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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第一章
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報告会議

 護衛任務から王都に帰ってすぐにオーネストは数人の部下を集め第3騎士団の専用寮にある会議室に入った。メンバーは団長のオーネスト、副団長のブライアン、参謀のエレビア、獣人部隊隊長で今回の同行者のヴォルフ、同じく同行者で忍部隊の朧月、獣人部隊のもう一人の隊長レオン、忍部隊隊長の影無の7人で緊急会議が行われた。

「まずは今回の護衛任務、王都に到着するのが二日間遅れたことについてです」

 エレビアの言うようにオーネストの到着は予定日より二日遅れていた。

「遅れた理由は向かった先で事件に遭遇してしまったからです」

「事件?」

「はい、目的地の村を囲む森の中にいる“落ち果て”と呼ばれている特殊な魔物に襲われました」

 そこからエルフの森であったことを細部まで漏らさずしっかりと説明した。所々でオーネスト、ヴォルフ、朧月がそれぞれの情報を補足していく。報告の最後にオーネストが一つ付け加える。

「これは誰にも言ってなかったんだが、あの戦いは見られていたかもしれない」

「はぁ!?」

「え?」

 全く聞いていなかったヴォルフとエレビアはオーネストを見る。朧月も目を見開いて驚いた。オーネストは今にも噛みついてきそうなヴォルフを宥め話を続ける。

「僕も帰る日の前日にアルクィナ様に聞いて初めて知ったんだ。姿まではわからなかったんだけど確かにいたらしい」

 オーネストの情報にブライアンが反応する。

「“魔物の暴走”…“不審な人物”…」

「どうかした?ブライアン」

「いえ、少し気になることがありまして」

「なんだい?」

「この話はわしらの報告とも少し関係しているのでそこから話してよいですか?」

「うん、僕らの報告はこれで終わりだから」

「では次はわしらの報告です」

「準備します」

 レオンは会議室の前方にある白色の幕を下ろしその前に水色に輝く立方体の石を置いた。

「それではオーネスト団長より頼まれていた件についての報告を行います」

 レオンは手に持っている資料を一枚さっきの石の下に置いた。するとその紙に書いてある内容が先程下ろした白い幕に映し出される。映し出されたのは王都を中心にした地図だった。レオンがカメレオンの目玉をぐるりと回して報告を始める。

「オーネスト団長が今回の任務に向かわれる際ワタシとブライアンさんに調べておくように指示された“ここ数年間の国内の犯罪の分布”についてです。こちらをご覧ください」

 レオンが石を指で叩くと地図上に赤い点がいくつも表示された。その赤い点は王都の周りにびっしり集中していた。それを見てオーネストは予想通りというように頷いた。

「オーネスト団長は予想されていたようですね、ご覧の通り過去5年間で国内の犯罪が異常なまでに王都に集中しています」

 レオンの発言にヴォルフが割って入る。

「確かに多いけどよ、別に異常って言うほどおかしいことか?」

「ならこれを見てくれ」

 レオンが石をつつくと赤い点の分布が変わった。王都の周りにも赤い点はあるが、それよりも王国内の別の街に多く赤い点が集まっていた。

「これは6年前の犯罪の分布です。王都ではなく商人の街『ストア』が多くの被害にあっています」

 ストアは商人が中心となって創られた街でアルバソル王国中の商人がそこを拠点として利用している。それゆえ王都と同じくらいかそれ以上にお金が集まっているが、王都に比べると防衛面で劣っているので盗賊などにとっては狙いやすい街になっている。

「では同時に5年前の犯罪の分布を見てください」

 6年前の犯罪の分布図の隣に5年前の分布図が表示される。

「なるほど…これは異常だな」

 6年前の分布図ではストアに多くの赤い点があるにも関わらず5年前の分布図ではストアの周りの点が0になり王国内の犯罪分布の点の約9割が王都の周りに集中していた。そしてさらに妙な部分があった。

「その赤い点…北東に多く集中してないか?」

 オーネストの指摘通り赤い点が不自然に集中していた。その反応を予想していたレオンはその疑問に答える。

「その通りです。では過去5年間の犯罪分布図を各年毎に見てください」

 今度は5枚の分布図が表示された。

「4年前は北、3年前は北西、2年前は南西、1年前は南東に集中しているな」

「はい、これらのことから5年前がターニングポイントと考え5年前に起こった出来事をいくつか挙げさらに調べた所、一つの答えが見えてきました」

 レオンが石を叩くとある国の国旗が表示される。その国旗には見覚えがある。

「『ディニラビア帝国』か」

 ディニラビア帝国は物凄い勢いで勢力を拡大している国で力がすべての国だ。この国を治める皇帝は“暴帝”の異名を持つほど荒々しく狂暴な人物だ。噂によると元々は孤児で10才の頃に当時の皇帝を一族もろとも皆殺しにし今の地位についたという。

「ディニラビア帝国が他国の侵略行為を活発にし始めたのが5年前でした。5年前には『メルキュール公国』、4年前には『ジュピテル・ウラーノ』、3年前は『サチュヌル皇国』、2年前は『ネプトン王国』、1年前は『ヴェニュス王国』が侵略されています。そして侵略された年と侵略された国の方角を先程の犯罪分布図と比較してみると」

「侵略された国のある方角とその年の犯罪分布図の赤い点が集中している方角がピッタリ合うな」

「では帝国の侵略行為であると?」

 エレビアの指摘に対してレオンは首を横に振る。

「そうである可能性は非常に高くはありますが、侵略行為にしては意図が不明すぎます」

「あぁ?明らかに侵略じゃねぇかよ」

「この時点では侵略した国の人間が国を追われアルバソル王国で犯罪を犯しただけかもしれん。アルバソル王国は侵略されたすべての国に接しているからな」

「よく考えたら侵略にしてはやり方が回りくどすぎですよね?3年前の時点ですでにアルバソル王国の国力をはるかに越えています。侵略が目的なら真っ向から来ればいい」

「その通り、ディニラビア帝国については影無さんに調べてもらいました」

 影無がビシッと立ち上がり背筋をピンと伸ばして報告する。

「ディニラビア帝国については以前から調査していましたがアルバソル王国に攻めいってくる様子は全くないでござる」

 報告が終わるとビシッと座る。

「侵略の意志がないのも妙ですが、侵略の仕方も妙です」

 初めに侵略されたメルキュール公国はすぐ隣の国で当時は次に侵略されるのはアルバソル王国かと国中が不安になっていた。しかしディニラビア帝国はアルバソル王国を避けるように周辺国家を次々に侵略していった。

「仮に帝国の侵略行為だとしてもそれを隠そうというそぶりもない、意図が全くわからないんだ」

「この件については現時点では答えは出ないし僕たちだけじゃ調べるにしても限界があるな、資料をまとめてソーレ王子に改めて伝えよう」

「わかりました。では次の議題ですが、最近各地で魔物の暴走事件が多発しています」

「魔物の暴走?」

「そういや最近魔物討伐の依頼も多かったな」

「国内のあらゆる場所で魔物の暴走が多数確認されています。以前からデッドスポット周辺では同じ暴走が確認されていましたが、ここ最近に関しては国内すべてで確認されるようになりました」

「暴走っていってるけど具体的にはどんな感じなんだ?」

「魔物が普段絶対とらない行動を行うということらしい」

「どんな行動だ?」

「まるで明確な意志があるかのように統率された行動をとるらしい」

「!!」

 オーネストたち護衛任務参加組は即座に反応した。レオンはそれに気づいたが報告が優先だと判断し続ける。

「魔物は思考能力というものを持ちません。たまに考えているように見える行動をしますがそれは魔物の本能によるものであり考えての行動ではありません。さらに魔物は群れるということを基本的にはしません、なにかを襲う時もただ目に写るものをひたすらに襲うだけです。ですが、今回の報告にある魔物は群れをなし軍隊のように統率された行動をするそうです」

「“普通ではありえない異常な行動”ということで暴走ってことか…しかしその話と今回の僕たちの任務中に起こった“落ち果て”と森の魔物の異常行動もこれに当てはまるな」

「はい、先程の報告を聞いてワタシも同じことを考えました。そしてウィズダムの村長が言っていた不審な気配にも思い当たる節があります」

「どういうことだ?」

「魔物の暴走が確認された地点の近くで“黒いフードを被った男”が目撃されています」

「まさか魔物を操っている黒幕!?」

「確定はできませんが団長たちの話を聞く限りではその可能性が高いと考えられます」

 レオンは資料をしまう。

「以上がワタシたちが調べた内容の報告です」

「わかった、ありがとう」

 レオンが席につきオーネストが今回の報告を受けての総括を述べた。

「現時点では推測にしかならないが、今この国に“なにか”が潜んでいる。その“なにか”の意図は把握できないが明らかな悪意を感じる。この話は改めてソーレ王子にお伝えし、僕たちも“フードの男”に関する情報を集め、正体をつきとめる!」

「了解!」

「御意!」

 オーネストの決定に部下たちはそれぞれの言葉で答えた。




 場所は変わりソーレ王子の執務室前。ソーレ王子に報告を終えたエミューリアが部屋の中から出てきた。ソーレ王子に挨拶し扉を閉めて振り返ると少し離れた場所に、深い夜色の黒髪をショートボブにした第2王妃の長女で王位継承権第3位のシーラ・B・アルバソルが腕を組みムッとした表情で青みがかった黒い瞳でこちらを睨んでいた。

「シーラお義姉様(ねぇさま)!」

 一方のエミューリアは嬉しそうにシーラに駆け寄っていった。

「シーラお義姉様(ねぇさま)、ただいま帰りました」

 ニコッと笑うエミューリアをシーラは無視する。

「ずいぶん長い時間ソーレお義兄様(にぃさま)としゃべっていたわね?」

「そうですね、報告内容が多かったのでいつもより長くなってしまいました」

 やっぱり笑顔のエミューリア、それを見てシーラの怒りが爆発した。

「あなたはいつもお義兄様(にぃさま)と一緒にいすぎだわ!私だって私だって…もっとソーレお義兄様(にぃさま)とたくさんお話したいのに…!」

 さすがに胸ぐらを掴んではこなかったが胸と胸が当たってしまいそうなほど詰め寄ってきた。ちなみにエミューリアの方がシーラより大きい。それもシーラの怒りの火に注ぐ油となる。

「私の方がソーレお義兄様(にいさま)のことを慕っているのに!私の方が絶対好きなのにぃ!!」

 ポカポカとエミューリアを叩くシーラ。エミューリアはされるがままだ。

「なのになのになんであんたばっかり…ねぇ!なんとか言いなさいよ!」

 さっきから無反応のエミューリアに発言を求めるシーラ。そしてエミューリアはそれに答える。

「可愛い!」

 エミューリアはシーラを抱き締める。

「わぷっ!?ちょっっと…!」

 エミューリアの胸圧に苦しむシーラ。エミューリアはすぐにシーラを放し目を輝かせた。

「もう!お義姉様(ねぇさま)ったら本当に可愛いんだから!昔(転生前)に読んだ少女漫画の主人公にそっくり!」

「は、はぁ!?なに訳のわからないことを…私は真剣に!」

「わかってますよ、お義姉様(ねぇさま)のお兄様に対する想いの強さは」

 実は二人のこのやり取りは以前から何度も行われてきた。シーラは義理の兄であるソーレ王子に恋心を抱いたいた。それゆえに実の妹のエミューリアを目の敵にしていた。一方エミューリアは恋に悩み自分に当たってくるシーラの不器用な所と本当は家族や民に優しい所がたまらなく大好きだった。

「そもそも私とお兄様は実の兄妹ですよ」

「貴族や王族には家を守るために親族同士の結婚もすることがあるのよ」

「だとしても私はしないとずっと言っているでしょう?それに、今の私は絶対にお兄様と恋仲になることはありえないんです!」

「はぁ!?わからないでしょそんなこと!」

「わかるんです!シーラお義姉様(ねぇさま)なぜなら私には…心に決めたとても大切な人がいるんですもの!」

「え、は?」

 ポカンとなるシーラ。だがすぐに我に返る。

「そんな話誰が…」

「お義姉様(ねぇさま)、私の目を見ても信じていただけませんか?」

「うぅ…」

 シーラはエミューリアが嘘をつく時の目を知っている。逆に真実を言っている時の目も知っていた。

「本当…なのね…」

「はい、誰かは言いませんけど」

 ずっと楽しそうなエミューリアを見てシーラは完全に戦意を喪失してしまった。

「本当にあなたには昔から敵わないわ」

「そんなことはないと思います、勉強も体を動かすこともお義姉様(ねぇさま)の方がよくできましたし」

「そうじゃなくてもっと内面的な部分よ、あなたと話してると私より年上に感じる時があるのよ」

「…!」

 少しドキッとするエミューリア、前世の人生をカウントすると確かに40才は超えている。

「なんだかどこかに余裕があるっていうか…そんなあなたが私は嫌いよ」

「私はずっとシーラお義姉様(ねぇさま)のことが大好きですけどね」

「~~~もういいわ!さっさと寝なさい!!」

「はーい!」

 手を振るエミューリアを無視してずんずん廊下を進むシーラ。

(本当にムカつくわ)

 と言いながらも口元には無意識の笑みがこぼれていた。エミューリアに言ったことはすべて本心ではあるが、本当に嫌っているわけではない。第3騎士団の設立の式典以降エミューリアの様子がなんとなくおかしかったので気にしていただけだった。今話した感じから問題はなさそうだということがわかり少しホッとしていた。

「ソーレお義兄様(にぃさま)のことについてはよかったけど、エミューリアに好きな人ね…それはそれで心配なのよねぇ」

 エミューリアの義姉(あね)として複雑な気持ちで自分の部屋へ向かった。

「…」

 そんな二人の会話を柱の影で聞いていた者がいたとも知らずに…

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