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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第二章
22/49

奇妙な魔物

 開戦してすぐに医師のピコと医療忍者の白月、技術者のドワーフ二人は臨時のシェルターにもなる先程の箱の中でリリコットと共に待機し、残りのメンバーで対処にあたる。

「常に三人以上で行動せよ!通常の魔物は排除!アークゴブリンはできる限り捕縛せせよ!」

 全員がランダムにチームを組む。オーネストは側にいるウィズの一人に声をかけた。

「イフ、頼むぞ」

「…うん」

 深く被った白いフードの下から微かに女の子の声が聞こえた。イフは地面に自分の杖を突き立てた。

「魔力パターン認識…ターゲット判別完了…。立ち上がれ、天を穿つ炎柱…“ブレイズビラー”」

 イフは魔素を感じ分けることができる特殊な感覚を持っている。その能力で敵を判別し排除対象の足元に赤い円を展開、その円から何本もの火柱が立ち上がった。しかも仲間の騎士をうまくかわしその火柱は狙った魔物だけを焼き付くし魔物の数を一気に半数以下にまで減らした。だがまだ魔物の数は多い。

「できる限り迅速にそして慎重に事を済ませるぞ!」

 オーネストが魔装展開(マキナチャージ)で鎧をまとい魔物の群れを蹴散らしていく。別の場所ではブライアン副団長が体に流れるオーガの血を覚醒させ超パワーで魔物を圧倒、獣人は獣技を駆使し魔物を狩り、エレビアたちウィズ部隊は各チームの後方支援に徹し、アンソムら騎士たちはウィズの護衛を行いつつ魔物に対応、忍の者たちは魔物の群れの中からアークゴブリンの位置情報を見極め各チームに伝えつつ可能な限りアークゴブリンの捕縛を試みた。魔物の数が目に見えて減少してきた頃、奇妙な魔物に出くわした。

「なんだこいつは?」

 距離をとり相手を観察するオーネスト。相手の魔物は鉄のように硬い触手の腕を鞭のようにしならせ攻撃してくる。一見するとイソギンチャクのようだが、蜘蛛のような足が生えている。この世界においての魔物は普通の生物が魔素に犯され変異した存在だ。それゆえ魔物となっても元々の生物の特徴は7割以上残している。しかし目の前の魔物は元の生物がなんであったのかまるで検討がつかない。まるで複数の生物を混ぜたかのように見える。

「どうであれ倒すことに変わりはないけどね」

 オーネストは自分の魔力を使い持っている剣に微細な振動を与える。再び伸びてきた硬い触手を切りつけた。先ほどは弾かれたが振動を与えることで切れ味が増した剣はその触手を切り落とした。しかしすぐ再生を始める。

「“ブレイズ”!」

 すかさず後衛のエレビアが魔法で援護し再生を妨害する。魔物は危険を察知し蜘蛛のような足をわしゃわしゃ動かしオーネストとの距離をつめてくる。魔物がオーネストに近づきすぎたためエレビアたちは魔法攻撃を中止せざるをえず触手の再生が再び始まる。しかしオーネストはすでに魔物のすぐ近くに来ており触手攻撃の有効範囲から外れ自分の間合いに入っていた。

「“超音速斬(ソニック・ブレイド)”」

 音速で切り下ろされた剣先から風の魔力をまとった斬撃が相手の魔物の体を真っ二つに切り裂いた。切り裂かれた魔物の体は溶けるように崩れ落ち消えていった。

 副団長のブライアンも奇妙な魔物と戦っていた。一見すると「巨大な虫」なのだが、ゴリラのような体にチーターのような足が6本生えていてそれらの膝と足の付け根の間に目が二つずつついている。手があると思われる位置には貝殻のような殻が左右一つずつついている。頭は立派な角が生えた牛である。

「なんだか色々混ざったような見た目だな」

 魔物がチーターばりの速度で突っ込んでくる。

「ブライアンさん!」

 近くにいるヴォルフが助太刀しようとする。

「ヴォルフ、自分の敵に集中しろ」

 ヴォルフの助太刀を断り魔物の攻撃を真正面から受け止めた。

「ブライアンさん!!」

 魔物の角がブライアンの脇腹に届いたように見えて焦るヴォルフだったが、よく見ると魔物の角はブライアンの体には当たっているものの肌を貫通するには至っていなかった。それを確認しヴォルフはほっと胸を撫で下ろした。

「ブライアンさんせめて避けてくれよ…」

「この姿の時は頭より本能(からだ)が先に動くんだ仕方ないだろう」

 ブライアンにはオーガの血が入っておりその力を使うことができる。そして今ブライアンはその力を7割ほど解放し戦っている。体は普段の三倍くらい巨大化し肌の色は灰色に変わり、おでこには小さいが二本の角が生えている。体も硬くなりパワーは何十倍にも膨れ上がっている。

「むううぅぅぅ!!」

 唸り声とともに魔物が徐々に後ろに押され始める。隙ができたブライアンを他の魔物が襲おうとするが雑魚はヴォルフとレオンが排除する。奇妙な魔物は身の危険を感じ足の爪でブライアンを攻撃しようとするが、当たる寸前でブライアン

は身をかわした。当然攻撃は外れ、バランスを失った奇妙な魔物はその場に倒れた。今が好機とブライアンが拳を振り上げる。相手の魔物は手のように生えている二枚の貝殻のようなもので体を隠す。この貝殻はダイヤモンドよりも固く、さらに表面には目に見えないくらいの小さく鋭利なトゲがびっしりと生えている。この殻を攻撃すれば拳は砕け皮膚はズタズタになる…はずだった。

「ごおおおおおお!」

 攻撃の瞬間ブライアンは100%の力を解放した。オーガの力をすべて引き出した一撃は魔物の殻のトゲをもろともせず、ダイヤモンドよりも固い殻をビスケットでも割るかのようにあっさりと叩き潰し、魔物の本体にまで届いた攻撃は魔物の体を叩き潰した。

「ふううぅぅぅ…」

 久々に全力を出したブライアンは疲れもあり少し変身を解いた。少し油断もあったが不意の攻撃には対応した。ブライアンめがけて弓矢が飛んできたのを掴んだのだ。

「ブライアンさん!」

「道具を使ってきたということはホブゴブリンか?いや、ホブゴブリンにしてはタイミングがよすぎるな」

 弓矢を握りつぶし飛んできた方向を見ると弓を持った見覚えのある影が移動するのを見た。

「アークゴブリンか」

 戦いの中でアーミーゴブリンやホブゴブリンを何匹か倒したがアークゴブリンの姿はなかなか見当たらなかった。

「この攻撃のタイミングからしてわしが疲労を狙っていたか」

 一方オーネストの前にも何人かアークゴブリンが姿を現していた。こん棒を持っていたのでうまくかわしながら風の魔法で捕縛する。捕縛したアークゴブリンは忍部隊に運ばせた。

「現在確認できているアークゴブリンは30人です」

「アリベルトさんは?」

「それが全く見当たりません」

「そうか…できれば優先的に救出したい、見つけ次第報告せよ。あと、リリコットに村人の出きるだけ正確な人数を聞いてきて」

「御意!」

 影無は一瞬でその場を後にした。




 第3騎士団の様子をフードの男は離れた場所で観察していた。

「くそ、ここまで力を持っているのか…」

 圧倒的な戦力に加えてエルフの村ウィズダムの時の“落ち果て”よりも強い魔物を用意したのに第3騎士団は少数でありながらその数の差をもろともしていない。

「個々の能力が高いのか?チームワークの問題か?なんにせよ今までの作戦がうまくいかなかったのが頷けるな」

 フードの奥で歯軋りする男、しかしすぐにその表情は笑みに変わった。

「まぁ勝ち負けはもうどうでもいいか、()()()に対してどう対応するのか見ておこうか」

 



 オーネストたちの頑張りもあり魔物の群れは八割ほどが倒されアークゴブリンたちも次々救出していた。そして戦いの場にリリコットも加わっていた。出発前の傷もあるのでじっとしていてほしかったが、ゴブリンの村の住民のうちアリベルトだけが何故か見つかっていなかった。それを聞きどうしてもと参加した。

「どこにいらっしゃるのですか!」

 残りの魔物を倒しながらアリベルトを探すが思いのほか進めない。残った魔物は個体の強さが高くしかも妙に統率が取れた動きをしていた。はじめはそれぞれが本能のままに戦っていた感じだったが、今は三匹以上で小隊を組みチームで戦っている。オーネストたちも何人かと合流し対応していた。オーネストと合流したヴィオラとリーヴァはリリコットをフォローしながら動いていた。そんな三人の前に一際巨大で歪な形の魔物が現れた。

「またこの魔物ですの!?」

「リリコット、こいつは危険だから下がって」

 リーヴァが前に出る。ヴィオラはリリコットを庇いながら後ろに下がっていく。

「…」

 目の前の奇妙な魔物は今まで見た中でも飛び抜けて奇妙な姿をしていた。形は人型で体長は目測で約三メートル。顔は何かと混ざっているみたいに歪んでおり原型はわからない。筋骨隆々なのだが右腕か異常にでかい割に左腕は小さく、両足は異常に太い。その魔物の後ろには生き残っているアーミーゴブリンとホブゴブリンが付き従っている。

「…」

 後ろのゴブリンたちは今にも襲いかかってきそうになっているが眼前の魔物は動かない。

「なぜ動かないんだ?」

 リーヴァは警戒しつつ相手の動きを待つ。ヴィオラは強化魔法をリーヴァに可能な限りかける。それでも動かない魔物、それどころか先走って動こうとしたアーミーゴブリンを叩き潰した。

「な!?本当に何なんだこいつは?」

「…」

 ヴィオラの後ろでリリコットは沈黙を続ける魔物の顔と思われる場所をじっとみていた。

(何だろう…変な感覚…)

 目の前の魔物に対して既視感のようなものを感じていた。

(見たこともないはずなのになんで?)

 リリコットが考えを巡らせている最中、魔物が右手を上げた。

「くるか!?」

 リーヴァとヴィオラは身構えたが魔物のとった行動は奇妙なものだった。上げた右手を左右に揺らしだした。何が起こるわけでもなくただただ左右に、リーヴァもヴィオラも意味がわからずただ見ていたが、リリコットの頭にはある光景が浮かんだ。

「アリベルト…様?」

 誰にも聞こえないような小さく震える声で呟いた。その瞬間目の前の魔物が少し反応したように見えた。

 



 少し離れた場所でその魔物を観察していたフードの男は苛立ちの声をあげた。

「チッ、何やってるんだアイツは?」

 おもむろに右手をあげ魔力を込める。

「ちゃんと俺に従え」




 「ぐ!?ぐおおぉぉぉ!!?」

 リリコットたちの目の前の魔物が急に唸りだした。そしていきなり攻撃してきた。

「させない!」

 リーヴァが相手の腕の下に潜り込み切り上げた。

「ぐっがっ!」

「今ですわ!弾けろ炎!“ブレイム”!」

 隙をつき放たれた炎は魔物の腕を焼く。

「ぎゃがあああぁぁ!!」

 獣そのものの声をあげ苦しむ魔物、リーヴァとヴィオラは次々に攻撃を重ねていく。

「あ…あぁ…」 

 リリコットは先程までとは違う恐怖で混乱していた。

(まさか、そんなはずない、あれが、あの魔物が、そんなはずない!)

 必死に自分を納得させようとするが、決定的な物を目にしてしまった。

(あれは…)

 魔物の胸の辺りに赤い石がはめ込まれたペンダントのようなものが肉に埋まるようについていた。それはアークゴブリンの村を作った時に村長就任の記念としてリリコットが送った物だった。河原で拾った綺麗な石をはめ込んだだけの簡単な物だったがアリベルトは嬉しそうに身に付けてくれた。

(あ、あぁ…!)

 リリコットの中で“最悪”が“現実”となった。魔物が身に付けていたのは紛れもなくそのペンダントだった。つまり今目の前で異形の魔物となりリーヴァとヴィオラを襲っているのは…

「アリベルト様…なんですか…?」

「ごあああぁぉぁ!」

 目の前の魔物は暴れるだけで答えない。そしてさらに後ろに控えていたゴブリンたちや残りの魔物が行動を始めた。ヴィオラが攻撃を範囲魔法に切り替える。リーヴァは眼前の魔物に集中している。リリコットはどうしたらいいのかわからずその場で震えていた。

(あれは多分アリベルト様…でも、仮にそうならどうすればいいの?)

 答えが見えず迷っているとリーヴァと戦闘中の魔物が体制を崩し隙が生まれた。そこをリーヴァが切りつけようとする。

「ダメ!」

 咄嗟に体が動いた。だがタイミングが悪く目の前に武器を構えたホブゴブリン。いつもなら遅れはとらないが疲労している上に混乱した頭では判断が鈍くなる。

「リリコット!!」

 ヴィオラも範囲魔法では巻き込んでしまうため魔法は使えない。リーヴァはまだ気づいていない。ホブゴプリンが手に持ったこん棒をリリコットに振り下ろそうとした時、リーヴァと戦っていた魔物が突然走り出した。

「なに!?」

 攻撃を身に受けながらリーヴァの脇を通り抜けリリコットの元に向かう。そしてホブゴプリンを叩き潰した。

「あっ…」

 一瞬目が合ったリリコットはその目に感じたことのある暖かみを感じた。それゆえ確信してしまう。

「アリベルト様…!」

「ぐぅ…ああぁ!!」

 しかし頭を抱えて苦しみ出し意識が呑まれたアリベルトは暴走を始めた。

「リリコット!」

 リーヴァが間に入りアリベルトの攻撃を剣で受けたが衝撃でリリコットもろとも吹き飛ぶ。二人とも受け身をとったが着地の瞬間を狙われた。防御姿勢もとることができずダメージを覚悟した二人の前にオーネストが割り込んできた。

「させない」

 魔装を変化させ右手を巨大化させるとアリベルトの攻撃を受け止めた。そしてとどめをさそうと左手の剣を構えるとその手にリリコットがしがみつく。

「やめてください!」

「な!?リリコット!?」

 いきなり飛びつかれて驚いたオーネストは思わず右手を放してしまう。

「しまった!!風の壁よ!」

 すぐに魔装の一部を切り離し魔法の壁を作る。アリベルトの攻撃は風の壁に阻まれ跳ね返る。その間にリーヴァとリリコットをヴィオラの所まで連れていく。リリコットの行動を不信に感じオーネストはリリコットに問いかけた。

「なんで止めたんだい?」

「あれはアリベルト様なんです!」

「何を言ってるんですのリリコット!?」

 リーヴァとヴィオラは驚くがオーネストは冷静だった。

「確かかい?」

「さっきも私を助けてくれました。どうしてこうなったのかわかりませんがあれは絶対アリベルト様です!」

「なるほど」

「団長、さすがに信憑性が低いのでは…」

 リーヴァが“信じられない”というより“信じたくない”といった様子でオーネストに言う。しかしオーネストは逆に何かが確信に変わったようだ。

「…あの魔物と同じような奇妙な魔物を何体か倒したんだが、その中にとんでもないものが混じってたんだ」

「とんでもないもの?」

「何体かの魔物の体内から()()()()()()()()()()()()

「どういうことですか!?」

 リリコットがヴィオラに押さえられながら叫ぶ。

「恐らくあの魔物は人工的に作られた“合成獣(キメラ)”、その核に使われたんだろう」

「そんな…」

「たがまだ諦めることはない」

「え?」

「今まで出てきたアークゴブリンは全員生きていた。合成獣(キメラ)を動かすには生きている必要があるんだろう」

「つまり今あの魔物が動いているということは…」

「状態はどうかわからないけどアリベルト殿は生きている」

 確信をもって言い放つオーネスト。その姿にリリコットは希望を見た。

「お願いしますオーネスト団長、アリベルト様を助けてください!!」

「そのつもりだ!」

 魔装を強化変形させ、さらに自我を失いつつあるアリベルトを元に戻すために行動を開始した。


 

 

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