34 「記憶」
「行くわよ!」
霊夢の号令で全員が動き出す。
広大な空間となった大図書館だが、中心部しか開けていない。
外側にはまだ隠れられる場所がある。
「なるほど、そう来ますか」
メモリアが再び手を掲げた。
すると、本棚が動き出したのである。
「この動き………… 挟み込むつもりだぜ!」
手加減は一切無かった。
巨大な本棚で圧殺しようとしているのだ。
全員で抜け出し、改めて正面で構える。
メモリアが手を下ろした時には既に隠れられる場所は無かった。
しかし、広大な空間は出来た。
高さはゆうに100メートルを越しているだろう。
元々の大きさは勿論、メモリアの地形操作で空間が広がったのだ。
「さあ、もう逃げれませんよ」
メモリアが静かに告げる。
次の瞬間、霊夢達は地を蹴っていた。
「食らいなさい!」
霊夢のお祓い棒がメモリアに振るわれる。
「遅いですね、そんなものですか」
霊夢にも予想できなかった。
まさか、お祓い棒をつかみ、そこを重心として霊夢を降り飛ばすとは。
更にそこにメモリアの放つ鋭利な刃が追い討ちを掛ける。
流石に直撃は無かったものの、霊夢は大きく吹っ飛ばされる。
「行きます!」
妖夢の刀が迫る。
妖夢が一瞬の内に距離を詰めて攻撃を仕掛けていたのだ。
「脆いですよ」
メモリアが呟いた次の瞬間、妖夢の刀は粉のようになって消し飛んだ。
分かる人には分かっただろう。
そう、分子レベルでの構造破壊であった。
妖夢はもう一本の小刀を振るう。
しかし、こちらはリーチが短いせいか簡単に避けられてしまう。
そして、メモリアの手の動きと連動して地面がせりだした。
その地面は妖夢を吹き飛ばす。
「ふぐっ」
その様子を見ていたメモリアがため息を付いた。
「貴女方の力はその程度ですか………… 期待するまでもないですね」
その隙を見逃さぬと、魔理沙が遠距離からマスタースパークを放つ。
しかし、いとも簡単に結界が防いでくる。
「ええっ!?」
魔理沙が大きく叫ぶ。
驚きを隠せなかったのだ。
その隙は大きく、魔理沙はメモリアに直接投げ飛ばされてしまう。
軽く投げ飛ばしたように見えたが、その距離は80メートル。軽く、のレベルではない。
格が違いすぎる。身体能力からして、全てが。
勝ち目がまるでない。
「spell attack command:anarchy bullet hell」
「target:enemy unit」
「class3 priority unit call:execution」
摩多羅がコマンドを詠唱し、攻撃する。
唯一まともに攻撃が通るのだ、これを使わない筈がない。
「援護しましょう」
純狐が摩多羅の前方で構える。
摩多羅が攻撃する間、相手を引き付けるのだ。
「コマンドをただの神が? 興味深いですね」
メモリアがそれを見て呟く。
その直後、摩多羅にも理解できないコマンドが放たれた。
「Order in the name of "memory"」
「forget the world」
コマンドであることは理解できた。
しかし、1度も聞いたことのないコマンドであった。
突如、メモリアの背後に巨大な魔方陣と文字列が並ぶ。
文字列の明滅は繰り返され、魔方陣が変化していく。
魔方陣が回転し出した。
同時に、メモリアの体も宙に浮く。
「さあ、そのコマンドを見せて下さい」
メモリアが言うと同時に摩多羅の弾幕が放たれる。
リングがメモリアに迫り、切り刻もうとする。
しかし、メモリアの寸前で止まる。
見ると、メモリアの展開した魔方陣から、光が漏れ出ている。
止まっている原因は………… 本棚?
本棚が光に包まれて浮遊している。
そして、リングは消滅する。
同時に、本棚から一冊本が出てくる。
メモリアの手に乗ると同時に、本が開く。
「なっ…………」
思わず摩多羅は声を出していた。
開かれた瞬間、摩多羅の物と全く同じ弾幕が展開されたからだ。
魔方陣から一つ魔方陣が生まれ、弾幕の近くに浮遊する。
そして、小さな魔方陣が回転し出したかと思うと……………
その弾幕は猛烈な速さで襲いかかってきた。
「摩多羅、あれは吸収よ! 吸収したものを模倣するの!」
吹っ飛ばされてから立ち直った霊夢が、摩多羅に言う。
そう、このコマンドは攻撃ではない。
相手のコマンドを模倣し、反撃を仕掛ける物なのだ。
「ふん、所詮摸倣………… 私の前では無意味」




