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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第一章
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新たなる“不穏”

 なんとか“落ち果て”の大群を退けた時には夜も深まり朝も近かった。第三騎士団はその日は朝まで警備をし朝が来たら交代で睡眠をとった。その日の夜予定していた宴が催された。村のエルフたちと中央広場で飲んだり食べたりした。先の騒動もあってエルフたちとの関係はかなり良好なものになっていた。

「メルグーおねーちゃん!かっこよかった!」

「つよかったー!」

「あらあら~ありがとう~」

 守った子供たちに囲まれて牛の人獣人メルグー・カウスは嬉しそうにしていた。

「見直したぜあんた!」

「ああ!人は見かけによらないんだな!」

 こちらで誉めちぎられているのはコウモリの半獣人ドラキー・グリザイユと狼の半獣人の狼牙だ。ドラキーは気持ち良さそうに賛辞を身に浴びている。

「もっと誉めてくれてもいい!」

「調子に乗るな」

「あぎゃぁ!」

 調子に乗ったドラキーの喉に地獄突きをおみまいする狼牙、今は夜なので獣人化している二人、なのでかなり痛い。

「おぶおぅ、狼牙!喉がつぶれたらどうするのだ!」

「調子に乗るお前が悪い」

「なにおぅ!?」

 二人が口喧嘩を始めると辺りで笑いが起こった。“落ち果て”の事件は大変ではあったものの村のエルフたちとも打ち解けることができた。

「ほい、野菜切れたでー!」

「…こっちもできた」

 フェニーとネムも村に入る時に感じていた不安や遠慮は完全になくなっていて楽しそうに皆と宴の料理を作っている。

「では次の行程ですが…」

 エレビアもその輪の中に入っている。オーネストはエミューリアと二人で少し離れた所でその光景を眺めていた。

「いい光景ね」

 エミューリアは料理を食べながら嬉しそうに笑う。エルフも獣人も関係なく皆が仲良くご飯を食べている、エミューリアが目指す世界の姿が少しだけそこにあった。オーネストはそんなエミューリアを見て、その笑顔を守れたことに前世の後悔が少しだけ晴れたような気がした。エミューリアと話しているとアルクィナがやって来た。

「少しよいか?」

「うん?いいわよ」

 いつもの流れだとエミューリアが呼ばれるので今回もそうだと思いエミューリアが立ち上がろうとするとアルクィナが止める。

「いや、今はエミィたんではなく団長に用があるのじゃ」

「え?僕ですか?」

 まさかの指名にエミューリアと顔を見合せとりあえずアルクィナについていった。エミューリアはエルフたちの所にいった。

 オーネストとアルクィナはアルクィナの家に入った。明かりをつけた応接室で向かい合って座る。すぐにアルクィナの方から話を切り出した。

「まずはこの村を守ってくれたことに礼を言おう」

 頭を下げるアルクィナ。

「当然の事をしたまでです。頭をあげてください」

 コール&レスポンスのようなマニュアルのようなやり取りをする二人。

「さて、これで礼は果たしたの!さっさと本題にいかせてもらう」

「いいんですけど、もう少しオブラートに包んでくれませんか?」

「エミィたん以外にそんな気を使う気はない」

「これから話す話もエミューリア王女に気を使ったんですか?」

「…察しがいいのぉ」

 表情からふざけが消える。

「今回の事件で“落ち果て”がとった普段ではあり得ない行動の数々…森の魔物たちもまるで共闘するかのように行動しておった」

「“落ち果て”には意思はないはずなのに妙に統率された行動をしていました」

「なぜそんな行動をしておったのか?お主ならなにか浮かんでおるのではないか?」

 オーネストは少し考えたあとずっと頭に浮かんでいた一つの考えをアルクィナに伝える。

「誰かが操っていた?」

「それで間違いないじゃろうな」

「間違いないんですか?根拠は?」

「結界を再構築している時に村の周りに意識を広げる必要があったのじゃ、その時に一本の木の上に邪悪な気配を感じた。その気配と同じものを村を襲った魔物たちからも感じた」

「じゃあそいつが今回の犯人?」

「間違いないじゃろうな、じゃがそれよりももっと重要な事があるのじゃ」

「もっと重要な事?」

 何が言いたいのかわからず困惑するオーネスト。アルクィナは一度部屋の扉を確認しオーネストに向き直った。

「この話は重要ではあるのじゃが言っていいものか悩んだ。じゃがお主とエミィたんに関係していることかもしれん」

「じゃあエミューリア王女も呼んだ方がいいのでは?」

「エミィたんに余計な心配はさせたくない、それはお主も一緒じゃろ?」

「…それはそうですけど」

「話がそれたの、なぜお主とエミィたんに関係しているかというとな森の外で感じた邪悪な気配なんじゃが、似ていたんじゃよ」

「似ていた?」

 いよいよ訳がわからなくなって首を捻るオーネスト。

「早く答えを教えてください」

「その気配の主の魔力の気配から察するに“神に祝福されし者(ギフター)”の可能性がある」

「!!」

「妾が知る限り“神に祝福されし者(ギフター)”はこの国にお主とエミィたんしか知らんのじゃ」

「まだ国に認知されていない“神に祝福されし者(ギフター)”がいるということでしょうか?」

「そうかもしれんが、妾は別の可能性の方が高いと思っておる」

「他国の侵略であると?」

「こればかりははっきりと言えん。じゃが、それよりももっと恐ろしいなにかを感じた」

「侵略より恐ろしいこと?」

「妾自身もはっきり何かと言えんからモヤモヤしておるのじゃ!じゃが、そやつからはまとわりつくような“執念”のようなものを感じた」

「“執念”…ですか?」

「ああ、それもかなり陰湿で身勝手な…思い出しただけでもおぞましい…」

 アルクィナは身震いした。オーネストは自分の記憶を辿ったが思い当たる人物はいなかった。だが、何か記憶の隅で引っ掛かるものがあった。

(なんだ?何かを知ってるのか?)

 記憶を掘り起こそうとするが全く出てこない。

「直感でしかないが今回の黒幕はまたお主たちの前に現れるかもしれん。エミィたんのためにも警戒しておくのじゃ」

「わかりました。ご忠告ありがとうございます」

 二人は宴の会場に戻った。近寄ってきたエミューリアにアルクィナと話した内容をしつこく聞かれたが、なんとかごまかした。宴は夜通し続きエミューリアともこの世界に生まれ変わって一番話した(途中からアルクィナにとられたが…)。次の日の朝、皆にお礼を言って行きと同じくルディとシルヴィの案内で村を出発した。先日の戦いで“落ち果て”は大半が消滅したので出会うことはなかった。魔物たちもオーネストたちの強さをその身で感じたり目撃したりしていたのでよってこなかったのでかなりスムーズに帰ることができた。その道中オーネストはアルクィナの言葉が気になりそれとなく森の中を注意して見ていたが自分たち以外の人間がいる気配はしなかった。

 ルディとシルヴィの見送りを背に近くの町で一日休んだあと王都への帰路に着いた。行きと同じくオーネストはエミューリアの馬車に乗ることになった。その中でもそれとなくアルクィナとの1対1(二人きり)の会話の内容について聞かれたが答えるわけにもいかずはぐらかした。

「わかったわ、もう聞かない。ここまで教えてくれないってことはそれだけの理由があるってことよね」

「ごめん」

「謝らないで怒ったり悲しんでる訳じゃないから…でも今回の旅はあなたたちがいてくれて本当によかったわ」

「まさかあんなことになるとは」

「まあでも、少しよかったって思ってる私もいるのよね」

「よかった?」

「襲われたことについてじゃないわよ?その、あなたの素敵な所を改めてたくさん見れた…から、ね?」

 言っているうちに恥ずかしくなり俯き上目遣いで見てくる。

「!!!」

 思わず叫んでしまいそうになるのを必死にこらえ平静を保ちながら

「ありがとうございます」

 と頭を下げた。それでも喜んでいるのは隠しきれずに妙に甘ったるい空気が馬車の中に広がった。




 王都に到着するとすぐに第1騎士団の団長のウィリアムと数人の部下が偉そうに胸を張って出迎えた。

「エミューリア王女!ご無事でなによりです!」

 エミューリアに対しては気持ち悪い笑顔を向ける一方、オーネストたちに対してはまるでできの悪い子供を見るかのような目で見る。

「こんな田舎者の成り上がり騎士団でさぞ不安だったでしょう」

 明らかな挑発を流すオーネストだが、後ろの方でヴォルフを抑える声が聞こえてくる。このままでは第3騎士団のメンツにも関わるので一言返しておこうとしたが、それより先にエミューリアがフォローしてくれた。

「なに一つ不安はありませんでした。むしろとても楽しく素晴らしい旅になりました」

「そ、そうですか」

 にっこり笑顔でそんなことを言われたらウィリアムとしてはこれ以上なにも言えなくなりエミューリアの指示で荷物を下ろし始めた。その間にエミューリアはオーネストに耳打ちする。

「ごめんね、ほんとは蹴飛ばしてやりたいけど立場もあるからあれがギリギリ」

「いえ、むしろありがとうございました」

「今回の旅のお兄様への報告は私がやっておくわ、あなたたちはしっかり休んでね」

「重ね重ねありがとうございます」

「うん、また明日」

 第1騎士団に守られエミューリアはお城に戻っていった。オーネストたちも荷物をまとめ騎士団寮に戻った。寮の前では副団長のブライアンが待っていた。

「おかえりなさい団長」

「ただいま、準備はできてる?」

「はいもちろん、ですが休んだ方がいいのでは?」

「少し事情が変わってね、すぐに始めるよ」

「わかりました」

 ブライアンは寮の中に戻っていった。オーネストたちも荷物を置いて数人の部下に声をかけ寮の会議室に向かった。 

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