アークゴブリン
少し長くなりました
とりあえず村長であるアリベルトの家に入った。全員にお茶が出されたがヴィオラとリーヴァは遠慮した。一段落ついたところでアリベルトが自分たちアークゴブリンについて話し始めた。
アークゴブリンはアーミーゴブリンから突然変異として生まれてくる。生まれた時の見た目は他のゴブリンと変わらないが成長するにつれて他のゴブリンと異なった成長をする。突然変異とはいえ生まれる確率は結構高く百匹に一匹くらいの割合で誕生する。しかし生まれたアークゴブリンが大人まで成長することはあまりない。なぜならアークゴブリンとして生まれたゴブリンは“理性”が存在しているからだ。他のアーミーゴブリンたちが殺す人々の叫び声や殺される瞬間を見続けるうちに精神が崩壊したり、まるで人間のように成長するので他のゴブリンに食料として殺されたりするからだ。
「私をはじめここにいるアークゴブリンたちは殺される前に群れから抜け出した者や我々が群れから連れ出した者たちばかりです。そうでもしないと確実に殺されてしまいますから」
アリベルトたちは同じ境遇のゴブリンを多くの群れから救いだし仲間を増やしながら自分たちの正体を隠し自分たちの立場を少しでも向上させるために仕事をした。その中でも特にゴブリン討伐に関する仕事を行った。自分たちは同族とは違うということを強く示したいという意図があったからだ。
「実際はうまくいきませんでした。戦闘に関しては普通のゴブリン以上に戦えるので問題はなかったのですが、我々がゴブリンだとバレるとやはり拒絶されました」
寂しそうに俯くアリベルト。その場にいた他のアークゴブリンたちも同じ表情になる。よほど辛いこともあったのかうっすら涙を浮かべる者もいた。ヴィオラとリーヴァもさすがに気の毒に思ったがまだ一つハッキリさせたいことが残っていた。
「あなた方の事は少し理解しました。それではその子は何ですの?」
ヴィオラがリリコットを指差した。
「今の話の中にその子の事はでてきませんでした」
「…」
「なぜ黙っているのです?まさか自分たちの自尊心を癒す目的でどこかからさらってきたのでは…」
「いい加減にしなさい!!」
「!!」
今までずっと部屋の隅でじっとしていたリリコットが大声をあげて割り込んできた。
「今の話を聞いて!まだあなたは!アリベルト様たちの事をそんな風に!!!」
「やめなさいリリコット!」
近くにいたアークゴブリンの女性二人に止められながらも怒りに満ちた眼差しをヴィオラに向ける。ヴィオラは怯みはしたが譲らなかった。
「あ、あなたもこの人…いえ、ゴブリンたちに洗脳されているのではなくて?」
「お前ぇ!!」
「やめなさい!!リリコット!!」
先程から静かな物腰だったアリベルトがとんでもない大声を出したのでその場がピタリと静かになった。それでもリリコットの怒りは収まらない。
「アリベルト様!なぜ何も言い返さないのですか!?私の事についての本当の事を!!」
「なんの話ですか?」
オーネストがアリベルトに問う。
「僕にはあの子が洗脳されているようには見えません」
「団長!?」
「ヴィオラもわかってるんだろう?洗脳された相手がどういう状態になるのか、洗脳するのにかなりの技術と手間が必要な事とか」
「それは、そうですが…」
「それに洗脳されている人間はあそこまで感情を表に出せないだろう?」
「…申し訳ありませんでした」
「部下の失言をお許しくださいアリベルトさん。ですがその子の話はできればお聞きしたいです」
「…」
アリベルトはリリコットを見た。リリコットはまだ顔を赤くさせて怒っている。そんなリリコットにアリベルトは問いかけた。
「話してもいいのですか?」
「もう気にしなくてもいいっていつも言っているでしょう!?昔の事をなんで私以上に気になさっているんですか!!」
「わかりました。あの子が何故ここにいるのかお話いたします」
時は7年ほど遡る。アリベルトたちがまだエミューリアと出会う前、アリベルトたちはいつものように仕事を終え帰ろうとしていると仲間のアークゴブリンが血相を変えてアリベルトにつげる。
「ここから数キロ先の村がゴブリンに襲われています!」
「本当ですか!?今すぐ向かいます!」
アリベルトたちはすぐに村に向かった。着いた頃には村中が炎に包まれていた。その中でアーミーゴブリンたちの虐殺と強奪が行われていた。先に戦っていたアークゴブリンが報告する。
「すでに何人か連れ去られてしまいました!」
「今は残っている村人をできる限り助けます!」
そうして村に残っているアーミーゴブリンを掃討する中で救えたのは一人の少女だった。その少女がリリコットである。
「この子どうしましょうか?」
「我々と一緒にいるのはダメでしょう、町の孤児院に連れていきましょう…ん?」
アリベルトの鎧を少女が叩く。
「どうしました?」
「私もあなたたちと一緒に連れていって」
「え?ですが…」
「お願いします」
「…私たちの正体をお見せします」
アリベルトたちは被っていた鎧を外した。鎧の中から出てきた姿にも少女は眉一つ動かさなかった。その上で同じ言葉を繰り返す。
「一緒に連れていって」
「私たちはゴブリンなんですよ?あなたの村をこんな風にしたゴブリンと同族なんです」
普段は同族と認めるのは心底不快なのだが、目の前の人間の少女の未来を考えあえてそれを認めた。しかし少女から返ってきた言葉は予想外のものだった。
「でもあなたたちは私を守ってくれました。あのゴブリンとは違います」
「ですが、あなたは人間で…」
「…同じ種族だからといって絶対信用できるとは限りません」
「!!」
今回のゴブリン事件には続きがある。アリペルトたちは今回の襲撃はホブゴブリンがアーミーゴブリンを使って行ったものだと思っていた。しかし村人をさらったゴブリンを追いかけた先にいたのは一人の人間だった。その人間は村長の息子で村を襲わせて村の実権を握ろうとしていたようだった。しかし最後にはアーミーゴブリンたちにさらわせた村人と共に殺されてしまった。その事を少女には話していなかったが少女は知っていたようだった。
「何を考えているのかわからない同族といるより私はあなたたちと一緒がいいです」
こうして人間の少女リリコットはアリベルトたちと一緒にいることになったのだった。その後エミューリアとも出会い名前と住みかをもらい今にいたる。
「…」
話が終わると部屋の中は静まり返った。リリコットは自分を抑える手を振りほどいてヴィオラの近くに立った。
「これでわかりましたか?“人”を種族で判断しないでください」
「………」
ヴィオラもリーヴァも返す言葉がなかった。部屋に漂う重苦しい空気、それを振り払うかのようにエミューリアが明るく声をあげる。
「さて!喧嘩はここまでにしましょう!ヴィオラさんにリーヴァさん、見たこともない存在に対して警戒心を抱くのは仕方のないことです。でもそれだけで全てを判断してはいけないわ、その点に関してはちゃんと理解してくれたわよね?」
ヴィオラとリーヴァは互いに気まずそうに顔を見合わせリリコットとアリベルトに頭を下げる。
「失礼な発言をしてしまいました。申し訳ありません」
「頭を上げてください!慣れていますから…」
「アリベルト様!この二人が悪いんで…」
「リリコット」
アリベルトが優しく語りかける。
「私たちのために怒ってくれるのは嬉しいです。しかし始めから喧嘩腰で噛みついては相手もこちらを拒絶してしまいます」
「…ごめんなさい」
「その怒りがあなたの優しさであることは理解しています。ですが、もう少し余裕を持てるようにしましょう」
「はい、わかりました」
「お二人も申し訳ありませんでした」
「いえそのっ」
「こちらこそ」
なんだかんだで場が落ち着いたので、アリベルトと少し会談した後団員全員で村の中を自由に歩き回った。村のアークゴブリンたちはとても穏和で本当にゴブリンなのか?と思うくらいである。そしてすごいのはエミューリアがそんなアークゴブリンたちにもかなり慕われているということだ。
「すごいね」
いつものように皆と少し離れてエミューリアと二人で話すオーネスト。
「別にすごくはないと思うわ、私は普通に接しているだけだし」
「それがなかなかできないことなんだよ」
「そう?でもあなたに誉めてもらえるととても嬉しいわ」
太陽のように輝く笑顔を見せてくれるエミューリアに顔を綻ばせていると唐突にエミューリアが名前を呼ばれた。
「エミューリア様?わぁ、お久しぶりです!」
声がした方を見てみるとアークゴブリンではない三人組がこちらに近づいてくる。オーネストが剣の柄に手をかけようとするのをエミューリアが止める。
「大丈夫、この三人が私が言った信頼してる傭兵よ」
近づいてきた三人はエルフの女性が一人と獣々人の男性が二人だった。三人はエミューリアとオーネストに挨拶をした。
「そちらの方は初めましてですよね私はエルフのルッカです」
「俺はライズだ」
「俺はレフ、よろしくな」
「よろしく」
「なんでここにいるの?」
「初めてエミューリア様とここに来て以来定期的に食料なんかを運んでいるんですよ」
「何回か会ってるのに知らなかったわ」
少ししゃべった後三人はアリベルトの元へ向かった。細かい話し合いも終わり王都に帰る時がきた。改めてアリベルトに挨拶をしている時、ヴィオラとリーヴァがリリコットに声をかけた。
「なんですか?」
まだ少し機嫌が悪い。そんなリリコットに対してヴィオラとリーヴァは頭を下げた。
「先程の失礼な言動の数々改めて謝罪いたしますわ」
「え?」
「私も、少し言い過ぎたよごめんなさい」
自分よりも年上の二人に謝罪され困惑するリリコット。とりあえず二人に頭をあげてもらい真っ直ぐ二人と向き合った。
「その、もういいです。アリベルト様の事をわかっていただけたのなら。それにその…私も少し大人気なかったかもしれないです。だからお互い様です」
「ありがとうですわ。それでは」
手を差し出すヴィオラ。リリコットはその意味がわからず手とヴィオラを何度も見比べる。その様子に意味が通じていないと察しリーヴァが説明する。
「握手だよ、“仲直り”と“友好”のしるし」
「…わかりました」
ゆっくりとヴィオラの手を握り返し次にリーヴァの手も握る。その様子を見たアリベルトとエミューリアは顔を綻ばせた。
「あんな風に皆さんと仲良くなれる日が来るといいのですが」
「きっとそうなる…いいえ、私がそうしてみせるわ」
固い決意を胸に刻みアリベルトと固い握手を結んだ。そしてオーネストたちはゴブリンの村を後にした。リリコットは握手した手を大事そうに撫でている。それに気づいたアリベルトば嬉しそうにリリコットの頭を撫でた。
オーネストたちが出発してから約半日後、その男は突然現れた。
「この害獣どもが…」
エミューリアと一部の人間しか出入りできないこの場所にフードを深く被った男が現れた。村のアークゴブリンたちがその男に気付きざわめき始める。その様子にフードの男はさらに苛立つ。
「ぶつぶつうるせぇぞ害獣どもぉ!」
フードの男が手を振ると荒々しい風が吹き抜け何人かのアークゴブリンが吹き飛ばされる。その行為に衛兵のアークゴブリンが何人か男を囲む。そのうちの一人がフードの男の肩に触れようと手を伸ばした。
「触るな害獣がぁ!!」
「なっ!?ぐはっ!!」
フードの男が素手で触ろうとしてきたアークゴブリンを殴り飛ばす。思いもよらぬパワーを目の当たりにしアークゴブリンたちの警戒が強まる。他の衛兵のアークゴブリンたちも少し距離をとり武器を構える。
「やんのか?害獣どもぉ…」
「やめなさい!」
フードの男が危なく目を光らせた時それを阻止するようにアリベルトが割り込んでくる。
「何事ですか」
「…お前が頭か?」
「そうです」
アリベルトがフードの男と真正面から向かい合う。先に口火を切ったのはフードの男だった。
「おいくそ害獣、調子に乗ってんじゃねぇぞ?」
「なんのことですか?」
「害獣が勘違いしてんじゃねぇぞ!俺ですらまともに話したことがないのになんでてめぇら害獣の方は一緒にしゃべったり手を繋いだりしてやがんだ!」
フードの男の怒りはとても強い。だがアリベルトたちはなんのことか本当にわからない。しかしフードの男の怒りはどんどん膨らんでいく。
「害獣の分際で人間様と同じ水準で生きられると思ってんのか?てめぇらは所詮ゴミなんだよぉ!」
「な、なんだと?」
あまりに横暴に一方的に言われ続けたアークゴブリンたちも耐えかねてフードの男に野次を飛ばしはじめた。だがその野次を越える大声でフードの男の怒りは最高点に達する。
「俺に意見すんじゃねぇ!!ここにいる奴ら全員皆殺しだあ!!」
フードの男が叫ぶと同時に先程フードの男が殴り倒したアークゴブリンがゆっくりと立ち上がった。
「おお!大丈夫か!?」
立ち上がった仲間に肩を貸そうと近づいた仲間に対してそのアークゴブリンは手に持った棍棒で躊躇なく殴りつけた。
「があぁっ!?」
殴られたアークゴブリンは牙を何本か折られてしまう。周りのアークゴブリンたちは目を丸くした。アリベルトが叫ぶ。
「なにをしているのですか!?」
「…」
仲間を殴ったアークゴブリンは何も答えず次の獲物を攻撃し始める。その目は虚ろに怪しく輝いている。
「なにをしたのですか!!」
「お前らがただの害獣だって証明しただけだよ」
先ほど殴られて血を流しているアークゴブリンに触れるフードの男、すると倒れたアークゴブリンが起き上がり攻撃を始めた。アリベルトはすぐに指示を出す。
「あの二人を止めてください!その男からも離れて…ん!?」
少し目を離した一瞬のうちにフードの男が消えていた。
「どこにいった!」
「…ここだよ」
気づいた時には別のアークゴブリンに触っていて間もなくそのアークゴブリンも暴走を始める。村の中は地獄絵図と化した。おかしくなったアークゴブリンが仲間や家族を殺し、またそのアークゴブリンを仲間が殺す。アリベルトを中心になんとか止めようとするが全く収まらない。
「こんなことをしてなんになるんですか!!私たちが何をしたと言うのですか!!」
「あぁ?同族の殺し合いなんざお前らの日常だろうが?」
ニヤニヤ笑いながら目の前で起こる惨劇を眺めていたフードの男が不意に指を鳴らした。その途端今まで暴走していたアークゴブリンたちが動きを止めた。
「やはりあの男に操られているのか?」
この時点で村の約四割のアークゴブリンが犠牲になっていた。フードの男はしばらく考えたあとさらに醜悪に顔を歪める。
「そうだぁ、もっといい手があったなぁ」
フードの男が再び指を鳴らすとアークゴブリンたちが動きだしまだ息があるアークゴブリンを引きずりフードの男の前に連れていく。
「ククク…皆殺しにしようと思ったがもっといいことを思いついたぜ、俺の魔法でお前らを操って王都を襲わせる。これでお前らとあの人との関係はぐちゃぐちゃになっちまうよなぁ!?」
フードの男は嫌がるアークゴブリンたちに触れる。するとアークゴブリンたちが傷を軋ませながら動き出し、そしてさらに他のアークゴブリンたちを捕まえさらに増やしていく。
「やめろ…!」
アリベルトが止めに行こうとしたがすでに操られたアークゴブリンに押さえつけられる。
「ぐうぅ…」
「はっ、無様だな?そんなお前に俺のこの魔法について教えてやるよ」
フードの男がしゃがみアリベルトにぐっと顔を近づける。
「俺のこの魔法はな?俺と同族、または近い種族には効かないんだよ。人間はもちろん人間の血が半分入ったやつら、エルフやドワーフも無理な時がある。だけどな?人間と同等だっつぅお前らは簡単に魔法が効いた。つまりな」
最高に顔を歪ませアリベルトの頭を地面に擦り付ける。
「お前らはやっぱり『害獣』なんだよ!がはははははは!!」
「かむっ、ぐぐ」
抵抗しようとするが人間とは思えない力で押さえつけられる。
「…さて、お前も俺の手駒になってもらうか」
フードの男がアリベルトに魔法を使おうとして集中していたのでアークゴブリンの間をぬって近づいてきた影に気づかなかった。
「アリベルト様!」
懐に隠していたナイフをフードの男に突き立てようとするが見えない壁に阻まれる。
「なんですかこれは!?」
「近づけば殺せると思ったか?」
フードの男が風でリリコットを凪払う。
「ん?お前人間か?」
「だったら何ですか?」
「害獣どもに拉致されたか?妙に従順だな、散々犯されて支配されたのか?」
「…!!」
明らかな侮辱に怒りが沸き上がるが今は堪える。目的のために。
「下品な方ですね、育ちの悪さが垣間見えます」
「挑発か?乗るわけないだろう」
「わかっていますよ。もう大丈夫ですから」
「なに強がってる…ん?あいつはどこいった?」
アリベルトが消えている。見渡すとルッカたち傭兵三人が引きずっているのを見つける。
「あいつらか!」
「行かせません!」
リリコットが前に立ちはだかり壁となる。操られたアークゴブリンたちが攻撃してくるが、村のアークゴブリンたちと長く一緒にいたので一人一人のクセは認識している。うまくかわしながらフードの男を足止めする。
「小賢しいガキがぁ」
アリベルトはルッカの治癒魔法で体力を回復していた。
「ありがとうございます」
「いいえ、それよりどうするんですか?」
「…」
アリベルトは戦うリリコットを見る。今は何とかなっているが物量で押されはじめている。このままではすぐにあのフードの男の思惑通りになってしまう。決断は早い方がいい。
「お三方、お願いがあります」
リリコットは完全に攻撃ができなくなっていた。
「汚いですよ!」
「はぁ?お前が勝手に攻撃を止めたんだろうが」
ニヤニヤ笑いながら男は腕を組んで仁王立ちしている。攻撃するアークゴブリンに子供のアークゴブリンを加えていた。大人のアークゴブリンに対しては反撃してもダメージを調整できるが子供に対しては難しい。一歩間違えば殺してしまうかもしれない。
「くっ、この」
何とかしようと考えていると急に襟首を掴まれた。
「しまった…え?」
掴んだのはアリベルトだった。そのまま後方へリリコットを投げ飛ばす。
「アリベルト様!?」
アリベルトは操られたアークゴブリンたちの攻撃をその身に受けながらリリコットに叫ぶ。
「逃げなさいリリコット!」
「!!」
飛ばされたリリコットを傭兵三人が受け止める。
「何を言っているのですかアリベルト様!」
「言葉の通りです!このままではこの村は掌握されエミューリア様のいる王都も危なくなってしまいます!その前にこの事をエミューリア様にお伝えするのです!」
「アリベルト様はどうするのですか!?」
「…余計な事は考えないでください」
「まさかここで果てるおつもりなんですか!?なら私も…!」
「リリコット!!」
空気が震える程の大声にリリコットは動きを止める。アリベルトは優しく静かな声でリリコットに語りかける。
「あなたしかいないんです…」
「アリベルト様…」
歯を食いしばり強く拳を握りしめ自分の中に感情を押し込み、リリコットは決意した。
「行きましょう!」
アリベルトから顔を反らしリリコットは傭兵を引き連れ村の出口に向かった。
「逃がすわけねぇだろうが」
フードの男が指を鳴らすとアークゴブリンの何体かが追跡しようと動き始めた。しかし、アリベルトが立ちふさがり咆哮する。
「止まりなさいあなたたち!!」
「!!!」
アリベルトの強い想いを乗せた咆哮に操られ意識がないはずのアークゴブリンたちが動きを止めた。
「ん?なにやってる?早く追いかけろ!」
しかし誰も動かないその間にリリコットたちは村の外に脱出した。それを確認したアリベルトがニヤリと笑う。
「まんまと逃げられましたね、どんな気分ですか?」
「…」
フードの男は殺意丸出しの視線をアリベルトに向けると姿を消す。
「どこにいった…がぁ!?」
フードの男はアリベルトの後頭部を掴みそのまま顔面を地面に叩きつけた。
「調子に乗るなよ害獣がぁ、それに俺がこんな所にたった一人で来ると思うのか?」
「どういうことですか…?」
「今頃外では俺のペットがご飯の時間だろうな」
「まさか…」
アリベルトの顔が青ざめる。
「そんなことよりお前も俺の手駒になってもらうぜ?」
フードの男が魔力を手に込めるとアリベルトの中に流し込んだ。
「がぁぁあ、あああぁぁぁ!」
徐々に意識が消えていく。消え行く意識の中でアリベルトはリリコットの顔を思い浮かべた。
(どうか無事で…)
この言葉を最後にアリベルトの意識は完全に途絶えた。




