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栄護士りぼん 異世界大豆生活  作者: 多胡真白
第2話 ゼロから始まるFラン生活
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大豆と食品成分表

 森を抜けると、膝のあたりまでの丈のある草原が広がっていました。アンジェリカは慣れているようで、しかも歩くのが早くて追いつくのが大変です。10分ほどすると、石畳で舗装された立派な街道に出ました。

 こんな景色、どこかにあったでしょうか。もしかすると北海道ならありそうな気はしますが、コートや暖房がなくても困らない気温ですし、道路もアスファルトで整備されているはずです。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥です。思い切って聞いてみました。

「ねえ、変な質問するけど、ここはどこなのかな?」

「え?何言ってるの?」

「ご、ごめん。わたし極度の方向音痴で、森を突っ切ろうとしたけど迷っちゃって」

 もちろんでまかせです。

「ここはフロレンス。都会とは言えないけれど、活気があっていい街よ。特産品のりんごの美味しさはどの街にも負けないわ」

 フロレンス…?どう聞いても日本の地名ではありません。それとも、南セントレア市みたいに新しい合併都市の予定がどこかにあるのでしょうか?

 アンジェリカは怪訝な顔になって聞いてきました。

「あなた、どこから来たの?商人でもなさそうだし、冒険者でもないわよね」

 端正な顔は露骨な疑いを隠してません。これは下手に答えようものなら詐欺師扱いされそうです。というか冒険者ってなに?

「答えられないならその袋の中を見せなさい。中身によっては衛兵に突き出すわよ」

 小柄なアンジェリカだけど、わたし程度の小物をびびらせるには十分な迫力でした。何が入っているのかわたしも知らない包みを仕方なく開くと、小さな袋と一冊の本が出てきました。

「食品成分表…?」

 A4サイズの分厚い本の表紙には見覚えがあります。わたしが授業で使っているテキストと同じです。ただ、辞書並みの厚さはなかったような…。記憶よりずっと重い感じがします。

「貸しなさい」

 アンジェリカは食品成分表をひったくり、パラパラとめくりました。

「これ何語?こんな複雑で四角張った文字見たことないわ」

 突き返された本を開いてみましたが、何の変哲もない日本語です。あ、四群点数表などの他の教科書の内容をまとめたようなページが後半にぎっしり詰まっています。分厚さはこれのせいですか。てかなにこれ。

「ああ、漢字?音読みとか訓読みとか難しいよね。大丈夫、今はパソコンとスマホのおかげで誰も漢字書けないから。読めなくても検索できるから安心して」

「カンジ?…ますます怪しいわね。そっちの袋も見せなさい」

 大人しく袋を渡します。紐解いて中を覗き、中身を少量つかんでわたしに見せました。

「こっちは豆みたいだけど…ひよこ豆と違って楕円形だし、レンズ豆にしては大きいわね」

「大豆だ」

 大豆でした。それも空炒りしたものではなくて種まき用の種です。食品成分表と大豆?なぜわたしの傍にあったのか意味がわかりません。食品成分表はともかく、大豆の種なんて身に覚えがありません。

「ダイズ?ひよこ豆とは違うの?」

「大豆は『畑の肉』と言われるほどたんぱく質が豊富なんだよ。他の栄養も良質で、ほぼ完全栄養食とも言われ…」

「肉ですって?」

 アンジェリカは真っ青になってのけぞりました。肉というキーワードに反応し過ぎです。本当に苦手なんですね。

「例えだって。ちょっと待って」

 わたしは食品成分表を開いて、豆類の項目を探しました。

「それぞれの乾燥した豆100gあたりのたんぱく質を比べると、ひよこ豆は20g、レンズ豆は23g、そして大豆はなんと33g。さらに大豆はアミノ酸スコアも100なの。あ、アミノ酸スコアは9種類の必須アミノ酸の含有比率を示す数値で…」

 調子に乗って気分よく説明していると、アンジェリカに手のひらを向けられて話を遮られました。

「一人で盛り上がってるところ悪いけど、聞いていい?」

「あ、はい」

「タンパクシツってなに?」

「すごーく大雑把に言うと、わたしたちの体そのものです。たんぱく質を摂ると筋肉ムキムキになります。たんぱく質を摂らないと痩せ衰えて死にます」

「ちょっと大雑把過ぎない…?」

「大雑把過ぎません!アンジェリカがちんちくりんなのは、たんぱく質が豊富な肉を食べないせいです!」

「なっ、ちんち…!」

「そこでちんちくりんなアンジェリカたんにオススメしたいのが、『畑の肉』ことスーパーフードの大豆です」

 調子に乗ったわたしはアンジェリカの肩を叩き、大豆が入った袋を持ってサムズアップしました。サービスでウィンクと笑顔で歯キラーンをおつけして。

「肉がだめなら大豆を食べればいいじゃない!大豆に含まれるイソフラボンはバストアップにも効果があって、バランスよく、スタイルよく成長すること間違いなし!」

「…で、ちんちくりんでないあなたはお胸が凹んだ状態で生まれたのかしら?さぞかしバストアップの効果があったんでしょうね。まさか凹んでたとは思えない成長ぶり」

「うるせえゴーヤ突っ込むぞ」

「その顔スープに沈めるわよ」

 大豆で簡単に胸が大きくなるなら日本人女性は皆グラビアアイドルですよね、はい。

「まあいいわ、ギルドに行けばあなたの身分もわかるでしょ。アオイの取り調べを甘くみないことね、ふふ」

 アンジェリカの不敵な笑みに、わたしは急に不安になってきました。歩き慣れない石畳の感触が、不安を一層色濃くしました。

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