35 皆を守るため
「所詮模倣であろう?」
「本物には劣る」
摩多羅が弾幕を放つ。
「速くなってる…………」
あのとき………… 最初に、この弾幕を見たときとは明らかに違う。
速さが、劇的に速くなっている。
「…………本物?」
メモリアが言った。
戸惑いを隠せないようだ。
もしかして、こう来ることは予想していなかったのか?
「愚かな」
メモリアの弾幕が倍増した。
展開されている魔方陣から弾幕が更に展開されたのだ。
「なっ」
摩多羅が驚きを隠せない。
「もう、つまらないお遊びは終わりにしましょう」
メモリアがそう言い放った途端、霊夢に弾幕が飛んでいく。
明らかに霊夢のみを狙っていた。
「辰……………… ごめんなさい」
霊夢が諦めて静かに呟いた。
霊夢に弾幕が命中するまでの時間は非常に長く感じられた。
実際、時間は非常に長かった。
覚悟を決めていた霊夢が前を見ると、魔理沙と妖夢が弾幕を受け止めていたのだ。そして、二人の側には純狐の姿もあった。
「あなた達…………… なんで」
「霊夢、生きるんだぜ」
「あなただけは絶対に生きて下さい、霊夢さん」
「…………霊夢、すみません」
それが最後の言葉になった。
「嘘でしょ……………」
次の瞬間、弾幕に押し潰されるようにして三人は消えてなくなった。
それは三人の死を意味すると共に、神の強さを体現していた。
「馬鹿な」
摩多羅も口を開けていた。
一度に三人の仲間を失ったのだ、無理はない。
今の霊夢には怒りが満ち溢れていた。
呆気ない最後だった。音もなく消えていった三人を、霊夢はただ見ていることしか出来なかった。
何年も共に戦い続けた仲間も居た。時には仲間、時には敵として戦った三人の少女は、霊夢にとって代わりにならない存在であった。
霊夢は自分自身の弱さが憎かった。
「返しなさい………………」
霊夢の口から言葉が溢れた。
「みんなを…………… 返しなさいっ!!!」
霊夢が叫んだ瞬間だった。
辺りが崩れ落ちるようにして消え去り、暗闇が現れたのだ。
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「…………ここは、どこかしら」
霊夢は辺りを見回した。
しかし、そこには闇しかなかった。
浮いているのか、立っているのかも分からない。
「……………ねえ」
霊夢は不意に声を掛けられ、振り返った。
しかし、そこには誰もいない。
だが、声が響いている。
「誰? 出てきなさい」
霊夢が言った。
しかし、謎の声の主は出てこようとはしなかった。
「君はまだ力が足りないよ。今、姿を見せても意味がない」
暗闇に響く声は少女のような高い声だった。しかし、何処か異質なオーラを纏う声だった。
「何処からここに入ったのか知らないけど、君はここに入ってこれるだけの資格はあるようだね」
「何を言っているの?」
霊夢は辺りを見ながら言った。
「ふうん………… 感情の力で空間を歪めたんだ」
「いや、システムの検知に引っ掛かったのかな」
「まあ、そんな事はどうでも良いね」
謎の声は一人で喋り続けた。
「さて、ここに来たんだし、折角だから何かしてあげようかな」
「何かって………… 何?」
霊夢は声に向かって言った。
「例えば、望みを叶えてあげたり」
それを聞いた瞬間、霊夢の謎の声への不信感が倍増した。
望みを叶えるなどと言うのは出来ないのだ。霊夢は実際にそう言って騙した奴を知っている。
「そうだねえ………… 人を蘇らせたりも出来るよ?」
「馬鹿言わないで。人を蘇らせる事は出来ないのよ」
「いや、システム弄るだけだから簡単だよ?」
霊夢はその言葉を聞いて悟った。
この声の主はシステム内の上位存在だと。
システムはデータの塊であり、その実態は外の世界の式神と同じような物だと教えてくれたのは摩多羅だった。そして、システムの中では死人を蘇らせる事は容易いのだと。
「いいえ、蘇らさなくても良いわよ」
霊夢は違った。
死を受けとめ、それを覆そうとはしなかった。
「じゃあ、どうするの?」
声に霊夢は叫んだ。
「私は、皆を守りたいの」
霊夢の決意だった。仲間を失ってもなお、人々を守るために戦う。それが霊夢の意思であった。
「ふうん…………… じゃあ、力を与えてあげよう」
「そうだねえ、権限(priority)4くらいかな?」
霊夢は黙ってぞれを聞いていた。
皆を守るため、霊夢は謎の声の持ち出した話を受け入れたのだ。
「頑張ってね? そうじゃないと、つまらないから」
霊夢は無言で頷くと、消えていった。
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霊夢が消えてから数秒後、霊夢は再び現れた。
「……………それは、一体………」
摩多羅が口を開けて驚いていた。
霊夢から圧倒的な力が溢れ出していた。
「さあ、行くわよ。今度こそ、守って見せるわ」




