2話
「いらっしゃい、いらっしゃい。安いよ。お姉さんちょっと見てかない?」
初めて出た町は、活気で溢れていた。声を掛けてくれたおじさんのお店を見に行きたかったが、まずは、住む場所を探さなくてはいけない。
しかしわたしは、外に出てはいけないと厳しく言われてきた。だから、どのような場所にみんなが住んでいるのか、全くと言っていいほど分からなかった。
しばらく歩いていくと、何やら人だかりが出来ていた。見るとそこには少年が男に剣で切られそうになっている。
聞いた話からどうやら少年が男にぶつかってしまったらしい。ふつうの人だったら謝れば済む話なのだが、その男はどこかのえらい人だったみたいで、こうなってしまったそうだ。
みんな男が怖いので少年を助けないでいた。
思わずわたしは、懐から護身用の短剣を取り出すと、男と少年のあいだに飛び出していた。
「なんだ女。短剣なんか持って、俺とやるつもりか?やめとけ、やめとけ怪我するぞ。」
「もし、戦うつもりだと言ったら?」
「ハハハハーー、おもしろい。いいぞ。怪我しても文句言うんじゃねーぞ。」
周りの人は、突然出てきたわたしをハラハラした表情で見つめた。
わたしは、天女に愛されなかった。でも、その代わり自分を守るため日々剣の練習をしていた。あの人が教えてくれたのだ。自分の身は自分で守れと言って。
だから、ふつうの人に負けるほど、弱くはない。
「うらあーー」
剣を振りかざしながら、男が迫って来る。
「隙だらけ」
そう言った直後、男の手から剣が離れ、喉には私の短剣が迫っていた。
囲んでいた人の歓声が鳴り響く。
「いつまで突っ立っているおつもりですか?」
「う、うるせー。後で覚えておけよ!!」
捨て台詞のように言うと早くここから離れたいのか、囲んでいた人を勢いよく突き飛ばすと走って行ってしまった。
「あの...お姉ちゃんありがとう」
少年が頭を下げた。
「怪我は無い?大丈夫?」
「うん!!」
初めてあの人以外と戦った。思ったよりも、うまく出来てよかった。
しばらくして、囲まれていた輪が崩れていった。
「おい、見つけたぞー。」
「ホントか?どこだ?」
どこからか興奮した男達の声が聞こえてきた。
気になってその声の元に目を向けると、その男達の目はわたしに向けられていた。
見つけたってわたしの事?まさかお母様の使いの者かしら?
お母様口ではあんな事を言っていたが、本気では無かったのかもしれない。
思わず口元が緩んだ。いつもはわたしのことを愛している素振りなど見せたことは無かったお母様が、わたしのことを探していたのだ。
どんどん近づいてくる男達に、わたしは何故か不安を覚えた。どこがと聞かれれば、答えることは出来ないが、何かが違うのだ。
そんな不安が何か必死に考えていると、いつの間にか男達がわたしの目の前に来ていた。
「おい、お前ちょっと来い。」
その乱暴な言葉使いに、感じていた不安がなにか分かった。この男達は知らないのだ。わたしが貴族だと言うことを。平民だと思っているのだ。
わたしが黙っていると、始めから答えなど求めていなかったかのように、わたしの腕を強引に引いた。その力があまりに強く振り払うことが出来ない。
助けを求めて周りを見るが、さっきの戦いであの子なら大丈夫だろうと思っているのか、目すら向けてくれなかった。
この町の人たちはみんな面倒事に関わるのが嫌なのだ。
わたしの意思など関係無しにその男達は、狭い路地に引きずっていった。
「わたしにな.....。」
途中で言葉が止まった。腹に受けた遠慮の無い拳によって、意識が遠のいていく。
せめて最後まで言わせてくれ。薄れゆく意識の中で、そんな事を思った。