ご注文はメイドですか?
「おや、また転んで怪我をしたのかい?運動が得意じゃないんだから気をつけないと。
ああ、息子のオリバーです。ほら、挨拶をなさい」
「こ、こんにちは…」
「さ、さっきはごめんね。お姉ちゃん考え事してて気がつかなかったの」
ブラウンさんに事情を話すと、かえって謝られてしまいました。オリバーくんは不注意に走り回って転んでしまうことがよくあるそうです。はあ…よかった。
促されてテーブルに座り、どうぞ、と紅茶のカップが置かれました。烏龍茶に近い香りで、渋みの強い紅茶です。
簡単に自己紹介をして、支部長さんからの手紙を渡しました。ブラウンさんが手紙を読む間、どきどきしっぱなしでした。
ブラウンさんは手紙を読み進めるにつれ、困った顔になりました。
「お話はわかりました。あなたがアンジェリカさんの世話係で、うちに下宿させてくれと。やれやれ、アルフォンスさんはいつも強引だな…。しかし、困りましたね。実はつい一週間前に部屋が埋まってしまったんですよ」
支部長さん、話が違うぞ…。あと世話係って何ですか。付き人みたいじゃないですか。
扉がノックされました。ブラウンさんが招き入れた人物は、なんとアンジェリカでした。アンジェリカはわたしに気づいて言いました。
「あら、りぼんじゃない」
「アンジェリカ?なんでここにいるの?」
「わたしはここに下宿してるの。ティータイムに来たのよ。で、あなたのほうこそここで何をしているのかしら?」
「おや、アルフォンスさんから聞いてなかったのですか?今日からりぼんさんをうちで下宿させるように頼まれたんです」
「え?一言も聞いてないけど。本当なの?」
「はい。ですが、部屋に空きがなくてどうしようかと」
「ははあ、伯父様はそそっかしいところがあるから、確認しないで勢いで決めたんでしょうね。他の宿を紹介してあげたら?」
「お恥ずかしい話ですが、うちとしてもまとまった収入があると助かりますので…」
オリバーがアンジェリカを見上げて言いました。
「アンジェラお姉ちゃんが一緒に住んであげれば?」
「なんでよ、オリバー。どこぞの馬の骨とシェアする理由は微塵もないわよ」
ひどい言い草です。
「だって、アンジェラお姉ちゃんのメイドさんなんでしょ?さっきお父さんが言ってたよ。アンジェラお姉ちゃんのお世話係だって」
メ、メイド!?
「…何言ってんの?」
「本当です。ですからアンジェリカさんがいるうちの宿を指定したのでしょう」
「伯父様は何を考えているのかしら…」
「もしアンジェリカさんさえよければ、りぼんさんと部屋をシェアして頂けるとありがたいのですが…。ギルドから費用は頂けますので、アンジェリカさんは家賃を払って頂く必要はありません。それと、すぐにギルドに来るようにとの伝言です」
「はいはい、ティータイムは取りやめか。悪いけど、期待はしないでね」
アンジェリカは不満たらたらに出て行きました。わたしの処遇はどうなるんでしょうか…。