すようにヴァインリキウスが声を張る。部屋が静かになるとヴァインリキウスが合図し控えていた側近がなにやら整形された石のようなものを手渡した。ヴァインリキウスはそれをテーブルの上に置き指を鳴らした。すると石の上に魔法陣が展開しテレビ画面のようなモニターが空中に現れた。

「魔石を利用した通信魔道具だ」

 ヴァインリキウスの説明の通りモニターには映像が映されていた。そこには要塞のような建物が遠くに映っていた。

「これは我が国が侵略した国の一部のものたちが集まり造り上げた我が国に対抗するための要塞だそうだ。破壊するために何度か兵を派遣したがあちらもなかなかのものでな、現在でも落とせないでいる」

 帝国にとってはそれなりの驚異だ、と語るヴァインリキウスの表情は何故か楽しそうだった。すると映像から声が聞こえてきた。恐らく部下がそこにいるのだろう。

『陛下、こちらの準備は完了しました』

「そうか、しっかり撮っておけよ」

 ヴァインリキウスが立ち上がり目を見開く、すると目が赤く輝き始めた。何が起こるのかとその場の全員が固唾を飲んで見守っているとモニターにとんでもないものが映った。

「なんだ…あれは?」

 ()()が現れた時誰ともなくその言葉が漏れだした。

 画面には数十メートルはあろうかという人形の何かが現れた。体は煉瓦のような色をしておりまるで埴輪のような質感だ、身体中から煙を発しておりその顔には裂け目のような目や口がある。部屋の中のほぼ全員が息をのみ押し黙る中、ヴァインリキウスがまるで子供がおもちゃを自慢するかのようにそれの説明をした。

「あれは我が国の古代兵器だ」

「古代兵器?」

「ディニラビアのずっと昔の王族が造ったらしい、だが造ったはいいが制御ができなかったようで封印されていたのを俺が起こした」

「そ、それは大丈夫なんですか!?」

「俺以外なら無理だったろうが、俺の固有魔法なら問題ない見ておけ」

 モニターを見ると巨人に気づいた要塞の人間が大砲やら魔法やらを打ち込むが巨人には傷ひとつついていなかった。ヴァインリキウスが腕を動かすとそれに呼応するように巨人が動きだす。ヴァインリキウスが手を打ちならすと巨人の口許に光が集まり始める。それを見たソーレはこれから起こることに気がついた。

「まさかーーー」

 まさにその瞬間巨人の口から一本の熱線が放たれ要塞を一閃した。数秒後要塞が大爆発し辺りは火の海に包まれた。逃げ惑う人々を巨人がさらに押し潰していく、そこで映像は終わった。部屋の中の誰もが言葉を失うなか、ヴァインリキウスは椅子に座り直し頬杖をつきながら満足そうに言う。

「どうだ?すごいだろう?」

 ショックが消えず誰も返答できない。構わず続けるヴァインリキウス。

「俺と結婚すればこの力が確実にこの国の物になるんだ。アルバソルとしても悪い話ではないだろう?」

「し、しかし…」

 あの映像を見てなお食い下がろうとするソーレにドラゴが遮る。

「確かに魅力的な力ですね」

「ドラゴ!?」

「兄上、現実を見てください」

「…!!」

 ドラゴはソーレがエミューリアを庇おうとしていることを察しそれを妨害した。その上で今アルバソル王国が陥っている状況を再認識させた。

 アルバソルが得る軍事力という形で示した“古代兵器”は同時にアルバソル王国に対する脅迫でもあった。「結婚を認めなければ巨人を使って滅ぼすぞ」という含みが伝わってくる。ソーレは苦い顔をした。

(このまま逆らわず申し出を受ければアルバソル王国としてはプラスの方が大きい…だがそれではエミューリアは…)

 エミューリアを見ると顔を青くし震えていた。エミューリアのそんな姿は見たことがなかった。何とかしようと思考を巡らせているとヴァインリキウスは余裕の表情で言ってきた。

「今ここで答えを出せとは言わないさ、そうだな…3日待つ、それまでに答えを聞かせてくれればいい。その間はここに滞在させてもらおうか」

 ヴァインリキウスは部下を引き連れ部屋を出ていった。残ったエルドラド、ソーレ、ドラゴ、シーラ、アルプスそしてエミューリアは部屋を出ずに呆然としていた。誰も喋らないのでドラゴがまず喋る。

「考える余地はないだろう?あのような兵器を見せられたのだ帝国の言葉に応じるしかあるまい」

 そのあまりに冷たい言い方にソーレが思わず胸ぐらを掴んだ。

「ドラゴ!!」

「ソーレお兄様!やめてください!!」

「くっ…」

 エミューリアが思わず叫び、ソーレは手を離した。ドラゴは特に気にする様子もなく淡々と喋る。

「義兄上、実の妹があまりいい噂を聞かない帝国に行ってしまう事に対して不安や憤りを感じる気持ちはわかります」

 立ち上がりソーレに近づく。

「しかし、もし帝国の提案を断ればどうなるかお分かりでしょう?」

「………!」

「今、エミューリア一人を取ればこの国の何百万の命が踏みにじられるんですよ」

「…わかっている」

「個人の損得だけを考えていればいい貴族と違い我々王族は自分の身よりも国の事を一番に考えなければならないんです」

「わかっている!!」

 ドラゴの畳み掛けるような正論に血を吐くように叫び、俯き歯を食い縛る。

「エミューリア」

 ドラゴがエミューリアに向き直る。呼ばれたエミューリアは真っ青な顔でドラゴの方を見る。ドラゴが何を言いたいのか察しているのかその表情には絶望が浮かんでいた。ドラゴは気にせず自分の役割を果たす。

「アルバソルのためにディニラビアに行ってくれ」

「…っ!?」

 目の前が真っ暗になり崩れ落ちるエミューリアをシーラが受け止める。エミューリアは無意識に部屋を見渡した。父親のエルドラドは悲しい顔で見返され、シーラは目を合わせてくれない、アルプスはまるで興味がないように今回の会談の記録をまとめていた。ソーレと目があったが悲しそうな顔で目を反らされた。この場でドラゴだけが自分の目を真っ直ぐに見ている。その目には何の感情もなかった。ただただ現状況で最も国のためになる選択肢をエミューリアに示す。

 エミューリアは何も言えず俯いた。ドラゴはそれを無感情な顔で見下ろすとさっと踵を返した。

「これよりもよい選択があるのなら提示してみろ、ないのなら腹をくくれ」

 それだけ言うとドラゴは部屋から出ていった。アルプスもその後ろについて部屋を出ていった。残されたエミューリアたちは誰も一言も喋らずに突きつけられた現実に絶望していた。

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