8 突入
「明日、賢者達の元へ向かう」
「私はそれまでに辰の力を見ておきたい」
一瞬言葉を詰まらせた後に喋り出す純狐。
力を見ておきたい、か。
どういう意味だ?
「こういう意味だ」
純狐の姿が不意に動いた。
俺の背後に回り込んで、殴りかかってくる。
咄嗟に俺はしゃがんでいた。純狐の手が空を斬る。
「危ないな……… どうしたんだ?」
「刀を抜け。私の憎しみと辰の力、どちらが強いか勝負しましょう」
言われたままに刀を抜く。
純狐は俺が刀を構えるのを見据えると、再び殴りかかってくる。
恐ろしいほど速い動きだ。長い時を生きた霊とはここまで強いのか。
寿命が残り僅かとは思えない動きで俺を圧倒してくる。
純狐の拳を刀で受け止め弾き返す。今度は流石に驚きを隠せないようだ。
この刀は絶対に折れないようになっている。どんな攻撃を受けても傷一つ付かない。それは霊夢との戦いでもう証明されている。
「その刀は一体…………」
「凄いだろ? 木を殴っても傷一つも付かないんだぜ」
今度はこちらの番だ。
どうやら純狐は刀に気を取られているようだ。
俺は刀を投げた。純狐もまさか刀を投げるとは思っていなかったのだろう、刀に注目する。
俺がこの隙を見逃すはずがない。
俺は純狐の背後に回り込み、最初にされたように一撃入れてやった。
「…………なるほど」
「お前の力が少し分かった」
「お前の力は、本当に力そのまま、私より純粋な物のようだ」
「辰、もう休みなさい」
俺は刀を拾い鞘にしまった。
「じゃあ、もう休ませて貰うぜ」
「明日は決戦だからな」
ホールから出ていく。元々あまり物が無かった場所なので、殆ど汚れていない。
そのまま通路を通り俺に割り当てられた部屋に向かう。
俺は横になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さあ、準備は良い?」
霊夢が皆に呼び掛ける。
全員が頷くのを見ると、霊夢は純狐に呼び掛けた。
「さあ、紫達の元へ向かいましょう」
霊夢の言葉を聞いて、純狐は振り返った。
「………さあ、行こう」
純狐は目の前の物体を見上げた。
機械のような無機質な物体だ。俺が見たことのあるような機械とはかけ離れた形をしているが、一体これは何なのだろうか。
「純狐、これは?」
俺が質問するよりも早く霊夢が質問する。
「月の民の叡知の粋を集めて創ったもの…………」
「空間に歪みを作り出し、他の空間へと繋げる装置だ」
まるで理解できん。
唯一分かるのは、これが紫や摩多羅の世界に突入する手段であることだ。
「さあ、準備しなさい」
「武器装備が全て持ってけるように、しっかり持つのよ」
純狐の言葉を聞いて俺は刀を握りしめた。
俺はこの刀一本で戦う。もっとも、それは俺が武器と言える武器を他に持っていないからだ。
俺のペアである永琳は回復も攻撃も出来るらしい。俺が傷付いた時は頼っても良さそうだ。
「さあ、賢者達の元へ!」
純狐のその言葉と同時に目の前の機械が音を立てる。
それと同時に俺の視界が曇りだした。
久々の感触だ。後戸の国へと出入りする時の何とも言えない感じだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺が目を開けるとそこは後戸の国だった。
しかし、前に来たときとは違い、辺りに浮かぶドアは全て閉じてしまっている。
「辰、大丈夫かしら?」
「永琳か。俺は大丈夫だ」
「ここ、どっちに行けば良いか分かる?」
「あっちだ。俺は何度もここに来てるからな」
今回も動きの流れを感じてその方向へ向かう。
「そう言えば、辰は賢者に会ったのかしら?」
「会ったとも。加護もくれたしな」
「加護………… もしかしたら、ここの賢者(摩多羅)が共犯なら、あなたは利用されてるかも知れないわね」
そうだろうか。
利用されていたとしても、俺の動きには障害はないし、倒せばそれで終わる。
「さて、結構進んだわね」
暫く進んだ。
今回もかなり長い。もしかしたら、運悪くこの世界の端っこに出てしまったのかもしれない。
「止まった方が良いよ」
突然声が聞こえた。
俺の正面に影が見える。
そのまま、姿を現した。
「確か、舞だったか」
「そうだよ」
「邪魔が入ったか………」
どうやら、二童子の片方に待ち伏せされていたようだ。
「舞、早すぎるでしょ」
…………どうやらもう片方も現れてしまったようだ。
俺は刀を抜いて呼び掛けた。
「摩多羅に用がある! 通してくれ!」
「無理よ。お師匠様に叱られるもの」
駄目か……………
「辰、これではっきりしたわ。悲しいけど、こっちの賢者も共犯ね」
「そうだな………… 恩人の部下を斬るのは心が痛いが、倒さないと通してくれなさそうだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ここ、変ね」
霊夢は呟いていた。
霊夢が変だと思った理由。それは、いきなり「ここ」に出てしまったからだ。
目が多数浮かぶ空間。確か、「スキマ」と言ったか。
「霊夢。賢者はどこに?」
「分からないわよ。取り敢えず、進みましょう」
そういって二人は進み始める。
「待ちなさい!」
「ここより先は通せないわ」
やはり現れる人物。
八雲紫の式である藍である。
「藍………… どきなさい!」
「無理な相談でしょう。私はここの守護を任されましたから」