ゼロから始まるFラン生活
「どうしましたか?」
意識を取り戻すと、鑑定士さんが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいました。
「いえ、ぼーっとしちゃって…どうぞ進めてください」
鑑定作業は数分で終わりました。鑑定士さんがぶつぶつ何かを唱えて、最後に「なんとか給え」です(聞き慣れない文言で内容がわかりません)。
「どうでしたか?」
クリスさんが事務的な口調で鑑定士さんに聞きます。
「すべての能力において平凡です。特にスキルもなく、Fランクが妥当だと思われます」
はいはい、平凡は言われ慣れてますよーだ。それにしてもFランクとは…なんとも嫌な響きです。クリスさんに聞いてみました。
「あのう、ランクって何ですか?」
「当ギルドにおける冒険者の資格制度です。頂点をSとして、以下AからFのランクがあり、ランクによって受注できるクエストが異なります。端的に言って、ランクが上がると待遇も上がります」
「つまり、Fランクというのは…」
「最低ランクですね」
予想がついたとは言え、ショックでした。まさか異世界に来てまでFラン扱いされるとは…。
「あまり気にする必要はありません。当ギルドは実力よりも信用を重んじており、例え鑑定でEランク以上の実力が判明しても、9割以上の冒険者にFランクから始めて頂きます。着実にクエストをこなすことが肝要です」
わたしはうなだれて受付に戻りました。クリスさんに持たされた鑑定書を葵さんに渡します。
「鑑定はどうだった?」
「すべてが平々凡々のFランだそうです…次は冒険者登録するようにと」
「まあまあ、わたしたちは元々この世界の住人じゃないんだから気楽にね?」
葵さんが励ましてくれる横で、アンジェリカは鼻で笑いました。
「ふっ、見かけ通り大したことないわね」
「そういうアンジェリカはどのランクよ」
「Fよ」
「同類じゃねーか!」
「わたしはEに限りなく近いFなの。今回のオオウサギ討伐でEに昇格間違いなしね」
「あら、それは無理よ。あなたは正式にクエストを受けてないし、意図的にギルドを騙したもの。支部長が許すはずないわよ」
「えっ!無理なの!」
「むしろ評価されると思っていたほうが驚きだわ…。支部長が心配するわけね」
「ぐぬぬ…」
葵さんはわたしの前に冒険者登録用の書類を置き、書類の内容についてざっと説明すると、サインをするように言いました。外国の文字のはずですが、どうしてだか何の問題もなく読めます。これも女神様からの贈り物なのかもしれません。
「はい、これで登録完了です。それじゃ、さっきの続きを説明するわね」
「わたしは帰るわ。疲れたから帰って寝る」
「あっ…」
アンジェリカはさっさとギルドを出て行ってしまいました。たった数時間の間でしたが、別れてしまうと寂しく感じました。お礼を言いそびれて申し訳なくもなりました。葵さんはわたしの胸中を察して、すぐに会えるわよ、とフォローしてくれました。
その後、葵さんに連れられてギルドの中をガイドしてもらいながら、冒険者のルールや各種手続きの仕方をレクチャーしてもらいました。
「そう言えば、鑑定の前に『覚えてないの?』と聞かれましたけど、もしかして葵さんも女神様とお会いしたんですか?」
「ええ、そうよ。思い出したのね。その辺りの事情は、おいおい飲みながら話しましょう。…あら、りぼんちゃんって未成年?」
「二十歳ですけど…飲めないんです」
ほんとはガンガン飲めます…。
「残念。にしても二十歳かあ。若いっていいわぁ」
「そんな、葵さんすごくお綺麗じゃないですか」
「わたし、今年で31よ?」
「えーっ、見えないです!25、6かと思ってました」
「うふふ、ありがとう。お世辞でも若い子にそう言ってもらえると嬉しいわ。だいたいのことはわかったかしら?」
ごめんなさい、ちょっと反応がババくさいです。
「はい。ありがとうございました」
「最後に支部長に会って面接を受けてください。顔合わせの形式的なもので、登録には影響ないから安心してね。支部長はこの時間だとギルド裏の喫茶店にいるわ」
地図をさっと簡単に書かれたメモを受け取ってギルドを出ようとしたとき、葵さんがうしろから呼びかけました。
「あ、癇癪持ちのすごーく怖い人だから発言には気をつけてねー」
思わず胸に抱えたバックをきつく握りしめました。圧迫面接でないといいな…。