40 その神は"死"
「行くなら、あっちだよ」
少女が指差す方向。
そこには、虚無が揺らいでいた。
完全な暗闇であるはずのこの場所に、微かな空間の歪みが見てとれる。
恐らく、空間を繋げたことによる空間の歪みだろう。
あるいは、俺達に分かりやすく説明するための演出か。
「ありがとよ。じゃあ、ぶっ倒しに行ってくるぜ」
「さあ、辰。行きましょう」
「感謝するぞ、神々の親よ」
俺は空間の歪みに飛び込んだ。
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「ごはっ!」
俺は思わず咳き込んだ。
いきなり襲ってくる不快感。
ここに来た途端に感じ始めた。
「何よ、ここ……………」
そこは異形の空間だった。
様々な空間がいれ混じっている。
ノイズのようにざらつく空間の中は、確実に形を保っているものの、その安定性は無いに等しいだろう。
「ここが、神の国か……………」
「いや、こんな物を神の国と認めてはならん」
話すことで精神を落ち着ける。
さっきから明らかに心拍数が上がっている。
まるで、未知の恐怖に出会っているかのようだ。
「……………進みましょう」
俺達は異形の空間を歩く。
この空間は一直線に続いている。
この先に居るのだ。
俺達が倒すべき敵は………………
「行きましょう……………… 辰、右!」
俺は咄嗟に左に避けた。
その横を、何かが通りすぎる。
まるで、空間を飲み込まれたようだった。
「やるな、お前達……………」
目の前に現れたのは両腕の無い男だった。
いや、違う。
両腕はある。
しかし、その腕は男とは繋がっておらず、宙に浮いている。
「俺はモース。"死"を司る最高神だ」
「モース………… ラテン語の"死"を捩ったか?」
摩多羅の問いにモースは答えた。
「この名は俺の父から賜ったものだ………………」
「聞くなら父に聞け」
「………………一つだけ言えるのは、俺の名はラテン語が存在するより前から有ると言うことだ」
落ち着いた声でモースは言う。
その間にも、宙に浮いている腕は俺達を向いている。
「……………父と言ったな。あれはどちらかと言えば母なのではないか?」
摩多羅が適当に言った。
時間稼ぎでもするつもりだろうか。
どちらかと言えば、話したいだけのようだが。
「俺にとっては父だ」
「貴様ら、もしや…………」
摩多羅が一瞬黙った。
「いけねえ、俺は任務を遂行しないとな」
「お前達に正しき死をくれてやろう」
「見るが良い、正しき死の絶対なる力を…………!」
その言葉と同時に黒色のオーラがモースから溢れだす。
明らかに触れたらヤバい!
「避けろ!」
「こいつは負のオーラの圧縮体だ!」
摩多羅が叫ぶ。
俺は言われる通りにオーラを避け、能力の発動態勢を整える。
これは負の概念の固まりだろう。
もしそれが正しければ、俺の能力で完全に消せるはずだ。
「行くぞ!」
俺は皆を待避させて能力を発動させる。
俺は手を翻し、オーラを放出させた。
負とは反対の正の属性を付与したオーラだ。
そのオーラは目映いばかりに光輝き、漆黒のオーラを掻き消していく。
「何だと……………!」
「俺は正の属性を使えるやつが居るなんて聞いてないぞ!」
今一瞬、さりげなくとんでもない事を言われたような気がしたが置いておこう。
今はそれどころじゃない。
「いつまでもやられてばかりじゃねえぞ!」
モースの放つオーラが更に増し、濃くなってきた。
俺は予想する。
最高神がこれだけで終わるはずがないと。




