4 ストゥルピツ・レテビリン
「さあ、弾幕の練習よ!」
「昨日何も無かったと思ったらこれか!」
昨日は何事もなく一日が過ぎたが、今日は忙しそうだ。
実際、昨日は霊夢のスペルカードだと言う「夢想封印」を見せて貰ったのだが、圧巻の一言だった。
霊夢によると、「追尾弾を沢山出してるだけ」らしいが、出来る気もしない。
「なあ、夢想封印は俺にも使えるのか? そのスペルカードを使えば出来るだろ」
「出来ないわよ。だから、ただの紙よ?」
「私のを再現しようとしたら、私と全く同じ力を持つ人間しか不可能だわ」
「さあ、練習練習!」
ああ、やはり楽にスペルカードを使えるようにはならないようだ。
「まず、どんな弾幕を生成するか決めるの。ちょっと、弾放ってみて」
「えっと、どうしたら?」
「そうね、辰なら力を固めた方が良いかしら」
「辰の力は単純な力の集合体に近いのよ。誰かさんに喜ばれそうな位に」
「誰かさん?」
「で、空を飛ぶのと同じ感じで力を固めて放出するの。やってみて」
無視か。
まあ、取り敢えずやってみよう。
「こうか?」
「そう、良い感じ」
俺の手のひらから赤い弾が出現し始める。
しかし、どんどん弾が大きくなっていく。
「これ、まずい?」
霊夢の方に顔だけ向いて話す。
「上に押して!」
言われたように上を向いて押し出す。
空高く飛んだ弾は空中で爆発した。
「爆発?」
「…………力を込めすぎたのよ」
「次は少し力を抜いて」
「分かった」
「念のため、上を向いてね」
上に向かって手を向ける。
先程とは違い、少しずつ力を込めていく。
「そこで止めて!」
言われた通りに力を止める。
手から直接力を感じる。
「結構密度が凄いわね………」
「それがどうかしたか?」
「それだけ力が込められているのよ」
「これ、爆発しないよな」
「しないと思うわ。それに、今だったら操作出来るんじゃない?」
「その力も自分の物だと思って、体の中を血のように巡るイメージで動かすのよ」
血のように巡る、か。
そうだな…………
弾に意識を向ける。
もしかして、ロケットみたいな感じで行けるのか?
「辰! あれは一体………」
予想通りだ。弾の外側部分を動力エネルギーとして放出する。
こうすれば、かなりの速さで飛ばすことが出来る。
「何って、弾幕のエネルギーを一部放出しただけだ」
「そうか、辰は弾幕のエネルギーが濃いから………」
霊夢の方を見ると、何やら真似しようとしているみたいだ。
「横!」
いきなり叫ばれる。見ると、俺の目前まで弾幕が迫っていた。
言われた通りに横に飛んで避ける。
「失敗したわ……… 私の弾幕だと、エネルギーが足りないみたい」
「じゃあ、さっきのは?」
「あなたが言うようにやってみたのだけど………… 弾幕一つのエネルギーが薄いみたい」
「へえ、だから暴発した?」
「そうね………… 辰、さっきの感覚覚えてる? もう一度やってみて」
「そうだな」
もう一度さっきと同じように力を込める。今回は高速に込めれないか実験した。
どうやら、実験は成功だ。一瞬にして赤の弾が手に現れる。
「もう一度飛ばしてみて?」
今度も高速の実験だ。先程と違い一気にエネルギーを放出する。
爆発しないように一点だけに集中させる。
「凄いわ! もう高速で飛ばせるようになったのね!」
ロケットの原理について知っておいて良かった。
弾幕にも応用できたのか。
「じゃあ、次は沢山飛ばしてみましょう!」
「同じものを複製するイメージよ。空間にエネルギーを固めて」
同じように、か。
さっきと同じ物を複製…………
つまり、一つの形式として弾幕を記憶する訳か。
記憶の中から複製する。
一度並列に並べてみる。
「これで合ってるのか?」
俺の出した弾10個を霊夢はまじまじと見詰める。
「凄いわ………本当に複製しちゃった」
「ねえ、飛ばせる?」
「ああ」
今度はすべてに命令をイメージする。
同時に同じ方向へ。
弾が同じ方向へ向かっていく。
しかし、同じ方向で同じ場所とは…………
加速された弾幕が集まる。
そして、触れあった瞬間に弾幕が爆発して飛び散った。
何百個にも増えた弾幕がレーザー状に拡散する。
「失敗か?」
「いいえ。むしろ大成功よ」
「力の拡散に成功したのだから、もうスペルカードを作れるわ」
そうか、今のは無意識に力を拡散していたのか。今思えば、弾幕は自分の意思で動かせていた。
最初の爆発のイメージが有ったのかもしれない。
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「出来たのかしら…………」
「まあ、ある程度の弾幕は放てるぞ」
あれから数時間掛けて練習した。
今は、かなりの速度で弾を操れるし、後少しでスペルカードを作れる程だ。
「スペルカード作るのか?」
「そうね、作った方がいいわ」
「そうか。じゃあ、紙くれないか」
「分かったわ」
霊夢が紙を取りに戻る。
俺が作ろうとしていたのは爆発系のスペルカードだ。
拡散弾を複数放ち、集合させて意図的に爆発させる。どちらかと言うと、殺傷能力が高くなる。
日本でこんな物を作っていたりしたらすぐさま逮捕だが、ここではこれが普通らしい。
「持ってきたわよ」
「ああ」
「で、名前は?」
「そうだな……… 少し考えさせてくれ」
さて、何にしようか。
「よし、決めたぞ」
「何にしたの?」
「こいつの名前は_____」
「"ストゥルピツ・レテビリン"だ!」
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「ストゥルピツレテビリンねえ」
「また単純な物を…………」
「それにしても、符号は付けなくてもいいの?」
「言っていたじゃないか。純粋な力で出来たスペルカードは符号を付けない方が多いと」
「そうよね………… それにしても、誰かさんが喜びそうなネーミングね」
「なあ、誰かさんって………」
「さあ、この辺りでご飯にしましょう」
「また無視か………」
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「ほう、もう辰は弾幕を生成出来るようになったか」
「これからが楽しみだ…………」
「辰にはまだ成長の余地が有る」
「能力なしであそこまでやって見せたのだからな」
ちなみにストゥルピツ・レテビリンとはラテン語の「strepitu terribili」のもじりです。直訳は「酷い爆発」になります。