7話
「お嬢様、何落ち込んでるんですか?もう過ぎてしまったことでしょう。」
呆れた声でティーナが言う。
「だって、だってティーナ、わたし殿下に失礼な態度をとっちゃったんだよ。これって問題を起こしたってことだよね?もう帰されちゃうのかな?アンダーテの主人に殺されちゃうかな?」
問題を起こすと殺すって言ってたんだっけ?
「もう!!あんなの脅しに決まってるじゃないですか」
えっ?でも、だって、あんな事言うから。もし、脅しではなく本当だったとしたら、いざっとなったらわたしは、戦う。
「そんなことより、今日はお嬢様が殿下と過ごす日なんですからね。しっかりしてください。その時に確認すればいいじゃありませんか。」
「それは嫌だ。だってあんなにかっこいい人とふつうに話せるわけない。」
「剣の練習している時はふつうに話してましたでしょ。」
ああ、良く考えたらなんでわたしは、あんなふうにふつうに出来ていたんだろう?あの時は剣のことで頭がいっぱいだったから。
「ねえ、ティーナ、殿下とは何をすればいいの?」
もしかしたら、剣の練習を手伝ってもらってもいいのかな?
「なんでしょう?わたしにはよく分かりませんが、剣の練習ではないことは確かでしょうけどね。」
ティーナは、どうやらわたしの心の中が分かるらしい。なぜ、思っていたとおりのことを注意されるのか。
「もう、お嬢様。早く着替えますよ。もうすぐ殿下がお迎えに来られますから。あの時のあんな格好じゃだめですからね」
わたしにはあんまり派手な格好が似合わない。そんなことはもう小さい頃からわかっていた。だから嫌いなのだ。ティーナがよくわたしに着せるフリフリのドレスは。
コンコン
「アンダーテ嬢、お迎えに参りました。」
あの時みたいにくだけた言葉使いではなく、第二王子としてふさわしい言葉使いでわたしの事を迎えに来た。
「お待たせいたしました。」
わたしは結局ティーナにフリフリの派手なドレスを着せられた。
「では、まいりましょうか?」
そう言って、殿下は何でもないことのように、わたしの手を握る。
なになになに? なにこの手。こんなかっこいい人とわたしが手?
ありえないだめだだめだ。思わず赤くなってしまう頬を、殿下にばれてしまわないように、空いているほうの手でおさえた。
「えっ?あの殿下?この手は?」
「まいりましょうか。アンダーテ嬢?」
有無も言わさぬ強引さでわたしの手を引いた。さすが王子様、慣れていらっしゃる。そうすれば、女はみんなゆうことを聞くかのように、
殿下がわたしを連れて行ったのは、何故か城下町だった。
わたしはそれくらい地味だということだろうか。わたしには王宮ではなく城下町が似合うということだろうか。
わたしが1人で考え込んでいる間にも、殿下はわたしの手を引きながらどんどん歩いていく。
とうとう耐えきれなくなって、殿下に声をかけた。
「あの、殿下?なんでこんなところに?」
「ああ、それは、ほかの女だと絶対に一緒に来てくれないから。僕正直さ、ほかの女とやるお茶会とか全然興味ないんだよね。それに、猫かぶるの疲れるし。でも、君となら大丈夫かなと思って、だって僕に戦いを挑む女だもんね。」
やはりこの男は、猫をかぶっていたのか。迎えに来た時のように、丁寧な言葉遣いで、ほかの嫁候補達とは話していたんだろう。
それは気が楽と言われているということだ。これは、喜ぶべきところなんだろうか?それとも、怒るべきなのだろうか?
「でも殿下、殿下がこんなところに来てもいいんですか?」
もうみんな殿下のことを殿下だと、気がついているみたいだけど。
「ああ、大丈夫だよ。みんな分かっているけど、知らないふりをしてくれてるし。僕、よくここに来るから。」
で、で、で、殿下がよく城下町に来る!?
「何でですか!?」
王族がそんなことをしてもいいの?
「何でって、視察みたいなもんだよ。書面上では分からないこともあるし。直接見た方がいいでしょ?」
当たり前のように言った。そりゃあ分からないこともあるでしょうけど、直接町に出て視察をする王族なんて初めて聞いたよ。
変わっているのですね。この第二王子のトーマ様は、
こうして、わたしと少し変わった第二王子のトーマ様との城下町視察が始まりました。