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異世界でまた君と  作者: 長星浪漫
第一章
13/49

魔の眼光

 「はーっはははっはぁ!」

 木の上でフードの男は笑い転げていた。

「一人潰したぁ!やっぱり()()()()()()()()()()()

 まるで子供のように胸を張って誇らしげにするフードの男。人を殺してしまったという恐怖や戸惑いは一斎感じられなかった。

「このまま行けぇ!」

 何もない空中にジャブを打ちながらフードの男は狂ったように笑い叫んだ。




 ヴォルフは謎の魔物に怒りをぶつけるように戦っていた。

「ちきしょうがぁ!!」

 先ほど少し油断したせいでエレビアが怪我をしてしまい戦線が崩れてしまった。その原因を作ったのが自分だということ、さらに目の前の敵がなかなか倒せないこと、すべてに腹が立ちそのすべてを攻撃に込めていた。

「砕けろぉ!」

「ぎゃあおおおお!」

 二度と注意を自分からそらさせないためにひたすら激しく攻撃する。しかし、心のどこかでは冷静さを保ちながら。

 謎の魔物が太い腕を鉄球のように振り回しながらパンチを繰り出してくる。ヴォルフはそれを右にかわし両手の爪を謎の魔物の腕に突き立てようとした。

「ぐっ、かてぇ!」

 腕の筋肉が異常に固く爪が食い込まない。その一瞬をつかれ、肩を掴まれたヴォルフは少し持ち上げられ、地面に叩きつけられた。だがヴォルフは両手を地面につきダメージを最小限に抑えながらモフッとした尻尾を謎の魔物の顔面に張り付ける。

「ぐぶおぅ!?」

 尻尾を剥がそうとヴォルフから手を離した隙に体勢を整え顎にアッパーを食らわせると謎の魔物の鋭い牙が上顎に食い込む。

「ヴォラアァァァ!」

 痛みと怒りで半狂乱になりながら無茶苦茶に腕を振り回す。なんとかかわすが避けた一発が急に方向を変え胸ぐらを掴まれる。そのままヴォルフは一度持ち上げられ地面に叩きつけられようとする。投げられる途中で両足を謎の魔物の首にかけた。

「ガラァ!」

 同時に胸ぐらを掴む腕を弾き外し、体を捻りながら足の力だけで謎の魔物の体を持ち上げ投げられた勢いも利用し地面に叩きつける。

「がぐっ…ぐ?」

 頭から地面に打ちつけられながらも目線は先ほど攻撃したエレビアをとらえる。完全に仕留められなかったことに気づくと再び襲おうとした。だがそれをヴォルフが頭から抑え込む。その瞳は怒りで燃えている。

「もうあいつらには近づかせねぇぞ」

 ヴォルフは掴んだ頭を地面に叩きつけバウンドした所に蹴りを入れる。吹き飛んでいく謎の魔物の足を掴み、飛んでいく方向と逆に引っ張る。肉がちぎれる音とともに足がちぎれとれる。

「んあ?」

「ぐぎゃあぁぁぁ!」

 痛みに悶える謎の魔物に対してヴォルフは怪訝な顔をした。

「なんだこりゃ?やけに簡単に足が取れたと思ったら血が一滴もでねぇ?」

「ヴァルルル…ルガァ!!」

 謎の魔物が片足でうまくバランスを取りながら突進してくる。

「まぁ、なんにしてももう終わりだ」

 足を投げ捨て目の前の敵に集中する。謎の魔物はあいも変わらずその豪腕で殴りかかってくる。ヴォルフはなんなくその一撃をかわした。しかし、またもやパンチの軌道が変わり胸ぐらを掴もうとしてくるがヴォルフはそれを予想していた。

「何度も同じ手はくわねぇよ」

 謎の魔物の手首を掴み徐々に力を込めていく。

「グ、ガァァァァ…!」

 必死にもがいて外そうとするがヴォルフの腕はびくともしない。

「もう油断はしねぇ、覚悟決めろや」

 謎の魔物の腕を握り潰す。痛みに叫び暴れる謎の魔物を冷たい目で見ながら完全に謎の魔物が動かなくなるまで攻撃を続けた。




 オーネストは“落ち果て”に苦戦していた。ヴォルフがいなくなったことで通常サイズの“落ち果て”を押さえきれていなかった。そのため巨大“落ち果て”へ次々と融合されていくため巨大“落ち果て”の中の魔石(コア)がなかなか減らなかった。エレビアが魔法でサポートしてはいるものの先程のダメージのせいで普段の半分くらいしか力が発揮できていなかった。

「う、ぐうぅ…」

「エレビア!」

 詠唱途中で崩れ落ちるエレビア。エミューリアが慌てて体を支える。エレビアは汗びっしょりで顔色も悪い。

「もう無理よ!私が戦うから休んでいて!」

「はぁ…はぁ…いえ、大丈夫です」

「そうは見えないわよ!?」

「確かに詠唱して魔法を使うのは無理そうです。ですが私には“最後の切り札”がありますから」

「強がらないで!なんであなたたちはそうなの!?」

「本当にあるんですよ…団長!」

「どうした?」

「私の“アレ”を使います」

「!お前、その状態じゃ…」

「死ぬことはないと思います。なによりこの状況じゃ他に道はないでしょう?」

「……わかった、だが気を付けろよ。あと、僕たち二人のことは気にしなくていいからな」

「わかっています」

 エレビアはエミューリアに支えられながらゆっくりと立ち上がる。

「すいません姫様、もたれかからせていただいてもよろしいでしょうか?」

「え??うん???」

「ありがとうございます」

 エレビアは文字通りエミューリアに背中を預けた。そして自分の眼鏡に指をかける。

「エミューリア王女、しばらく私の顔を見ないでくださいね」

「え?さっきから何を言って…」

 エミューリアの問いには答えずエレビアはかけていた眼鏡を外した。

「“『魔眼』アブソリュート”」

 エレビアの目が赤い輝きを放つと同時に“落ち果て”から赤い光が漏れだしエレビアの目に吸収されていく。

「これは?」

 エミューリアが困惑しているとエレビアが前方を向いたまま説明してくれる。

「これは『魔眼』と呼ばれるものです」

 『魔眼』、それは魔力を持つものがごく稀に持つことがある能力で文字通り魔力を帯びた目である。魔眼には先天的に持つものがほとんどだが、生まれた時には持っていなくて成長の過程で後天的に授かる者もいる。エレビアもそうなのだが、後天的に授かった者は魔眼をうまくコントロールできない傾向にある。エレビアもその一人だ。

 また魔眼によって様々な力があり、エレビアの魔眼の能力は“生命吸収(ライフドレイン)”生きて活動するためのエネルギーを奪い取る。今回の場合は“落ち果て”が動くためのエネルギーである魔石(コア)が対象となる。

 エレビアの魔眼に魅入られた“落ち果て”は魔石(コア)を吸い尽くされ次々と崩れ果てる。

「す、すごいわエレビア!あなた本当にすごい!」

 エレビアの活躍を褒め称えるエミューリア。しかしエレビアは悲しく辛そうな表情で首を振る。

「全然すごくないですよ、この眼のせいで昔自分の両親を殺しかけましたから」

「えっ…」

 エミューリアの表情が固まる。エレビアは自分を責めるように続ける。

「この眼は後天的に現れた力で制御が難しいんです。発現した時は全く制御できずに眼に写るものすべてから生命エネルギー奪っていました」

「そんな…」

 無意識にエレビアの目線が戦っているオーネストに目線がいってしまう。それに気づいたエレビアが追加で説明する。

「あの二人なら大丈夫ですよ。ヴォルフさんは神獣化していて効果はありませんし、団長は魔装を展開しているので効きません。殺すことはないですから安心してください」

「そんなつもりは…」

 エミューリアは無意識にエレビアを傷つけたかもしれないことに気づき強く後悔した。だがどう声をかけたらいいのかわからずエレビアを抱き締めるように体を近づけた。

「ごめんなさい」

「謝らないでください、大丈夫ですから」

 できる限りの優しい声色でエミューリアを慰めたエレビア。“落ち果て”の数は確実に減っているがまだ数が多い。時間がかかりすぎている事にオーネストは不安を感じていた。

「エレビア!そろそろ魔眼を引っ込めろ!」

 しかし魔眼は発動を続ける。

「エレビア?おい!止めろ!!」

「あっう…」

「エレビア!!」

 エレビアは膝をつき手足をダランと下げエミューリアにもたれながらガクガクと震えていた。後ろではエミューリアがエレビアに必死に呼びかけていた。しかしエレビアは答えられず周りの生命エネルギーをその眼で吸収し続ける。

「まずい!」

 エレビアの魔眼生命吸収(ライフドレイン)の発動にはエレビアの魔力が必要になる。しかも発動している間はエレビアの意思に関係なく発動を続ける。しかも吸収した生命エネルギーはエレビアの魔力になるわけではなく、ただ消費されるだけ、魔眼を止めるにもエレビアの魔力がある程度必要なのだが、もし必要魔力量を下回ってしまうと魔力が尽きるまで止めることができなくなってしまう。

 いつもなら頃合いを見極め止められるのだが、今回の場合は“落ち果て”のことで頭がいっぱいになってしまい魔力量のボーダーラインを越えてしまった。

「あ、ああぁぁぁぁあああ!!」

「エレビア!っく!!」

 エレビアの所に行こうとするが、“落ち果て”の大群と巨大“落ち果て”は無視できない場所にまで侵入しているため放っておけない。ヴォルフはまだ少しかかりそうだ。それにエレビアの元に行けたとしてオーネストにできることはなかった。

(どうすればいい!?)

 オーネストが焦り考えていると、エミューリアが動いた。

「エレビア!!」

 エミューリアはエレビアの後ろからエレビアに抱きついた。

「エミュー、リア王…女…」

 まだかろうじて意識のあるエレビアはエミューリアの行動に驚き、また危ないからと引き剥がそうとした。しかし逆にエミューリアはより強くエレビアを抱き締めた。

「このままじゃエレビアが死んじゃう!私、どうすればいいの!?」

 目一杯に涙を溜めているエミューリア。エレビアはエミューリアの顔を見ないように気を付けながら薄れていく意識の中で一言だけこう言った。

「魔…力さえ、あ、れば…」

「魔力、そうよね!でもどうやって…」

 ふと、ある方法が頭に浮かんだ。

「“マインド・リンク”!」

 自分とエレビアの心を繋いだ。この魔法は人と人の心を繋ぐだけの固有魔法。それにより言語の違う相手とも意思疏通ができる。ただそれだけの魔法だった。だが今この瞬間、エミューリアの固有魔法は進化した。

「私の魔力をエレビアに!」

 繋いだ相手に魔力を分け与える。やったことはなかった。てもできるという確信があった。そしてやるしかなかった。

「はあぁぁぁ!!」

 水を別の入れ物に流し込む様子を必死にイメージする。すると自分の中の“流れ”がエレビアの方へ向くのを感じた。すると徐々にエレビアの意識がハッキリしていくのがわかった。そして、自力で立ち上がれるところまで回復すると魔眼を停止させた。

「と、止まった…ん?」

 急に目眩を感じ座るように崩れ落ちるエミューリア、眼鏡をかけ寄り添うエレビア。

「大丈夫ですか?」

「え、えぇ」

 もう体に違和感はなかった。恐らく魔力を他人に初めて分け与えた反動のようなものだろう、そう説明するとエレビアはまた頭を下げた。

「ご迷惑をおかけしました!守る立場の私が守られるなんて」

「気にしちゃダメ」

「ですが!」

「結果として敵をたくさん減らせたんだから」

「でも…」

 まだ自分を責めようとしたので話の途中で強引に止める。

「いじけるのはおしまい、あとはオーネストを見守りましょう」

「…はい!」

 二人がなんとか無事であることを確認したオーネストは敵を倒したヴォルフが近づいてくるのを見て指示を出す。

「ヴォルフ!あの二人を守れ!」

「こいつはどうするんだよ!」

「エレビアが数を減らしてくれた。ここまで減れば()()()()()()()

 オーネストが両手のひらを重ね右手をひねる。すると浮かんでいた七枚の盾がさらに分離した。さらにそれがさっきより広い範囲に展開される。

「一気に焼き尽くす」

 先程とは違い何本もの光の筋が反射する。オーネストはその光と光が相殺してしまわないように鏡の角度を微妙に調整する。周りの“落ち果て”を減らしつつ巨大な“落ち果て”の体の中の魔石(コア)も減らしていく。その光景をエミューリアとエレビアを守りながら見ていたヴォルフは呻く。

「なんつーふざけた威力だよ…」

 すべての光の筋が狂いなく“落ち果て”の魔石(コア)を貫いていく。そして最後の一つになった時に剣に持ちかえ鏡の盾を消した。

「これで最後だ」

 最後に残った一つを切り割りすべての“落ち果て”が消滅した。同時に村全体に結界が展開される。それを確認したオーネストはその場に座り込んだ。

「お、終わったか…」

 まとっていた月の魔装が消え、肩で息をしている。ヴォルフが助け立たせる。

「あんなことできんなら始めからやれよ」

「そうはいかないんだよ…鏡の移動や角度調整には自分の魔力を使わなくちゃいけないし、集中をかなりしなくちゃいけないから30秒くらいしかもたないんだ」

 オーネストはエミューリアにもたれて疲れで眠ってしまったエレビアを見てフッと笑った。

「エレビアが頑張ってくれたからなんとかなったんだ」

「なるほど、エレビアのおかげであってお前はいいとこだけ持っていったわけだな!」

「…もう少し言い方があるんじゃないか?」

 自力で歩ける程度には回復したのでエレビアをヴォルフに任せてエミューリアと少し遅れて歩いた。

「大丈夫だった?」

「う、うん…」

 なにか困惑したような笑顔をしているのに気づいたオーネストは心配になった。だがエミューリア自身もよくわかってないようだった。

「ごめん…」

「謝らないで、でも心配や不安があるならいつでも言ってきて…その、これでも元夫…だしさ」

「!!」

 エミューリアはオーネストの顔を見る。オーネストは少しでも元気になってほしくて言ったのだが、言った後で恥ずかしくなり顔を赤くして口をもにゅもにゅさせている。その顔と「元夫」発言に一気に気持ちが高ぶったエミューリアは飛びっきりの笑顔をオーネストに向けた。

「うん!絶対約束だからね!」

 すっかり元気になったエミューリアはオーネストの手を引っ張ってアルクィナの元へと急いだ。




 場所は少し離れ森の木の上、フードの男が歯軋りをしていた。

「まさか!まさかぁ!俺が持ってきた合成獣(キメラ)までもがやられてしまうとは!!おまけに村のエルフを一人も殺せていないぃ!!」

 怒り狂いくいしばった歯がミシミシと音を立てる。

「結界も張られてしまった。しかも以前よりも強力にななっている。ちょっと壊せないか…」

 試しに結界を軽く小突いてみたがそれだけで「無理」とわかる固さだった。

「くぅぅ、今回は引いてやるか、だか俺はあきらめない、あの人を絶対に手に入れてやる。フフハハハ!」

 不吉な笑い声を残しフードの男は姿を消した。

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