異史「東方憑依華」ACT4
「セイッ!」
俺は刀を振り抜く。
負のオーラを掻き消し、紫苑へ攻撃が出来るようにする。
しかし、溢れるオーラは弱まりはしない。
今も、徐々に勢いが強くなってくる。
しかし、当の紫苑本人は隙だらけだ!
「今だ!」
俺は刀を紫苑目掛けて振った。
綺麗な一撃だった。
______それが、峰で打っていなければ。
俺は忘れていたのだ。
刀を持ち替えた時に、刀の向きも逆になっていたことに。
紫苑に強く当たった刀は、そのまま振り抜かれ、俺の手元に戻ってくる。
そして、紫苑は気絶している。
峰で打ってしまったものの、気絶させることが出来たのなら好都合だ。
「さて、霊夢に引き渡すか」
俺は紫苑を捕まえるべく近寄った。
しかし、その瞬間止まっていた筈のオーラが、勢いよく広がっていく。
俺の予想を越える量のオーラが放出され、俺はそれに飲み込まれてしまった。
そして動けるようになったときにはそこは広場では無かった。
「ここどこだよ……………?」
そこは青のような、紫のような色に染まった空間だった。
そして、その空間の中からは絶えず負のオーラが放出されている。
文字だった。
負の思念を表す文字の塊が、こちらに向かってくる。
俺はそれを防ごうとしたが、途端に体から力が抜けていく。
まるで、オーラに力を吸われているかのようだった。
あれこれ考えている内に俺の体はバタッと倒れ、意識を手放しそうになる。
「くっそ…………!」
俺は意識を集中させて能力を発動する。
負の思念を打ち消し、全て喰らい尽くす。
俺の能力は理に作用する。
負の思念のような、世界を形作る物にはとても効果がある。
俺は周りのオーラを全て消し、そのまま立った。
「さて、ここから出るには……………」
ここが何なのか全く分からない。
俺はこれまで様々な世界に行ったが、それでもこのような世界には来たことがない。
辺りから負のオーラが溢れていると言うことは、ここは紫苑が思念を溜め込む場所と言った所か。
それとも、負の思念によって作られた世界か。
どっちにしろ、俺にとっては不利でしかない。
絶えず負のオーラがあふれでているような世界に長居すれば、俺が死んでしまう。そうなる前に、脱出しなければならない。
負の文字による吸収は防げるが、この世界からは出れていない。
出る方法が有るとすれば、この空間の境界を破ることだが、その術を俺は知らない。
こういうことは紫とかが良く知っていそうではあるが、残念ながら紫とは連絡が取れていない。
あの戦い以降、紫は姿を消したままだ。
「セイッ!」
俺は刀を振った。
この刀なら、空間を斬ることも出来るんじゃないか?
そんな淡い期待を込めて振るった刀だったが、刀は空を切った。
駄目だ、この刀でも無理だ。
俺の能力を使っても空間は破れないし、最早手詰まりだ。
「畜生………………」
俺は諦めて横たわる。
どうやら、ここで一生過ごさなくてはならないようだ。
しかも、こうしている間にも紫苑は動き続けている。
異変を止める事は叶わなかった。
「………………なんだ?」
俺の真下で唐突に何かが開く音がした。
次の瞬間、俺の目に飛び込んできたのは紫の姿だった。
「間に合ったわ」
紫がそう言った。
「………………スキマか。便利なものだな」
「そうね………………じゃなくて、無茶しないで」
「あの姉妹についてはもう気付いていたけど、対策は出来なかったのよ」
「ねえ、どうやって追い詰めたのかしら」
俺は全てを語った。
「そうね、姉の方を妹のマスターにする……………」
「スレイブになって身動きが取れなくなった妹は置いておいて、姉の方を倒す………………」
「強制完全憑依の応用のようね。しかし、あの世界に囚われれば終わり…………」
「どうやら、私達には実行不可ね」
俺はそこまで聞いて付け加えた。
「誰か一人を囮にして閉じ込めさせ、油断したところを叩くのはどうだ?」
「いい案だけど、閉じ込められた本人の体力が持つかどうか分からないわ」
俺達の会話はそこで終わった。
紫が手を振って消えたからである。
やがてこの異変は解決されるのだが、それは次に起こる大異変と比べれば小さな物だった。




