3 帰還
さて、そろそろここからも出ていかなくてはならない。
この二童子とかいう二人の少女に付いていってるが、かなり遠い。
前にここから出たときは摩多羅のすぐ後ろの扉から出ていったが、今回はどうも遠い。
「今から行く扉ってどこに繋がっているんだ?」
「確か、博霊神社だったかな」
前は幻想郷への扉を潜って博霊神社の付近の森に出たが、今回は博霊神社に直行するらしい。
そういえば、後ろから誰かが付いてきてる気がする。
前には二人が居るし、誰だろうか。
「って摩多羅?」
摩多羅だった。
まあ、当たり前だろう。この世界にはつい先程まで霊夢が居たが、もういない。つまり、ここに居るのは二童子と摩多羅、俺だけのはずだ。
「何でここに?」
「この二童子どもを見張りに来た」
「ポンコツ………?」
二人の方を見ると少し目を逸らしている気がする。
「それに、お前はまだ飛ぶことに慣れていないようだ」
「まあ、二日目だからな」
「お前は自分の力を制御することに慣れていないようだ。体を水平に保つ為の制御が甘い」
「そんな事を言われてもな…………」
「一回飛んでみろ」
「え? ああ、こうか」
一回飛んでみろと言われたので飛ぶ。
不思議なことに、体のバランスが取れている。ついさっきまでグラグラとしていたのに急にバランスが取れるようになった。
「私が支えているのだ。この感覚を忘れるな」
「感覚…………」
もう一回飛んでみる。次は、両側に同じように力を注ぐ。
「飛んでる?」
「飛んでいるぞ?」
「言っておくが、私は支えていない」
「じゃあ、これは俺の実力か」
「珍しいものだ。加護を受けたといえここまで早く飛べるようになる人間はそうそういない」
「へえ、珍しいのか」
「勿論だ。しかも、能力を使わず自分の力だけで飛ぶタイプの人間はな」
どうやら、相当早くマスターしてしまったらしい。
しかし、これでもまだ霊夢の速さには追い付けない。どうしたら良いのだろうか。
練習すれば追い越せるようになるかも知れないが。
「それにしても、能力が発現していないとはな」
「能力? 発現?」
「幻想郷の者らは殆どが固有の能力を持っている。そう、私もそこの舞と里乃も」
「じゃあ、俺は無いのか?」
「いや、ある筈だ。私の加護を受けたなら、今頃能力が発現していてもおかしくはない」
「発現……… つまり、俺ら外の人間は後天的に能力を得るのか」
「そうでないこともある。こっちに来たときから能力がある者も居れば、後から得る者も居る」
「へえ、そうなのか」
多分だが、俺は後者なのだろう。摩多羅の発言からして、俺は能力を得る余地が有るという事なのだ。
最悪、俺には能力が発現しない可能性もあるが、考えたくない。
「私は加護によって能力の発現を確定的に出来る。心配することはない」
良かった。俺は能力を持たない訳では無かった。
そういえば、あの二人はどこにいったのであろうか。確か、舞と里乃と言う名前だった筈だ。摩多羅の部下の筈だし、職務を放棄しているのか?
「二童子は既に仕事を済ませている。もう神社への扉は横だ」
横を見ると、扉が浮かんでいる。博霊神社にあったものと同じに見える。
「そういえば、あの二人は人間なのか?」
「…………もう今は違う」
「なぜ人間ではなくなった?」
「お前は知らなくても良い」
「…………そうか」
「今度こそ、じゃあな」
そう言って俺は扉に入った。
さて、三回目の扉だ。やはり、また気絶してしまうだろう。
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「…………え、大………」
「ねえ、大丈夫?」
「はっ!」
急に目が覚めた。
どうやら霊夢が側に居たらしい。
「驚かさないでよ、もう」
「いや、すまなかった」
えっとここは………どうやら、博霊神社の扉の付近か。
もう後戸の国への扉はなくなっている。
「私がケリを付けてきたわ。もう異変は収まった」
「そうか、ありがとう」
「礼なんて要らないのよ」
「それより、ごめんなさい」
急に謝ってきた。突然何だろうか。
「摩多羅に聞いてきたわ。あなたが本当に一日目だったこと」
「いや、良い。誤解が解ければそれで良い」
「…………あなたに話が有るわ」
「今日の夜、少し話したい事が有るのよ」
「…………? 分かった」
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「で、霊夢。話したいこととは?」
夕飯の後に霊夢に聞いてみる。
一体、何の事であろうか。
「………あの世界で、辰もあの二人を見たでしょう」
「ああ、舞と里乃か」
あの二人がどう関係しているのか。
「もうあの二人は人間じゃない」
「知ってる。もう聞いた」
「それなら話が早いわ」
「あなた、人間じゃなくなるかも」
「人間じゃなくなる? 一体何を言ってる」
「冷静に考えて。あの二人は、元は人間よ」
「ああ。それがどうかしたか」
「何で人間ではなくなったのか、考えてみなさい」
そうだな…………
あの二人を従えるような者かあるいは…………
「…………摩多羅?」
「多分、そうよ」
「けれどそれは俺には何も関係ないぞ」
「加護よ」
「加護?」
「そうよ。もしかしたら、摩多羅の力が作用して人間ではなくさせたのかも」
「つまり、俺も人間では無くなる可能性が?」
「そうね、少しだけ。あの二人ほど密接な関係じゃないから、ならないかも知れないけど」
「俺は俺だ。人間でなくても俺だ」
「…………そうね」
「私、似たような能力を知ってるわ」
「純化させる能力よ」
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「おはよう」
「ああ、おはよう」
三日目だ。昨日の夜は霊夢は誰とも話していなかった。
「そういえば、霊夢の能力は?」
今日もご飯を食べながら尋ねる。
「そうね……… 空を飛べたり?」
「え、それだけ?」
「一応他も持ってるけど………"夢想天生"とか」
「能力なのか? それ」
「スペルカードだと思うのよね」
スペルカードだと?
一体何の事であろうか。直訳で「呪文札」だって?
魔法みたいな物か?
「ああ、スペルカードルールの説明をしていなかったわね」
「スペルカードルールだって?」
「スペルカードルールは、幻想郷の決闘手段ね」
「基本的に、このスペルカードを宣言するのだけど」
そう言って霊夢が見せてきたのは一枚の紙。何やらごちゃごちゃと書かれている。
「これが?」
「そう、スペルカードよ。実際、ただの紙だけど」
「これを使って弾幕を放つ遊びよ」
「へえ、弾幕か」
「弾幕って言っても、避けれなかったりするのは駄目なんだけど」
「逆に言えば、避けれれば良いんだな」
「…………そうね。盲点だったわ」
「で、これは決闘手段だからあくまで遊びに近いのよ。死人は出るけど」
「死人?」
「ナイフとか」
「それ弾幕とは言えなくないか?」
「ルールには違反してないわ」
「なんなら、直接蹴ってもいいもの」
「……………」
「詳しい事は明日教えるわよ。あなただってここに居るなら覚えとかないと」