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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第二章
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討伐と救出

 「気づいたか?」

 オーネストの会話はアリベルトを通してフードの男に伝わっていた。

「魔物の数もかなり減り、投入した合成獣(キメラ)もほとんど倒され、敗北は確定か」

 言葉とは裏腹に男は満足そうだった。

「でもまぁ得たもののほうが大きいから良しとするか!生物を元にした“核”を使えばごちゃごちゃして使いにくかった合成獣(キメラ)も使いやすくなるってことがわかったしな」

 フードの男はにやつきながら観察を再開する。

「さて、どう終着するのかな?」




 オーネストたちは戦いながらアリベルトを元に戻す方法を見つけようとしていた。

「ヴアアアアア!」

 時間がたつにつれてアリベルトはどんどん自我を失っているように見えた。そのアリベルトに対して今はオーネスト、エレビア、リーヴァ、ヴィオラ、リリコットで対処している。ブライアンには他の魔物を寄せ付けないように残りの団員を指揮してもらっている。

「これはかなりキツいな」

 アリベルトの攻撃は殴る蹴るといったいたって簡単なものばかりだがその一撃一撃が重く動き続けても疲れる様子がない。しかも時間がたつにつれ力が増しているようにも感じる。オーネストは魔装を動きやすいものに切り替え相手の攻撃を受け流すスタイルに変更した。

「防御だけじゃ埒があかないな、傷つけてしまうけど攻撃もやむおえないか」

 オーネストが苦渋の決断を迫られている時、背後からこの場にいるはずのない人の声が聞こえた。

「私に任せて!オーネスト!」

「は!?」

 反射的に振り返るオーネスト、目線の先には桃色の髪を勇ましくなびかせたエミューリアが立っていた。その後ろには負傷してはいるが正気に戻ったアークゴブリンたちが立っていた。その光景に目を奪われアリベルトの事を一瞬忘れてしまった。

「団長!」

「え、あぐっ!」

 エレビアに呼ばれて我に返ったと同時にアリベルトの攻撃がオーネストの脇腹にモロに入った。

「団長!!」

 ブライアンがすぐに反応しオーネストを受け止めた。リーヴァと近くにいたアンソム・ソヴォルトがオーネストの代わりにアリベルトの対応にあたる。魔装を薄くしていたためダメージは大きかった。エミューリアとエレビアが駆け寄ってきた。エレビアはすぐに治療を始める。少しずつ痛みが和らいできたところでオーネストはエミューリアを見る。

「なんでここにいるんだ…ですか!?エミューリア!……様!」

 テンパり思わず二人きりの時の口調が出そうになってしまう。エミューリアはオーネストの肩に手をおき落ち着かせようとする。

「落ち着いてオーネスト、助けにきたのよ」

「それが問題だって言ってるんですよ!!この事がソーレ王子やドラゴ王子にバレたらどうするんですか!?」

「それなら大丈夫、朧月が対処してくれているわ」

「朧月が…?」

「それならしばらくは大丈夫だと思います」

「影無!」

 いつの間にか隣にきていた影無がフォローをいれてきた。影無の話によると朧月は変装が得意で故郷では要人の影武者などをしていたそうだ。朧月はカメレオンの半獣人で見た目は人だが皮膚は爬虫類特有の鱗で覆われている。その鱗はカメレオンのように様々な色に変えることができるのでそれを利用して対象に化けるのだ。さらに声帯や髪の色まで変化でき、対象のことも徹底的に調べあげるので細かい仕草までコピーできる。

「じゃあ代役を置いてきたってことか!?」

「大丈夫よ完璧だったから」

「そういう問題ではないでしょう!ん?そういえばどうやってここに来たんですか?」

 この場所は王都から遠く離れていて普通に移動すれば馬車でも三日はかかる。オーネストたちはかなり特殊な方法で移動したので時間はかからなかったがエミューリアはそうはいかないはずだった。

「これを使ったのよ」

 自慢気にエミューリアが出したのは一枚のシールのようなものだった。

「それは?」

「これは“空間転移”の魔法陣よ」

「空間転移!!?」

 治療をしていたエレビアが声を裏返らせながら驚いている。

「ど、どうした?」

「く、くくく空間転移の魔法陣はかなり高度な魔法で使えるウィズは世界でたった一人と言われてるんですが、そのウィズが一般人でも転移魔法を利用できるように開発したのがこの“空間転移魔法陣シール”なんです!」

 使い方は転移先に対になっている一枚を貼り付け、もう一枚は持っておき、移動したい時は持っている一枚を破ることで移動できる使いきりの魔導具だ。魔法自体もすごいのだが問題はその値段。エレビアに値段を聞いたオーネストは

「そ、そんなにするの!?」

 前世の価値観に直すと一組数千万円くらいするらしく、この世界の価値観で考えると平民が五回くらい生まれ変わらないと到達できない金額だった。改めてさつきが王族であるんだと思った。移動の方法はわかり次の疑問は後ろに控えているアークゴブリンたちだった。

「洗脳の治療ができたのですか?ピノからは方法がわからないって聞いていましたけど」

 アークゴブリンの治療の状況は影無からの報告でわかっていた。洗脳は病気ではないので医療では治らない。呪いに近いが今ある解呪魔法は全て効かないらしい。そのあたりもエミューリアは自慢気に話してくれた。

「そこで私の固有魔法“リンク”が役にたったのよ」

 固有魔法“リンク”、信頼を得た相手と自分の心を繋げる魔法だ。心を繋げることで言葉が通じない相手とも会話ができる。

「でもそれだけじゃなかったの!“リンク”できるようになった相手とさらに心を通じ合わせることで“その人の心に接触できる”ようになったの」

「心に接触?」

「簡単に言うと相手の心を見ることができるの。そしてわかったのがこの洗脳は未知の魔法によるもので、対象の心に“黒い意思”を寄生させて支配する魔法だったの」

「“黒い意思”?」

「魔法をかけた本人の悪い心って感じかな?悪意とか欲望とかのいわゆる“黒い感情”のことで、それがアークゴブリンたちの心に染み付いている感じかな?とにかくそれを取り払ったらアークゴブリンたちは元に戻ったの」

「そうなんだ…」

 その“黒い意思”というものがどのようなものかわからないが、エミューリアは危険をかえりみず解呪を行ったのだろう。それに対して言いたいことは山ほどあったが今は飲み込み我慢する。

「じゃあ、アリベルトさんも元に戻せるのですか?」

「今から試してみるわ」

 エミューリアはアリベルトを見据え固有魔法を発動、エミューリアの意識がアリベルトの意識とリンクする。その瞬間エミューリアは大量の黒いもやに包まれる。

(!?)

 体中にものすごい寒気を感じた。体にまとわりつきいつまでも離れないような嫌な感覚。さっきまでのアークゴブリンたちに憑いていた“黒い意思”とは比べ物にならないくらいの“悪意”いや“執着”?だがエミューリアがなにより不可解に思ったのはこの“悪意”に以前どこかで触れているような気がしたからだ。

(なにこれ?ものすごく嫌…!!)

 “黒い意思”がどんどんエミューリアの中に流れ込んでくる。一瞬記憶の奥で誰かが笑っている映像が浮かんだ。

「きゃああああぁぁぁ!!」

「エミューリア様!?」

 意識が体に戻ると同時に絶叫するエミューリア、オーネストは慌ててエミューリアの肩をつかみ何度か呼び掛け正気に戻す。エミューリアは呼吸を整え心配そうにしているオーネストたちに笑顔を向けた。

「ごめんなさい、大丈夫よ」

「なにがあったんですか?」

「…わからないわ、アリベルトさんの心を覗いたんだけど他のみんなより深く強く絡みついてた。それに…なんだろう?黒いもやが体にまとわりついてきて、記憶のずっと奥から“恐怖”が沸き上がってきたの」

「とにかく、下がって休んでいて」

「その前に、アリベルトさんを元に戻す方法を見つけたわ」

 まだ少し顔色が悪いエミューリアが心配になりオーネストが耳元で囁く。

「無理してるでしょ?これ以上危険な目に合わせるわけにはいかないよ」

「無理したいのはやまやまなんだけど、この方法は私にはなんともできないのよ」

「どういうこと?」

「他のアークゴブリンたちを助けた方法はね、私の“リンク”で心を繋げて“黒い意思”を取り除いたの。“黒い意思”っていうのは魔素と同じ性質を持っているんだけど、それを取り除くのは“リンク”とは別の魔法で私が取り除ける魔素は限られてるの」

「つまりアリベルトさんを取り込んでいる魔素はかなり強いものだということ?」

「うん、それどころかどんどん大きくなってる。魔力や魔素を一気に取り除ける方法があればいいんだけど…」

「でしたら私にお任せ願えませんか?」

 治療を終えたエレビアが立候補してきた。エミューリアはウィズダムでのことを思い出した。

「『魔眼』を使うのね?エレビア」

「はい」

 “『魔眼』アブソリュート”、その眼で見た相手の魔力や生命力を際限なく吸収する力。強力ではあるが制御がとても難しい。それに魔力の性質によってはエレビア本人にも何か影響があるかもしれない。止めようと思ったがエレビアの目はすでに覚悟を決めていた。こうなっては上司として止めるよりも支えるべきだと思い直した。オーネストは“魔装”を再展開しエレビアの前に立つ。

「まかせた、アリベルトさんは僕が抑える」

「はい!」

 『魔眼』は広範囲に届く力ではあるが範囲内の対象から敵味方の区別なく魔力や生命力を奪ってしまう。オーネスは例外でその影響を受けない。

 『魔眼』発動のためにアリベルトを抑えているリーヴァとアンソムを一旦下がらせ、二人が退却している時にアリベルトをオーネストが抑える必要があった。

「後はまかせろ!」

 手短に作戦を説明し二人を下がらせる。オーネストはアリベルトの対応に移る。アリベルトが下がる二人を追いかけようとしたので足元を切り払いバランスを崩させる。ここでアリベルトはオーネストを再認識し拳を振り下ろしてくる。オーネストは左にかわし魔力をこめて右手の魔装を巨大な手に変えアリベルトの足を掴みながらジャンプしアリベルトを前のめりに転ばせる。起き上がろうとするアリベルトにさらに上から踏みつけ魔装の重量を変化させおもしになる。しかし徐々にアリベルトのパワーが上がっていきオーネストの重さを越えかけたギリギリのタイミングでエレビアの『魔眼』の効果範囲内のオーネスト以外の退避が完了した。

「準備完了です!」

「よし!このままやってくれ!」

 頷いたエレビアは以前のようにエミューリアに支えられ眼鏡を外した。

「いきます。“『魔眼』アブソリュート”!!」

 眼鏡が外された瞬間『魔眼』が発動し効果範囲にあるすべての魔力や生命力をまるでブラックホールのように取り込み始めた。

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